NHK会長に就任した籾井勝人氏は125日、就任会見を開き、慰安婦問題について「この問題はどこの国にもあったこと」「ヨーロッパはどこでもあった。ドイツやフランスにはなかったと言えるのか。なぜオランダには今も飾り窓があるのか」などと述べました。
 
このあとの記者とのやり取りはこうです。
 
――証拠があっての発言か。
 
 慰安婦そのものは、今のモラルでは悪い。だが、従軍慰安婦はそのときの現実としてあったこと。会長の職はさておき、韓国は日本だけが強制連行をしたみたいなことを言うからややこしい。お金をよこせ、補償しろと言っているわけだが、日韓条約ですべて解決していることをなぜ蒸し返すのか。おかしい。
 
 ――会長の職はさておきというが、公式の会見だ。
 
 では全部取り消します。
 
――取り消せない。
 
 
NHK会長として会見をしているのに、個人的な意見を述べてしまったわけで、公私の区別がついていないわけです。
 
これは日本の右翼の特徴です(籾井勝人会長は安倍首相のお友だちの輪の1人です)
 
要するに、個人的な利益追求と国益追求の区別がついていないのです。そのため、たとえば日韓における慰安婦問題に個人的な性差別意識を持ち込むということをしてしまいます。
そうした議論を繰り返しているうにち日本の右翼の議論はガラパゴス化して、国際的にまったく通用しないことになっています。
 
しかし、日本にいると、それがなかなかわからないようです。そのため橋下徹大阪市長は、慰安婦問題でのおバカ発言が世界的に批判されて、その結果、国政での存在感を失ってしまいました(国際社会から相手にされない政治家は国政でも重要な地位につけないのは当然です)
 
菅官房長官もおバカ発言をしました。1月20日の記者会見で、伊藤博文を暗殺した安重根の記念館が中国のハルビン駅に開設されたことに抗議し、「安重根は死刑判決を受けたテロリストだ」と述べたのです。
安重根の記念館ができたことに抗議する必要があるのかも疑問ですが、「テロリストだ」といえば反発されるのはわかりきっています。安重根は韓国にとっては民族独立の英雄だからです。
「死刑判決を受けたテロリスト」というのは日本だけで通用する論理です。日本の右翼メディアにずっぽり浸かったために、橋下大阪市長と同じに、それが国際的にも通用すると思ってしまったのでしょうか。
 
そして、安倍首相もこのところおバカ発言を連発して、国際社会に波紋を広げています。
 
安倍首相はダボス会議に出席したとき、各国メディア幹部との会合において、中国メディアから「戦争犯罪者を英雄だと思っているのか」と質問され、「そこ(靖国神社)にはヒーローがいるのではなく、戦争に倒れた人々の魂があるだけ」と答えました。
 
これには日本の右翼もびっくりでしょう。
靖国神社にいるのは「英霊」です。これは一般的な「霊」とは違って、「英雄の霊」ということです。
たとえば「肉弾三勇士」の英霊もいるのですから、それだけでも「ヒーローがいるのではなく」というのは間違っています。
 
このとき安倍首相は「国のために戦った人に手をあわせるのは、世界のリーダーの共通の姿勢だ」とも語っています。
「手をあわせる」という表現は間違っているとして、要するに靖国神社は無名戦士の墓と同じようなものだといいたかったのでしょう。そのためヒーローはいないと、靖国神社をおとしめるようなことをいってしまったのです。
 
「外国のリーダーも無名戦士の墓などに訪れるのだから、日本のリーダーも靖国神社に参拝するのは当然だ」というのが、右翼が国内で反対派に対して行っていた主張です。安倍首相はそれを外国人にわかるようにいおうとして、「ヒーローはいない」などというへんなことをいってしまったのでしょう。
 
安倍首相はまた、このように語りました。
 
 安倍首相は「日本と中国が尖閣諸島を巡り武力衝突する可能性はあるか」との質問に、「軍事衝突は両国にとって大変なダメージになると日中の指導者は理解している」と説明。そのうえで「偶発的に武力衝突が起こらないようにすることが重要だ。今年は第1次世界大戦から100年目。英国もドイツも経済的な依存度は高く最大の貿易相手国だったが、戦争は起こった。偶発的な事故が起こらないよう、コミュニケーション・チャンネル(通信経路)をつくることを申し入れた」と述べた。
 
今の日中関係を第一次世界大戦前の英独関係にたとえたことが世界に衝撃を与えました。
 
この安倍首相の発言については、通訳が英独関係の説明に「我々は似た状況にあると思う(I think we are in the similar situation)」という言葉を付け加えたので、それが誤解を招いたという説がありますが、安倍首相も似た状況にあると思って英独関係をたとえに持ち出したのですから、通訳は間違ってはいません。むしろ練達の通訳というべきでしょう。
なぜ通訳が自分なりの言葉を付け加えたかというと、安倍首相が第一次世界大戦前の英独関係を持ち出したことに、その場の人たちが怪訝な顔をしたからでしょう。
つまり、安倍首相は当たり前のことをいっているつもりでしたが、外国人には当たり前ではなかったのです。
 
日本の右翼は戦争についての知識を誇る傾向があります。麻生財務大臣の「ナチスの手口に学べ」発言もそうですが、自分たちは平和ボケした左翼とは違うんだといいたいのでしょう。
 
海外のメディアは、安倍首相が武力衝突の可能性について「もちろんない」などといわなかったとして、戦争の可能性があるという報道をしています。
安倍首相は「偶発的な事故が起こらないよう、コミュニケーション・チャンネル(通信経路)をつくることを申し入れた」と語ったことで十分だと思ったのかもしれませんが、戦争を始める側はつねに「われわれは平和への努力をした」ということを口実にするのですから、この言葉はむしろ逆効果です。
 
安倍首相はダボス会議に出席して、日本への投資を呼び込もうとしたのでしょうが、戦争の可能性を示唆してしまっては失敗でした。
 
 
右翼は自分の主張を通すためにごまかしの論理を使い、そのうちそのごまかしの論理に自分もだまされるということを繰り返してきました。
その最たるものが日米安保条約の解釈です。
日米安保条約はもともと、日本がアメリカに基地を提供し、アメリカは日本の防衛義務を負うということで双務的な条約ですが、国内に安保反対勢力が強いので、右翼は「安保条約があるから日本は防衛費が少なくてすみ、そのおかげで経済成長をしてきた」というふうに、安保条約は日本にとって利益だと宣伝してきました。
これは方便として国内でいっている限りは問題ないのですが、おそらく自民党の政治家などがアメリカに対しても、半ばリップサービスでいうようになったのでしょう。いつのまにかアメリカで日本の安保タダ乗り論が広がってしまい、日本は思いやり予算をアメリカに支払うなど、さまざまな面で不利益をこうむってきました。
 
最近は中国と韓国が国際発信力を強めているので、日本の右翼のおバカ発言は格好の餌食です。
日本の右翼はもうちょっと賢くならないといけません。