朝日新聞が慰安婦問題について誤報を認めました。「慰安婦」と「女子挺身隊」の混同とか、慰安婦20万人という数字に根拠がなかったことなどもありますが、重要なのは、吉田青治氏の証言について、「吉田氏が済州島で慰安婦を強制連行したとする証言は虚偽だと判断し、記事を取り消します。当時、虚偽の証言を見抜けませんでした」と認めたところでしょう。
証言の裏付けを取らずに繰り返し報道したというのは大いに問題です。また、誤報を認めて訂正はしましたが、謝罪の言葉がないというのも、常識に欠けた態度です。
 
ですから、朝日新聞を擁護する気持ちはぜんぜんないのですが、朝日新聞を批判する声がやたら大きいので、そちらに対してひと言いいたくなりました。
朝日新聞はとにかく間違いを認めて、英語版の記事も同社のホームページにアップしたので、ボールはこれまで朝日新聞を批判していた側に渡ったわけです。朝日新聞を批判していた側はなにをしたでしょうか。
 
「朝日新聞を批判していた側」というのは面倒なので、単に「右翼」ということにしますが、右翼はこれまで朝日新聞の誤報が日本をおとしめてきたと主張してきました。とすると、今度は日本の名誉回復をはからなければなりません。
しかし、私の知る限りでは、右翼は海外になにも発信していません。もっぱら国内で騒いでいるだけです。
それは次の記事からもわかるでしょう。
 
 慰安婦問題「新たな談話を」 自民、政府に要請へ
2014/8/21 19:32
 自民党は21日の政務調査会の会議で、戦後70年にあたる来年に、従軍慰安婦問題に関する新たな官房長官談話を出すよう政府に求めることを決めた。高市早苗政調会長が来週にも菅義偉官房長官に要請する。高市氏は政府が公表した河野談話の検証結果を踏まえ「事実に基づく新たな談話を発出してほしい」と述べた。党本部で記者団の質問に答えた。
 
 会議では出席者から「海外へ慰安婦問題の検証結果の発信を強化すべきだ」との意見が相次いだ。朝日新聞が従軍慰安婦を巡る報道の一部を取り消したことについても意見交換し「関係者を国会に招致すべきだ」との声が上がった。
 
「海外へ慰安婦問題の検証結果の発信を強化すべきだ」との意見が相次いだのは、もちろん少しも発信できていないからでしょう。
海外へ発信できないから、もっぱら国内で朝日新聞批判をしているということになります。
 
なぜ海外に発信できないかというと、いろいろな理由があります。
そもそも強制連行があったかなかったかを問題にしているのは日本の右翼だけです。私はこれを、奴隷船に乗るときに自分で歩いて乗ったかむりやり乗せられたかの違いだと書いたことがあります。
それに、今回は済州島での強制連行の証言が否定されただけで、たとえばインドネシアでのオランダ人女性の強制連行の事実は否定されていません。
ですからこれは、日韓の二国間で主張すべき問題ということになりますが、韓国はもともと「強制連行がけしからん」と言っていたわけではないので、韓国に対して主張しても意味がありません。
 
ですから、強制連行云々の話は、もともと国際的に発信できることではなかったのです。
当然、これをきっかけに河野談話を見直すことなどもできるわけがありません。
 
では、日本の右翼はこれまでなんのために「朝日新聞誤報問題」を追及してきたのでしょうか。
これはたとえていえば、内部告発文書がきっかけで企業の不正が明るみに出たとき、告発文書の中に間違いがあったと主張する人みたいなものです。告発文書に間違いがあったと証明できれば、不正が明るみに出たことまでなかったことにできると信じているのですが、呪術的思考というしかありません。
 
「おとしめる」という言葉の反対語を調べてみたのですが、はっきりとわかりません。たぶん「持ち上げる」という言葉が近いでしょう。
「朝日新聞が日本をおとしめた」というのなら、今度は「右翼が日本を持ち上げる」番ですが、慰安婦問題はもともと人権問題なのですから、日本の名誉回復とは次元の違う話です。
たとえば、国連人権委員会において、日本や日本軍は間違ったことはしなかったと主張するのは筋違いです。しかも、それが現在の日本のことならまだしも、戦時中の日本や日本軍の名誉回復をはかろうというのですから、その真意を疑われます。
 
ですから、右翼の「日本の名誉回復キャンペーン」はもっぱら国内だけで行われていて、無意味にうるさいだけです。
 
もし日本の右翼が国連人権委員会で主張するとすれば、「当時の慰安婦の人権はこのように尊重されていた」ということしかありません。
しかし、日本の右翼は人権オンチですから、そんな主張はできません。逆に「当時の慰安婦には高給をもらっている者もいた」などと言いますが、これは、レイプ犯が相手の女性に金を与えたから自分は悪くないと主張しているのと同じです。
 
慰安婦問題に関しては、日本をおとしめているのは朝日新聞ではなく間違いなく右翼のほうです。