やしきたかじん氏が1月3日に亡くなりました。
テレビが政治を動かす時代を象徴するような人物だったと思います。
 
最近は東京でたかじん氏の番組を見ることはまったくできないのですが、昔は見ることができました。テレ朝で深夜にやっていた「たかじんnoばぁ〜」と「M10」です。当時、深夜にやっていたバラエティ番組は少なかったので、私はほとんど見ていました。ウィキペディアに「味の素激昂事件」と書かれている、生放送中の料理の場面で味の素がないといって激昂し、番組を放棄したという出来事も、私はリアルタイムで見ました。
 
その後、たかじん氏は東京の番組にはまったく出ず、自分の番組を東京で放映することも拒否していたといいますから、東京への拒否感情はかなりのものです。いっしょに番組に出ていたトミーズ雅氏がその後、テレ朝でトミーズの冠番組をやるようになったことを見ても、たかじん氏の性格の偏りがわかります。
 
私はたかじん氏の番組をおもしろく見ていたにもかかわらず、たかじん氏という人間は好きではありません。
「たかじんnoばぁ〜」にMr.マリック氏がゲストとして出たとき、たかじん氏がMr.マリック氏にまったく話をふらないので、Mr.マリック氏は番組の最初に飲み物を注文するひと言を発しただけで、最後までなにもしゃべらないということがありました。Mr.マリック氏は話すのが苦手なのかもしれませんが、一応ゲストとして出ているのですから、ホスト役のたかじん氏は「これについてマリックさんはどう思いますか」などといって話を引き出すのが役割だし礼儀です。おそらくたかじん氏はMr.マリック氏が嫌いなのでしょうが、そういう感情を番組の中でもろに出すところは好きになれません。
 
一方、たかじん氏はいろいろな人の世話をしたり引き立てたりして、いい人と評価する声も多いようです。
この理由は容易にわかります。たかじん氏は、自分のテリトリーの中の人間には面倒見がよく、テリトリーの外の人間にはきびしいのです。これはヤクザの行動原理と同じで、ヤクザは仲間とは親子や兄弟のように強く結びつきます(私はヤクザだから悪いというふうには考えていません)
 
たかじん氏は好き嫌いの感情が強く、敵味方をはっきりさせる性格です。こういう性格がテレビ番組づくりにはいいのでしょう。とりわけ毒舌を吐くところに一般の人たちは共感して、うっぷん晴らしをしていたと思われます。
また、「たかじんのそこまで言って委員会」にほぼレギュラーのように出演していた故三宅久之、橋下徹、勝谷誠彦、辛坊治郎の諸氏もきわめて攻撃的な発言をする人たちで、こういう人たちを自在にあやつるのがたかじん氏のうまいところでした。
 
テレビの人気者にはこういうタイプの人が多いと思います。たとえば、ビートたけし氏、みのもんた氏です。
 
ビートたけし氏は毒舌家で、かつてはフライデー襲撃事件を起こし、暴力的な映画を撮ったりしていますが、軍団など身近な人間には思いやりがあるらしく、最近は“いい人伝説”がいっぱいあります。
 
みのもんた氏も毒舌家ですが、銀座へ遊びに行くときはいっぱい人を引き連れていき、みんなにおごるそうです。
 
こうした毒舌家は一歩間違えると、人にいったことが全部自分に返ってきます。みのもんた氏がそうです(あと、辛坊治郎氏、島田紳助氏も同じでしょう)
 
ただ、みのもんた氏の場合、次男が窃盗未遂で逮捕されたことがきっかけですが、この次男は最終的に不起訴になりました。キャッシュカードを盗んだということですが(本人は落ちているのを拾ったと主張)、暗証番号を知らなければ引き出せないのですから、この容疑自体が不可解で、現行犯でないのに逮捕したのも普通でない気がします。
みのもんた氏は年金問題や原発事故などできびしく政府を追及していたので、警察の行動にそうした政治的な意図のあった可能性が大いにあります。
 
私の見るところ、たかじん氏やビートたけし氏は政府批判、権力批判をほとんどしません。たかじん氏はヤクザとの交遊がうわさされながら問題にならなかったのには、政府批判をしない姿勢が身を助けた可能性があります。
 
たかじん氏の番組から育った政治家が橋下徹大阪市長です。つねに攻撃的な言葉を吐き散らして人気を得るという手法はたかじん氏の番組で学んだものでしょう。
しかし、慰安婦問題では、番組内でしか通用しない論理が国際社会でも通じると勘違いして、墓穴を掘ってしまいました。
 
安倍首相もたかじん氏と交遊があり、たかじん氏の死についてフェイスブックでコメントを発表しています。
安倍首相もたかじん氏から攻撃的な発言で人気を得るという手法を学んだということは十分に考えられます(2ちゃんねるからも学んでいるみたいですが)
 
東京に住んでいる人は、やしきたかじん氏のことをまったく知らない可能性がありますが、タレントとしてはきわめて成功した人で、日本の政治にも大きな影響を与えた人です。
しかし、政治への影響は残念ながらいいものではなかったといわざるをえません。
やしきたかじん氏のご冥福をお祈りします。