小泉純一郎元首相が1112日、記者会見し、「原発即時ゼロ」を主張しました。
原発ゼロを主張する人は世の中に山ほどいますが、さすがに小泉氏は主張の仕方がうまいなあと感心させられました。
 
普通の人は、原発反対の理由として、安全性の問題を第一に挙げます。その次はコストでしょう。建設から廃炉までに膨大なコストがかかる一方、最近はシェールガス革命で火力発電のコストが低下しています。
しかし、小泉元首相はそうしたことには目もくれず、高レベル放射性廃棄物の最終処分場はどうするのかという一点に絞っています。
ここが小泉元首相のうまいところです。
 
安全性の問題は複雑です。専門家の意見を参考にしなければなりませんが、原子力ムラ寄りの専門家がいっぱいいますし、データにしてもそのままは信用できません。ですから、安全性について議論していくと、いつまでたっても結論が出ません。コストの問題も同じです。
その点、最終処分場の問題は明快です。あるのかないのかだけです。
 
フィンランドは地下520メートル、フランスは地下480メートルのところに最終処分場を建設中です。
日本でも「地下300メートル以上の安定した地層内に埋める」ということで候補地を公募していますが、まったく決まりません。そもそも日本に「安定した地層」があるのか疑問です。
 
2011年には、日米が共同でモンゴルに最終処分場をつくる計画があると報道されたことがあります。しかし、結局立ち消えになったようです。多額の経済援助を約束することでモンゴル政府は説得できるかもしれませんが、国民の賛成は得られないでしょう。
 
ちなみにアメリカも最終処分場がなく、核廃棄物をロケットに載せて打ち上げ、太陽に落下させるということまで計画したそうです。もちろん計画は中止になりました。打ち上げに失敗したら悲惨です。
 
ですから、「最終処分場はどうするのだ」と言われると、原発推進派はまともに答えられません。専門家がむずかしいことを言ってごまかすということもできません。ですから、小泉元総理はそこを突いたのです。
 
最終処分場が決まらないということは、原発反対派もほんどの人が知っているはずです。しかし、そのことを主要な反対理由にする人はあまりいませんでした。というのは、中間貯蔵所にずっと貯めておけば、問題の先送りができるからです。よくわかりませんが、数十年、もしかして100年以上先送りできるかもしれません。
ですから、安全性やコストの問題のほうが重要と判断していたわけです。
 
しかし、小泉元首相の判断は違いました。
大衆を動かすには、むずかしい安全性やコストの問題を議論するよりわかりやすい最終処分場の問題だけを議論したほうがいい――。
おそらく小泉元首相の判断が正しいのでしょう。
 
 
それから、小泉元首相は安倍首相に的を絞りました。
 
原発推進勢力は電力業界、財界、通産省、原子力の専門家、マスコミなど巨大ですが、小泉元首相は「安倍首相が決断するだけで原発ゼロは実現できる」と主張します。こう言われると、もちろん安倍首相にもプレッシャーでしょうが、大衆も乗りやすくなります。
というのは、人間は基本的に勝ち馬に乗りたいので、「敵は強大だが、がんばって勝利しよう」というよりも、「あとひと押しで勝利できる」といったほうがいいわけです。
 
かつて「郵政民営化が構造改革の本丸」と的を絞り、「郵政民営化さえすればすべてうまくいく」という夢を見させて大衆を動かしたのとまったく同じ手法です。
しかし、今回は「原発ゼロにすればすべてうまくいく」というような夢を見させるわけではありません。「原発ゼロ」が夢であり目標であるわけですから、今回の小泉元総理の手法に文句をつける必要はないと思います。
 
人間はなにか判断するときは総合的にしなければなりませんが、大衆を動かすときにはワンイシューに絞って訴えるという小泉総理のやり方は、政治家に限らず誰もが学ぶべきことかもしれません。