「野蛮」や「野蛮人」という言葉を使うのはヘイトスピーチになるはずです。アマゾン奥地やニューギニア高地で昔のままの生活をする人たちを「野蛮人」と言うことは許されません。「未開人」というべきです。
 
ところが、このところ国際政治の世界で「野蛮」という言葉が飛び交っています。
きっかけは、オバマ大統領のハマスに対する発言ではないかと思います。
 
米、「野蛮な攻撃」とハマス非難 ガザ停戦崩壊
【AFP=時事】米政府は1日、パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)の停戦が発効から数時間で終了したのは、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマス(Hamas)が「野蛮な攻撃」を行ったためだとしてハマスを非難した。
 
 バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領は急きょ開いた記者会見で、ハマスが武器を置き、停戦の約束を守る姿勢を本気で示さない限り、新たな停戦は「非常に難しいだろう」と述べた。
 
 米国は、ハマスの発射するロケット弾に対するイスラエルの自衛権を強く支持する姿勢を示してきたが、ここ数日はパレスチナ側死傷者の増大に懸念も示していた。先月30日に国連(UN)の運営する学校がイスラエル軍に砲撃され16人が死亡したことについては、米当局者から、イスラエル側に過失があったとする発言まで出ていた。
 
 しかし1日、ハマスがイスラエル兵2人を殺害し、もう1人を拉致したと報じられたことを受けて、米政府はイスラエルを強く支持する姿勢を改めて示し、オバマ大統領は拉致された兵士の解放を要求した。同時にオバマ氏は、罪のない市民が戦闘に巻き込まれて死亡していることが良心に重くのしかかっていると述べ、市民を保護する努力を強めるべきだとも述べた。
 
この記事では明確ではありませんが、「野蛮」という言葉を口にしたのはオバマ大統領自身であるようです。
 
そして、おそらくこの言葉を意識したのでしょう、今度はトルコのエルドアン首相がイスラエルに対して野蛮という言葉を使いました。
 
「ヒトラーより野蛮」 イスラエルにトルコ首相
トルコからの報道によると、同国のエルドアン首相は19日、支持者への演説で、パレスチナ自治区ガザ攻撃を拡大するイスラエルについて「ヒトラーを昼夜非難する者が、野蛮さでヒトラーを超えた」と激しく批判した。
 
 ヒトラーによる大量虐殺の被害者であるユダヤ人が建国したイスラエルの反発は必至。
 
 両国関係は2010年にイスラエル軍がガザ支援船を急襲してトルコ人乗船者を射殺した事件で極度に悪化。イスラエルのネタニヤフ首相が昨年、エルドアン氏に謝罪したことで正常化に向かいつつあったが、再び冷え込みそうだ。
 
 エルドアン氏は8月の大統領選に出馬を決めており、有権者の反イスラエル感情に訴えることで支持を広げる思惑があった可能性もある。(共同)
 
ここまではイスラエル対ハマスの問題ですが、イスラム国がアメリカ人ジャーナリストを“処刑”したことで「野蛮」の範囲が広がります。
 
米国人記者の処刑映像か=「イスラム国」が公開
 【ワシントン時事】米メディアは19日、イラクやシリアで勢力を拡大するイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」が同日、シリアで消息を絶っていた米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏とされる人物を処刑する映像を公開したと一斉に報じた。米軍の空爆に対する報復とみられる。
 
 フォーリー氏は2012年11月、シリア北部で取材活動中に行方不明になった。米国家安全保障会議(NSC)のヘイデン報道官は映像公開を受けて声明を出し、真偽の確認を急いでいると述べた上で、「本物であるなら、野蛮な殺人行為で衝撃的だ」と非難した。オバマ大統領は、休暇先に向かう専用機内で映像について説明を受けた。
 イスラム国は米国人男性をもう1人捕らえており、米政府の行動次第では命はないと警告。一連の主張が事実であれば、イスラム国への空爆を始めたオバマ大統領は、難しい判断を迫られることになる。
 映像は「米国へのメッセージ」というタイトルで、ソーシャルメディア上に投稿された。フォーリー氏を名乗る白人男性はこの中で、「これから私の身に起こることは、米国の独善と犯罪行為の結果だ」と発言。黒い服を着た覆面姿の男がその後、男性の首を切って殺害した。
 映像にはさらに、もう1人の白人男性が登場。男が「オバマよ、この米市民の命はお前の次の決定次第だ」と語った。男性は、13年にシリアで連絡を絶った米国人ジャーナリスト、スティーブン・ソトロフ氏の可能性がある。(2014/08/20-11:14
 
