資本主義対社会主義という対立軸がなくなったのに、いまだに右翼対左翼の対立があるのはなぜかということについて、「フード左翼とフード右翼」(速水健朗著)という本が新しい視点を提供してくれたので、その書評の記事を書きましたが、それをきっかけにいろいろなことを考えています。
 
フード左翼とフード右翼」書評
 
フード右翼というのはファストフードやジャンクフードを好む人のことで、フード左翼というのは、有機野菜など自然志向、健康志向の食品を好む人のことです。
ファストフードやジャンクフードは、安くて、手っ取り早く満足が得られる食品です。一方、自然志向、健康志向の食品は、お金も手間もかかります。
ですから、この両者の違いは、短期的な利益を求める人と長期的な利益を求める人の違いというふうにも考えられます。
 
フロイトは「快楽原則」と「現実原則」ということをいっています。子どもの行動は生理的な快楽を優先させるので「快楽原則」、おとなの行動は、必要とあれば快楽を後回しにするので「現実原則」というわけです。
しかし、「快楽」と「現実」はまったく異質の概念なので、これを並べるのはうまいやり方とはいえません。むしろ人を混乱させるフロイト一流のやり方です。
 
私の理解では、子どもは目先の喜びや利益を求めて行動するが、おとなは長期的な喜びや利益を求めて行動するので、単純に「目先の利益」と「長期的な利益」の違いといえばいいはずです。
 
たとえば、「さるかに合戦」でおにぎりは「目先の利益」で、柿の種は「長期的な利益」ですし、子どもにとって勉強をやめて遊ぶのは「目先の利益」、勉強していい学校に入るのは「長期的な利益」というような具合です。
 
人間は経験を積むうちに「目先の利益」からより大きな「長期的な利益」を求めるようになるはずですが、いつまでも欲望のままに「目先の利益」ばかり求める人もいます。というか、むしろそちらのほうが多数派でしょう。
 
 
そこで、世の中の対立を「目先の利益派」対「長期的な利益派」というふうにとらえてみます。
 
ファストフードやジャンクフードは、値段が安く、かつ炭水化物が多くてすぐ満腹感が得られるので、まさに「目先の利益」が得られる食品です。しかし、炭水化物の多い食事は肥満しやすく、野菜が少ないとビタミンやミネラルが不足し、タンパク質も不足しがちなので、不健康になります。そこで、欲望のままに目先の満足を求めるのではなく、食べ物を選んで健康とかスリムな体型という「長期的な利益」を求める人が出てきます。こうして「フード右翼」と「フード左翼」が生まれるわけです。
 
原発問題も「目先の利益派」対「長期的な利益派」の対立というふうにとらえることができます。
 
原発再稼働を主張する人は、再稼働しないとこの夏に電力不足になるとか、電気代が値上がりするとか、貿易収支が悪化するとか、日本経済によくないとかいいますが、すべて「目先の利益」のことです(CO2排出問題をいう人は意外といません)
一方、反原発の人は、原発事故の可能性(事故確率は短期的には低く、長期的には高い)、核廃棄物処理、廃炉費用など長期的な問題を指摘します。
まさに「目先の利益」を求める人たちと「長期的な利益」を求める人たちとの対立といえます。
 
経済政策も、今のやり方は、物価目標年率2%とか、経済成長率何%というように短期的なものです。その成長率がずっと続いていけばどうなるかという展望はまったくありません。
長期的な展望を考える人は、世界各国が今の成長率を維持していくことは資源や環境の制約からむりだろうと考えるので、日本のような先進国が経済成長することに懐疑的です。
 
軍備についても、「目先の利益」を求める人と「長期的な利益」を求める人で考え方がぜんぜん違います。
2014年度の日本の防衛費は前年度比2.8%増です。ここに安倍カラーが出ているといわれますし、この増加を喜ぶ人もいます。
なぜ防衛費増加を喜ぶかというと、防衛力が増強されれば、それだけ日本は安全になり、他国からあなどられないだろうと思うのでしょう。
しかし、中国は2014年度の軍事費を12・2%増加させています(実際はもっとだという説もあります)。経済成長力が日本と中国でまったく違うので、毎年どんどん開いていくことは間違いありません。
つまり、長期的展望を持つ人間にすれば、日本がいくら防衛費をふやしたところで、中国に差をつけられるのをわずかにへらせるだけのことでしかありません(これは軍事費の話で、軍事力とは違いますが、長期的には軍事力でも中国に負けるのは必定です)
今年防衛費がふえたといって喜んでいる人は、目先のことしか考えられない人です。
 
そもそも軍拡競争というのは、目先の優位を争って、長期的には国家財政の危機を招き、戦争の危機を拡大させるだけの愚行です。
 
人間はみな、「目先の利益」を追い求めるように生まれついています。
しかし、経験を積むうちに知恵がついて、小さな「目先の利益」より、大きな「長期的利益」を求めるようになります。
とはいえ、「目先の利益」を求める欲望も強烈です。
スリムになって男性にもてたいと思っているのに目の前のケーキに手を出してしまう若い女性、肝臓の数値が悪いから飲酒を控えるようにと医者から言われているのに酒に手を出してしまう中年男性、発覚すれば身の破滅を招くとわかっているのにドラッグに手を出してしまう芸能人など。
これらは個人の心の中の葛藤ですが、同じことが社会の中で起こっていると考えると、原発や経済政策や防衛問題における対立が説明できるのではないでしょうか。