日本テレビのドラマ「明日、ママがいない」の第3話が1月29日に放映されましたが、番組提供のスポンサー8社はすべてCMを自粛したということです(番組提供ではないのか、数社のCMは見られました)。最後まで放映されるか危ぶまれますし、あだ名で呼ぶシーンを少なくするなど、ドラマの内容が変更されるという話もあります。
これはまさに表現の自由の侵害であり、知る権利の侵害です。特定秘密保護法に反対した人たちがここで黙っているとすれば、おかしな話です。
 
それにしても、児童養護施設側の手口は悪質というしかありません。
 
「明日ママ」見て女児が自傷行為か
 全国児童養護施設協議会は29日、日本テレビの連続ドラマ「明日、ママがいない」の放送を見た児童が不安を訴えるなど実際に悪影響が出ているとして、新たな抗議書を日テレに送った。
 
 協議会によると、放送を見た女子児童が自傷行為をして病院で手当てを受けたり、別の児童がクラスメートから「どこかにもらわれるんだろ」とからかわれたりした。
 
 協議会は20日に抗議書を送付したが、22日の第2回放送でも子どもをペットと同列に扱い、恐怖心で子どもを支配するなどの表現が多く見られたと指摘。抗議書では「子どもたちを苦しめる事例が報告されている。人権に配慮した番組内容に改善するよう要請する」とし、2月4日までに文書で回答するよう求める。
 
 
これを読むと、女子児童が自傷行為をしたのはドラマを見たからだといわんばかりですが、施設の人間がほんとうにそんな決めつけをしていたら、その人間は児童の心理がわかっていないといわざるをえません。
 
そもそも児童養護施設がそこにいる児童の代弁者や代理人のようにふるまうことが根本的に間違っています。
これは老人ホームがそこにいる老人の代弁者や代理人になれるかを考えてみればわかるでしょう。
 
老人ホームでは、しばしば高齢者虐待が発覚して問題になります。虐待はしないまでも、十分なサービスや介護がなされていない施設はいっぱいあります。
有料老人ホームの場合は、入所者やその家族はさまざまな施設を見比べて、いいと判断したところに入所するわけですが、それでもサービスが悪いとか、職員の態度が悪いとか、虐待があるなどの問題が出てきます。
児童養護施設の場合は、実質的に子どもは選べないわけですから、もっと問題があっておかしくありません。発覚しない虐待はいっぱいあるはずです(普通の家庭にもあるわけですから)
 
そういうことを考えれば、児童養護施設は子どもの代弁をする資格がないどころか、むしろ子どもと利益相反関係にあるとさえいえるでしょう。
つまり、児童養護施設にとって都合のよい子どもは、虐待や手抜きのケアでも文句をいわない子どもです。
子どもが主体性を持って意見を表明するようになると施設は困るでしょう。
 
そういうことを考えると、児童養護施設協議会が「明日、ママがいない」の番組つぶしを狙うのは、ある意味合理的な行動でもあります。
というのは、「明日、ママがいない」は、子どもが主人公で、子ども目線から子どもやおとなを描くドラマだからです。
 
子ども目線からおとなを見るとどうなるでしょう。当然、「よいおとな」と「悪いおとな」がいます。そして、「よい施設」と「悪い施設」も見えるでしょう(このドラマにはひとつの施設しか出てきませんが、施設の子が見ると比べることができます)
 
今回の第3話には、「魔王」というあだ名の三上博史扮する施設長が子どもに対して「出ていけ!」とどなります。児童養護施設協議会はそんなことはありえないというのかもしれませんが、絶対にないとはいえません。いや、感情に任せて「出ていけ!」とどなってしまうのは、むしろ十分にありそうなことです。
理想的な施設しかドラマに登場させてはいけないとなれば、まともなドラマはつくれません。
 
日本では精神病院の出てくるドラマや映画はめったにありません。外国では、「カッコーの巣の上で」みたいな社会派映画だけでなく、精神病院を舞台にしたB級ホラーもいっぱいあります。
このままでは日本では児童養護施設を舞台にしたドラマや映画はつくれないということになってしまいます。
 
ともかく、施設と子どもは利益相反関係にあるということを認識しないと、この「明日、ママがいない」というドラマを巡る問題を正しく理解することができません。
ほんとうは施設の子どもの意見がどんどん出てくるといいのですが、今の世の中はそういうふうになっていません。
ただ、施設出身者の意見は出てくるので、こうした記事もあります。
 
『明日、ママがいない』 施設出身者から劇中の子供に共感も
 ドラマ『明日、ママがいない』(日本テレビ系)は児童養護施設を舞台に、子供目線で描かれているが、初回放送時から存続が危ぶまれるほどの賛否が巻き起こっている。
 
 熊本市の慈恵病院の蓮田太二院長は「養護施設の子供や職員への誤解、偏見を与え、人権侵害だ」と厳しく批判した。
 
 児童養護施設の出身者に取材すると、実際の施設とはほとんど異なる設定だとの声が多数上がる一方で、施設出身者たちの間では劇中の子供たちの目線には共感できるという意見は少なくない。
 
<実際と違うところがあるけれど、里親のことをママと呼べないのは、本当のことです。他にもお金持ちのところへひきとってもらいたいのも本当です>
 
<ドラマに出てくる子役達の演技を見て共感できる部分があって昔の自分と重なって見えました。本当に感動しました>
 
 同ドラマのホームページには施設出身者という視聴者からこんな書き込みが寄せられているが、その点に関して、名古屋市内の児童養護施設に勤務した経験を持ち、現在は、教員や施設職員、地域ボランティアと連携し、障がい児や児童養護施設・里親・ファミリーホームなどの支援を行うNPO法人「こどもサポートネットあいち」の理事長・長谷川眞人さんは言う。
 
「施設で育った子供たちの感想は、私と違ってドラマに出てくる子供たちに賛同していました。自分たちも入所した当時、施設の職員に気を使ったり、顔色をうかがったりしたことがあるから、理解できるそうです」
 
 施設出身者や里子など社会的養護の当事者が、互いに支え合い、当事者の声を発信する『日向ぼっこ』の代表理事を務める渡井隆行さんも、施設での生活をこう振り返った。
 
「施設での生活は慣れない間は怖かったですよ。何も理解できないまま“ここで暮らすんだよ”と言われるままに連れて行かれましたから。ドラマでの“新人”真希と同じで、DVの環境の中で育ってきたあの子は、その環境が当たり前で、お母さんが好きだから帰りたいと思って、まさに同じ気持ちでした。
 
 あとドラマでも描かれていましたが、子供ってすごい大人を見ていて、職員のことも品定めしてるんですよ。この人は信用できるのかって。例えば、短大卒の20才の人が職員で入ってきたら、“子育て経験も一人暮らしの経験もないのに、何をぼくたちに教えてくれるのかな?”って。親と離れて暮らしてきたぼくたちは今も昔も生きるのに必死なんですよ」
 
※女性セブン201426日号
 
 
日本テレビは全国児童養護施設協議会がこのように強硬に番組つぶしに出てくるのは誤算だったでしょうが、理不尽な圧力に屈せずに筋を貫いてほしいと思います。