「明日、ママがいない」の第4話が2月5日放送されましたが、視聴率はこれまでで最低の13.1%だったということです。日本テレビが謝罪したようなドラマは見たくないという人がいたのでしょうか。
しかし、第4話自体はなかなかの出来でした。「ボンビ」は両親が亡くなったという事実を受け入れることができず、金持ちの親がいつか迎えにきてくれるというファンタジーを抱いています。両親が亡くなった理由は、はっきりとは示されませんが、東日本大震災であることが強く暗示されます。そして、「ポスト」と「魔王」が奮闘して、ついに「ボンビ」に親が亡くなったという事実を受け入れさせることに成功します。
「両親を亡くした小さな子ども」という設定だけで涙腺が刺激されますが、ストーリー運びはひじょうにコミカルで、うまくバランスが取れていると思います。
 
考えてみれば、このドラマは最初からかなりコミカルでした。たとえば、第1話で施設の子どもたちみんながバケツを持って立たされるという“体罰”のシーンがあるのですが、全員横一列に並んで、最後に「もう限界!」といって全員が同時にバケツを放します。つまりこの“体罰”シーンはリアルではなくコミカルになっているのです。ただ、第1話であるため、そのへんがうまく伝わらなかったかもしれません。というか、私の場合、抗議されているということを知ってから見たため、素直に見られなかったということもあります。
 
このドラマは、子どもが傷つかないようにちゃんと配慮してつくってあります。放送中止にしろとか内容を変えろというのはまったく不当な要求です。
 
そもそも全国児童養護施設協議会は、「子どもが傷つくから」というような理由で抗議する資格があるのかという問題があります。
このことは国会でも取り上げられたのですが。
 
明日、ママがいない:厚労相「現実の児童養護施設を調査」
 田村憲久厚生労働相は3日の衆院予算委員会で日本テレビ系の連続ドラマ「明日、ママがいない」が児童らに与えている影響について「入所している子に自傷行為があったとの報道がある。全国児童養護施設協議会に確認し調査したい」と述べ、調査に乗り出す考えを示した。日本維新の会の中田宏氏への答弁。
 
 同協議会は日本テレビ側に人権への配慮を要請している。中田氏は、ドラマの内容について「施設長が(児童に)『ペットの犬と同じだ』と言うのは全国の施設職員からすれば憤りを禁じ得ない」などと指摘。田村氏は「ドラマ、フィクションだからデフォルメもある」としたうえで、「現場でも年間数十例の虐待事案がある。なくさなければならず、しっかり対応したい」と述べた。【青木純】
 
田村厚生労働相も「現場でも年間数十例の虐待事案がある」といっています。もちろんこれは表面化したものだけですから、実数はその数倍か数十倍になるはずです。
リアルの虐待で傷つく場合は、ドラマを見て傷つく場合よりも格段に深刻であるに決まっています(ドラマで傷つくといっても、テレビを消せば終わりです)
内部に深刻な問題があるのにテレビ局に抗議している場合かといいたくなります。
 
私は慈恵病院、全国児童養護施設協議会、全国里親会が最初から連携していることを不審に思っていましたが。元日本テレビディレクターである水島宏明法政大学教授のブログでそのへんのことが説明されていました。水島教授は明らかに全国児童養護施設協議会などの側に立ってブログで発信してきた人ですが、それだけに内情を知っているようです。そのブログから一部を引用します。
 
本日午後「明日ママ」で抗議団体が記者会見 「今後を見守る」姿勢を表明へ 厚労省で会見するワケは? 
実は、全国養護施設協議会は社会福祉法人・全国社会福祉協議会(全社協)の下部組織で、事務所も新霞ヶ関ビルの全社協の事務所の中にある。
 
全社協は、全国の福祉施設や各地域の社会福祉協議会の上部団体で、事実上、厚生労働省の「外郭団体」。
 
厚生労働省の幹部が天下りしたり、出向したりする先の機関として存在してきた。
 
現在の全社協の会長も、斎藤十朗氏。自民党の元参議院議員で、元厚生大臣で、元参議院議長を務めた「厚生族」政治家だ。
 
「全社協という組織は厚労省にべったり」と関係者が口にするほど、両者の関係者は深い。
 
厚労省は、国の方針を全国に発信する時に全社協が出している雑誌などを頻繁に利用している。
 
その全社協傘下の全国児童養護施設協議会が日本テレビに抗議するにあたって、全社協の上層部や厚生労働省の関係部署への「相談」なくして行うわけがない。
 
日本テレビへの抗議は、児童養護施設の施設長などが、ドラマの第1話を見て「これは問題ある放送だ。子どもたちを傷つけてしまう」と危機感を持って動き出したのがきっかけだが、実際の行動にあたっては厚生労働省とも「内々で相談」の上で行っている。
 
私はこの問題は最初から、表現の自由に対する侵害であると思っていましたが、民間団体が抗議している限りは、それほど深刻な問題ではないともいえます。しかし、国が後ろで糸を引いているとなると話は違います。
 
厚生労働省がなぜ「明日、ママがいない」の放送に圧力をかけたかというと、言論の自由を抑圧して戦前の日本のようにしようというような思想があるからではなく(まったくないわけではないかもしれませんが)、単に児童養護施設の内情を知られたくないために、メディアが児童養護施設を扱うことをタブーにしたかったからでしょう。
なぜ児童養護施設の内情を知られたくないかというと、もちろんそれは知られたくないようなものだからです。
 
私は児童養護施設のことはなにも知りませんが、それが不十分なものであることはわかります。たとえば、親に虐待された子どもが親から引き離されたとき、児童相談所を介して児童養護施設に引き取られます。そうした子がそれまで親から愛情を受けられなかった分の愛情を施設で受けられるかというと、ほとんどの場合不十分であるに決まっています。
これは別に児童相談所の職員がだめだということではなく、世の中はだいたいそういうものです。
 
しかし、それを隠蔽して、厚生労働省が意図するように、児童養護施設では施設長も職員も子どものために献身的に尽くしているというイメージができてしまうと、子どもはよけい救われません。施設で傷ついた心が癒されなくても、誰もわかってくれないからです。
 
私は最初、全国児童養護施設協議会が「明日、ママがいない」に抗議したのは、施設長が「魔王」と呼ばれる悪役になっていたからだと思いました。フィクションとはいえ、自分と同じ立場の者が悪役にされているのは不愉快だからです。おそらく日本テレビも同じように考えて、「最後まで見ていただければ私たちの意図が理解していただける」といっていたのでしょう。というのは、「魔王」は実は悪役ではないということがだんだんとわかってくるからです。
 
しかし、全国児童養護施設協議会が抗議したのは、背後で厚生労働省が糸を引いていていたからだとなると、「魔王」の役回りは関係ないことになります。
 
この問題に関して、マスコミが全国児童養護施設協議会側をまったく批判しないのは、もしかしてそのバックに厚生労働省がいるからでしょうか。もしそうだとすれば、まさに表現の自由、言論の自由の危機です。