「惰性の思考」というのは恐ろしいもので、「惰性の思考に」引きずられると目の前に変化が生じても見えなくなります。
領土問題、靖国問題、慰安婦問題などはずっと同じ議論が繰り返されているので、これからも同じことが続いていくのだろうという「惰性の思考」に陥りがちです。
しかし、慰安婦問題については、明らかに今までと違うことが起こっています。
 
そもそもは河野談話について政府が検証チームを設置すると発表したことが始まりです。
河野談話については、産経新聞が見直しを強く主張してきました。その主張がとうとう政府に取り上げられた形です。
産経新聞はこう報じました。
 
政府検証チームを設置 官房長官が明言 本人聴取も排除せず
2014.2.28 21:35
 菅義偉官房長官は28日の衆院予算委員会で、慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の「河野洋平官房長官談話」をめぐり、作成段階で韓国側とすり合わせを行った経緯を調査する「検証チーム」を政府内に設置すると明言した。その後の記者会見では、検証内容を「国会から要請があれば提出する」と語り、検証過程で河野氏への聴取も排除しない考えも示した。
 
 政府が河野談話の原案を韓国側に示し、指摘に沿って修正した「合作」だったことは1月1日付の産経新聞が報じ、2月20日の予算委でも、談話作成に関与した石原信雄元官房副長官が「当然行われたと推定される」と証言していた。
 
 これを受け、菅氏は28日の予算委で、「すり合わせの実態を解明する必要がある。秘密の中で検討のチームを作り、もう一度(事実関係を)掌握する」と明言した。
 
 談話の根拠でありながら石原氏が「裏付けがない」と証言した元慰安婦16人の聞き取り調査の検証については、非公開が前提だったことなどを理由に「極めて難しい」と述べた。ただ、「どんな状況だったかは、もう一度確認することが必要だ」とも語り、すり合わせの経緯と合わせて調査する考えを示した。
 
 検証チームは秘密保持を前提に少数で構成する方針だ。有識者らも入れ、談話作成当時の状況を客観的に精査する。さらに、策定過程を詳しく検証するため、河野氏本人から事情を聴くことも念頭に置く。
 
 菅氏は記者会見で、河野氏からの聴取について「当時の状況を把握した上で取り扱いを検討したい」と含みをもたせている。日本維新の会は河野氏の国会招致を求めたが、自民党は元衆院議長の招致は前例がないとして難色を示していた。
 
 菅氏は、石原氏が証言した20日の予算委では、検証チームの立ち上げに曖昧な答弁を繰り返した。だが、その後の世論調査で談話見直しや作成経緯の検証を求める意見が約6割に達した上、検証の必要性は安倍晋三首相も同意しており、政府として本格的な取り組みが欠かせないと判断した。
 
このときは安倍政権は河野談話の見直しに動き出したのかと思えました。
ところが3月14日、安倍首相は参院予算委員会で河野談話について、「安倍内閣で見直すことは考えていない」と答弁しました。
菅官房長官も河野談話作成過程の検証結果にかかわらず河野談話の見直しはしないと表明しました。
安倍首相はそれまでの持論を捨てて、方針転換したようです。
 
しかし、検証チームをつくって河野談話の作成過程を検証することは続けるということです。
「見直しはしないが検証は続ける」というのはおかしな話です。
私はこれは、安倍首相の方針転換に納得がいかない人たちのガス抜きのためだと思いました。
あるいは、安倍首相は今だけ河野談話継承を表明しておいて、いずれ河野談話見直しをやるつもりかもしれないとも思いました。
 
今思えば、ここから「惰性の思考」が始まっていたのです。
 
菅官房長官は検証チームづくりを進めます。
 
慰安婦検証チームは法律家、マスコミ、女性から 菅長官
2014.4.11 20:02
 菅(すが)義偉(よしひで)官房長官は11日の衆院内閣委員会で、慰安婦募集の強制性を認めた河野洋平官房長官談話の作成段階で韓国側とすり合わせを行った経緯を調査する有識者の検証チームについて、法律の専門家やマスコミ関係者、女性などから人選を進めていることを明らかにした。
 
 菅氏は「客観的に見て偏ることなく、『なるほどな』と思われる方にお願いをしている」と強調。同時に「検証は静かな環境で行うべきで公開ではない。国会から要望があれば結果を提出したい」と述べた。
 
私はここに「女性」という言葉が入っているのを見て、「おや?」と思いました。しかし、それ以上は考えませんでした。まさに「惰性の思考」でした。
事態は私が考えるのとまったく違う方向に進んでいました。
 
河野談話検証、今国会中にも結論
2014.4.15 00:03
 政府関係者は14日夜、慰安婦募集の強制性を認めた「河野洋平官房長官談話」の作成過程の検証について、6月22日までの通常国会会期中にも結論を出す意向を示した。談話の作成段階で韓国側とすり合わせを行った経緯などで一定の結論を出す見通し。
 
 政府は検証チームの構成メンバーについて法律の専門家やマスコミ関係者、女性などから人選を進めており、5月の連休明けにも作業に取りかかるとみられる。 
 
政府が検証チームをつくって検証作業をすれば、その結論が国会あるいは国民に報告されるのは当たり前のことです。
では、それがどんな結論になるかというと、安倍首相と菅官房長官がすでに河野談話継承を表明しているのですから、それと合致するものに決まっています。つまり、河野談話は正しく、見直す必要はないというものです。
 
考えてみれば、菅官房長官が2月28日に検証チームの設置を表明したときから、この方針は決まっていたのでしょう。ところが、産経新聞も「惰性の思考」に陥っていたために、まるで河野談話の見直しにつながるような書き方になってしまったのです。
 
検証チームはゴキブリホイホイみたいなものです。河野談話見直しを主張する人たちの期待を集めて、みんなゴミ箱に捨ててしまいます。
 
いつまでも慰安婦問題について日韓でやりあっているわけにはいきません。決着をつけるとすれば、こういう形しかありません。
 
もともと河野談話とアジア女性基金による補償によって慰安婦問題は終了していました。ところが、産経新聞が石原信雄元官房副長官の言葉尻をとらえたりして、「謝罪しなくていいですよ」詐欺を展開して、問題をぶり返してしまったのです(今回の検証チームの報道も詐欺みたいなものです)
 
3月25日、ハーグで日米韓の首脳会談が行われたとき、安倍首相は朴槿恵大統領ににこやかに韓国語で語りかけましたが、あれは慰安婦問題の終了が約束されているので、やましい気持ちがなくなった笑顔だったのでしょう。
 
ネットの中にはいまだに慰安婦問題で騒いでいる人が多いのですが、そういう人は政府の手によってゴミ箱行きになります。