このときは報道官の発言ですが、続いてヘーゲル国防長官も発言します。
 
「イスラム国、ただのテロ集団でない」 米国防長官
 ヘーゲル米国防長官は21日、記者会見で、イラクやシリアで勢力を広げる過激派組織「イスラム国」について、「これまでのどの集団よりも洗練され、資金力もある」などと述べ、国際社会にとって大きな脅威になるとの認識を示した。「あらゆる事態に備える必要がある」として、警戒を強める方針も明らかにした。
 
 ヘーゲル氏は、イスラム国の特徴について、野蛮な思想と洗練された軍事力、潤沢な資金を併せ持つことを挙げ、「ただのテロ集団ではない」と指摘。イラク北部の拠点を狙った米軍による空爆で一時的に勢いを失っているものの、すぐに態勢を立て直して反撃にでてくると見通し、「明らかに切迫した脅威になっている」などと語った。
 
 また、イラクでの事態の収束には長期化が避けられないとの見方を示し、宗派や民族の枠を超えた包括的な政治体制の樹立に加え、長期的な戦略に基づく米軍の支援が欠かせないとして、国際社会に協力を呼びかけていく方針も示した。(ワシントン=小林哲)
 
どうやら「野蛮」という言葉が当たり前に使われる時代になったようです。
 
もともとのきっかけをつくったのはブッシュ大統領ではないかと思います。ブッシュ大統領は9.11の直後、「野蛮」という言葉を口走りました。調べてみると、このようなことでした。
 
 思えば、昨年の九月十一日、アメリカに同時多発テロが起きました。二十一世紀の初頭に起きたこの悲劇は、まさしく私たちがいま何処にいるかを、剥き出しにして見せる出来事ではなかったでしょうか。この惨事の翌日、ブッシュ大統領が声明を発表しました。そこに如何なる言葉があったか。ブッシュ氏は、現代世界最大の強国アメリカの大統領です。その彼が言ったのでした。「文明対野蛮の戦い」が始ったと。またそこでは「新しい戦争」という言葉も使われていました。そして、その戦いを「善と悪の戦い」と規定して、アメリカは善の側に立って悪をたたきのめす、という意味のことを述べていたわけです。
(『今深く真実のいのちをみつめる』 高 史明)
 
私の記憶では、「文明対野蛮」というブッシュ大統領の発言には批判もかなりありました。ですから、これはいわゆる“ブッシュ語”で、ほかの政府要人は「野蛮」という言葉を使わなかったはずです。
 
ところが、今になってまるで堰を切ったように「野蛮」という言葉が使われています。世の中の価値観が変わってきたようです。
 
しかし、考えてみれば、相手を「野蛮」と見なすのは文明の本質みたいなものです。古代中国も古代ギリシャ・ローマも周辺民族を蛮族と見なしていましたし、アメリカ合衆国は先住民を蛮族、黒人を動物と見なしていました。
蛮族との戦争にルールはありません。好き勝手に殺戮し、略奪し、奴隷にします。
 
戦時国際法という戦争のルールができたのは、価値観をともにするヨーロッパ諸国の間においてでした。「ルールのある戦争」というのは人類の歴史の中でも特殊なものです。
日本も日露戦争と第一次世界大戦のときは戦時国際法に合わせていましたが、それ以降はルール無視の戦争をしています。
 
そして今、相手を「野蛮」と見なすことで、ルール無視の戦争が行われる時代になりました。
この戦争では、「非戦闘員を攻撃しない」とか「捕虜を人道的に扱う」というルールもありません。
こちらが捕虜を人道的に扱うのは、相手も同じことをしてくれるだろうという期待があるからですが、相手が「野蛮」であるなら、そんな期待は持てません。
 
 
安倍政権は集団的自衛権行使容認によって戦争に参加する機会をねらっているようですが、ルール無視の戦争に突っ込んでいくのだということがわかっているのでしょうか。
安倍首相や右翼の言うことを聞いていると、その頭の中にはいまだに戦時国際法による古い戦争観が生き続けている気がします。
 
安倍首相は、価値観外交といって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配という価値観をともにする国々と連携していくと言っていますが、相手を「野蛮」と見なす価値観についてはどう考えているのでしょうか。
まあ、たぶんなにも考えていないでしょう。