特定秘密保護法が成立しましたが、余震が続いています。
 
石破茂自民党幹事長は記者会見で「特定秘密を報道機関が報じた場合はなんらかの方法で抑制される」といいましたが、のちに「公務員は罰せられるが、報道した当事者は処罰の対象にならない」と発言を訂正しました。やはり石破幹事長は特定秘密保護法のことがろくにわかっていなかったということがわかりました。
 
安倍首相は臨時国会の閉会を受けて12月9日に記者会見し、特定秘密保護法について「私自身がもっと丁寧に時間をとって説明すべきだったと反省している」と述べました。なぜ丁寧に説明することができなかったかというと、やはり安倍首相も特定秘密保護法のことがろくにわかっていなかったからでしょう。
 
特定秘密保護法は情報公開についてなんの配慮もない欠陥法律です。そして、そのことをごまかす意図なのかどうかわかりませんが、きわめてわかりにくい法律です。
法案をつくった官僚は、政権側にもマスコミにも法案の概要を説明しますが、法案の欠陥や問題点は説明しません。マスコミや日弁連などが法案を読み込んで問題点をあぶり出すのに時間がかかり、それが反対運動の盛り上がりの遅れにつながりました。
 
自民党の国会議員から反対の声が上がらないのは情けないという声もありましたが、自民党の国会議員もよくわかっていなかったのでしょう。朝日新聞に書いてあることをそのまま信じることも立場上できませんし、では、自分で法案を読み込んで理解するかというと、そんな面倒なことは誰もしたくありません。
 
ところが、自民党の河野太郎衆議院議員が、法案成立後というタイミングですが、自身のブログに特定秘密保護法賛成論を書き、「BLOGOS」というサイトで紹介されたので、私も読みました。
河野太郎議員は反原発で、行政改革にも熱心で、自民党に置いておくのは惜しい政治家です。今回のブログの記事もなかなか説得力がありました。私は一瞬、特定秘密保護法賛成に宗旨替えしようかと思ったぐらいです。
 
河野太郎公式ブログごまめの歯ぎしり「特定秘密保護法について」
 
いろいろと勉強になるので、実際に読んでいただきたいと思いますが、一応ここで河野議員の賛成論の中心的な部分を要約しておきます。
現在は、秘密にするべき情報は、「特別管理秘密」として、法律に基づかず、明文化された規則もなく、各省庁でばらばらに指定され、期間の上限も定められていない。しかし、特定秘密保護法が成立すると、行政だけではなく大臣、副大臣、政務官という政治家が関与して「特定秘密」として指定され、期限も定められ、明文化された規則に従って運用される。特定秘密保護法が成立しないと、今の「特別管理秘密」がずっと続いていくことになるが、それがいいとは思えない――これが河野議員の主張です。
 
私は河野議員のブログを読んで初めて、行政の中で「特別管理秘密」なるものが指定され、運用されていることを知りました。こうしたことはマスコミはほとんど報道していないと思います。マスコミはもっぱら政治のことばかり報道して、行政がなにをやっているかを報道しないので、われわれは全体像を認識することができません。
 
で、河野議員の主張に思わず納得しそうになったのですが、よく考えると、河野議員の主張にはおかしなところがあります。
河野議員は、特定秘密保護法によって「特定秘密」が指定されるようになると、「特別管理情報」の制度はなくなるという前提で主張しています。しかし、これは河野議員の勘違いではないかと思います。
 
つまりここに特定秘密保護法の欠陥があるのです。特定秘密保護法には「特定秘密以外の情報は原則すべて公開する」とか「特定秘密以外に秘密を設けてはならない」という規定はありません。
ですから、特定秘密保護法によって「特定秘密」が指定される一方で、従来の「特別管理秘密」もそのまま存続していくことになるはずです。
 
「屋上屋を架す」という言葉がありますが、「『特別管理秘密』に『特定秘密』を架す」というのが特定秘密保護法です。あるいは、「秘密を入れた金庫の中にまた金庫をつくる」というたとえのほうがいいかもしれません。
 
従来の金庫は懲役1年だが(国家公務員法・地方公務員法の守秘義務違反)、中に新しくつくった金庫は懲役10年だから、それなりに意味があると主張する人がいるかもしれませんが、実は米軍に関わる情報を収集・漏洩する者は懲役10年という法律(刑事特別法・日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法)がすでにあるということを軍事ジャーナリストの田岡俊次氏が指摘しています。
 
日本に「スパイ防止法」がないは誤り 焦点ボケの「特定秘密保護法」は古色蒼然
 
欠陥法律である特定秘密保護法の罠に、石破幹事長だけでなく河野議員もはまってしまった格好ですが、それでも河野議員は「特別管理秘密」というものがあるという貴重な情報を提供してくれました。
 
しかし、「特別管理秘密」の範囲というのもよくわかりません。
2001年から施行されている情報公開法に基づいて行政機関に情報公開請求をすると、黒塗りばかりの書類が出てくるという話はよく聞きます。これは「特別管理情報」なのか、それともその外側にもっと秘密が設定されているのでしょうか。
 
こうした秘密の指定・運用の実態をすべて踏まえた上で特定秘密保護法の必要性を主張してもらいたいものです。