安倍首相の靖国参拝にはびっくりしました。まるで自爆攻撃のようです。安倍首相の行動を肯定する国は世界にひとつもありません。
なぜこんな愚かな行動をしてしまったのかについていろいろと考えてしまいました。
 
ところで、「国のために戦って亡くなった方を国の指導者が追悼するのは当然だ」という意見がありますが、これはまったく的外れです。誰も追悼することに反対しているのではありません。靖国神社に参拝することに反対しているのです。終戦記念日に政府主催の全国戦没者追悼式があるので、追悼はそのときにしているはずです。ほかにパフォーマンスをしたいなら、千鳥が淵戦没者記念墓苑に行けばいいのですし、これまでに国立追悼施設をつくるという手もあったわけです。
 
靖国神社はずっと軍国主義に利用されて、今も軍国主義肯定、大東亜戦争肯定の史観を持った施設です。A級戦犯を合祀したことで、そのことは国際的にも隠しようがなくなりました。安倍首相の靖国参拝を肯定する国がないのは当然です。
 
私は、安倍首相の靖国参拝の前から日本の政治の世界に妙な力学が働いている気がしていました。というのは、特定秘密保護法に反対する朝日新聞の論調が突然イケイケになったからです。
 
朝日新聞が特定秘密保護法に反対するのは不思議ではありませんが、それまで安倍批判は控えていたのに、急にせきを切ったように特定秘密保護法批判、安倍批判の記事が紙面にあふれたので、読者である私はびっくりしました。
朝日新聞だけでなく毎日新聞、東京新聞もよく似た論調であるようです。
 
マスメディアがこれだけ思い切った批判ができるということは、背後になにかの支える勢力があるに違いありません。人間もメディアも力学に従って動くものです。
 
私が最初考えたのは、官僚組織でした。
特定秘密保護法は警察官僚の権限を拡大しますが、一般の官僚にとってプラスのことはなにもなく(今でも都合の悪いことは十分に秘密にできているので)、懲役最高10年というマイナスがあるだけです。特定秘密保護法はジャーナリズムを萎縮させるとよくいわれますが、もっと萎縮するのは官僚です。ですから、警察以外の官僚組織が特定秘密保護法をきっかけに安倍政権に反旗をひるがえしたので、朝日新聞などがイケイケになったのかと思いました。
 
それと、もうひとつの可能性は、アメリカが反安倍政権の態度を固めて、朝日新聞などがひそかにそれと連携しているのではないかということです。安倍政権があまりにも右翼的で、中国、韓国とうまくやっていけないことにアメリカがキレたのではないかと思いました。
 
それにしても、朝日新聞の安倍政権批判は、「安倍政権は戦前のような日本にするつもりだ」とか「自由にものもいえない時代がくる」といった昔ながらの批判で、こういう批判で効果があるのかなと思っていたら、安倍政権は防衛費の増額、共謀罪創設の検討、韓国軍への銃弾提供、そして靖国参拝と、朝日新聞の批判の通りのことをしてきました。
たとえていえば、朝日新聞が昔ながらのやり方で定点射撃をしていたら、ちょうど弾の当たる位置に安倍政権が動いてきたという格好です。
 
いや、これは皮相な見方です。
正しくは、たとえば高射砲で高空を飛ぶ飛行機を撃つときは飛行機の動く先を狙って撃つのと同じで、朝日新聞は安倍政権の動く先を読んで、そこに向けて批判の弾を撃っていたのです。
 
安倍首相は靖国参拝後、「恒久平和への誓い」と題した談話を発表しましたが、同時に談話の英訳文も発表しました。事前に準備がされていたことがわかります。そして、参拝と同じ日に在日米国大使館も「米国政府は失望している」という声明を発表しました。
ということは、安倍政権とアメリカ政府は事前にいろいろとやり取りをしていたのでしょう。その過程で、アメリカは安倍政権に愛想をつかし、そのことを知った朝日新聞などマスコミが一気に安倍政権批判を始めたというのが真相ではないでしょうか。
 
もちろん安倍首相はアメリカに逆らおうという気持ちがあったわけではありません。朝日新聞はこう書いています。
 
 
27日、首相官邸で記者団の取材に応じた首相自身もこう語るだけだった。「戦場で散った方々のご冥福を祈って手を合わせる。世界のリーダーの共通の姿勢だ。そのことを理解してもらうよう努力したい」
 
 説明を尽くせば、靖国参拝を米国は理解してくれる――。安倍晋三首相はそう思っていた節がある。
 
 「靖国参拝の問題は、米国人の立場に置き換えて考えてもらえればと思う」
 
 5月、首相は外交評論誌「フォーリン・アフェアーズ」のインタビューを受けた。首相はそこで、米大統領が戦没者を追悼するアーリントン国立墓地を引き合いに、現職首相が靖国に参拝する正当性を主張した。南北戦争の南軍の兵士も埋葬されている同墓地への追悼が奴隷制度の肯定に当たらないとする米大学教授の指摘を引用し、「靖国参拝も同様の議論ができる」とも訴えた。
 
 だが、首相の主張は米側に受け入れられなかった。
 
靖国神社はあくまで軍国日本を肯定する思想の施設ですから、アーリントン墓地とは違います。
 
これまで日本の右翼政治家は、軍国日本を肯定していると思われると具合が悪いので、靖国神社参拝を外国における戦死者追悼と同じだとごまかしてきました。安倍首相はこのごまかしを自分で信じ込んでしまったのでしょう。「自分の嘘にだまされる」とはこのことです。
 
安倍首相はこれまで、集団的自衛権行使容認、日本版NSC設置、辺野古移設推進などでアメリカに忠勤を励んできたので、アメリカはわかってくれると思ったのでしょうが、それはまさに日本人的な“甘えの構造”です。
  
安倍首相の靖国参拝で明らかに安倍政権の潮目は変わりました。アメリカの支持があるときの日本のマスコミの政権批判は強力です。「安倍首相は自分の信条のために国益を損ねた」という批判に安倍首相はどこまで耐えられるでしょうか。