御嶽山の噴火で、現時点で48人が亡くなり、火山活動による被害では戦後最悪となったということです。
この報道の中で「心肺停止」という言葉が頻出するので、首をかしげていましたが、その背景を説明する報道がありました。
 
 
御嶽山噴火でも使われた「心肺停止」 なぜ「死亡」といってはいけないのか
  長野、岐阜県境にある御嶽山の噴火で、山頂付近に残された人たちの救助活動が難航している。
 
   警察は「心肺停止の状態」で発見したと発表している。被災者の身が案じられるが、果たしてどのような状態なのだろうか。海外メディアでは日本独自の表現だと説明している。
 
海外メディアでは「死亡」「遺体」と断定的なところも
 
   御嶽山が噴火したのは20149271152分。週末だったこともあり、山頂付近は約250人の人でにぎわっていたと推測されている。
 
   捜索の進展とともに、被害状況が明らかになり、291430分現在で32人が心肺停止の状態で発見された。その後に救出、搬送が進み、28日夜に同様の状態で運ばれた4人の男性と合わせて、10人の死亡が確認された。あくまで心肺停止の状態と死亡した人は別に数えられている。
 
   御嶽山の噴火は海外メディアでも大きく取り上げられているが、「心肺停止の状態」の報じ方は大きく違う。"cardiac arrest""heart and lung failure"などと英訳されており、いずれも日本語に直訳すれば「心肺の停止」だ。
 
   AFP通信は"cardiac arrest"を「医師が死亡を宣言する前に使われる」と説明。ウォール・ストリート・ジャーナルは「死亡しているおそれがあるが、医療的に正式な死亡が宣言されていない」と補足する。
 
   "heart and lung failure"を使ったAP通信やワシントンポストは「日本の当局による、医師が診断する前の遺体の慣例的な言い方」と説明した。英語圏以外では、中国の中国新聞網が「無生命跡象(生命の兆しがない)」と書いており、生存にかなり悲観的な表現だ。
 
   海外メディアは見出しで"At least 31 people believed dead(少なくとも31人が死亡したとみられる)"AP通信)、"Mt Ontake rescue teams find 31 bodies(御嶽山のレスキュー隊が31の遺体を発見した)"BBC)と断定的に書いており、心肺停止の状態と死亡が確認された人を一緒にカウントしている記事が多い。
 
日本は死亡確認に医師の診断が必要
 
   関西福祉大学の勝田吉彰教授によると、「日本で心肺停止の状態とは、心音が聞こえない『心臓停止』および『呼吸停止』の状態を指します」という。死亡確認にはこの2つだけでは十分ではなく、「脈拍停止、瞳孔散大と合わせて、4つすべてを医師が診断することが必要です。医師が宣言し、初めて死亡が確定します」と語る。海外ではこうした手順が踏まれるとは限らないため、日本と大きな違いが出ているようだ。
 
   長野県警も、「医師の診断がまだできておらず、心音と呼吸が停止していることから判断」(同広報)して、「心肺停止の状態」と発表している。
 
   なお、心肺停止の状態から息を吹き返すケースはある。たしかに、街中で倒れた人が心臓マッサージやAEDを施されたり、病院で強心剤を投与されたりして蘇生することはある。ただし、あくまで迅速に必要な手当てがされた場合がほとんどだ。「山頂付近に残る人たち」の一刻も早い「救出」が望まれるが、有毒な硫化水素が充満しており、二次災害の恐れから捜索は打ち切られ、再開は30日に持ち越されている。
 
私は今回初めて、「心肺停止」という言葉にひっかかりを覚えましたが、記憶を探ってみると、これまで海や山の遭難報道で「心肺停止」という言葉を目にしながらスルーしていたようです。
 
「心肺停止」は「死亡」とは違って、まだ蘇生する可能性があることを意味します。「遭難者が『心肺停止』状態で発見された」というような報道を見たとき、私は救助隊員が蘇生術を施している最中なのだろうと漠然と思っていました。
しかし、今回は「長野県警は28日、山頂付近で31人が心肺停止の状態で見つかり、そのうち男性4人の死亡を確認したと発表した」というような報道になっています。31人もの人間が救助隊員から蘇生術を施されているなどということがあるわけないので、初めておかしいと思ったわけです。
 
救助隊員が発見したときは、すぐには「死亡」とは判定できず、「心肺停止」と見なすのはおかしくありません。しかし、「心肺停止」が10分以上続くと蘇生は不可能であると私はどこかで読んだことがあります。今回ネットで調べてみたら、「10分」という数字は確認できませんでしたが、間違っていないということはわかりました。
 
ウィキペディアの「一次救命処置」の項目
突然倒れた人や、あるいは倒れている人が居たら、まず心停止を疑う。脳自体には酸素を蓄える能力がなく、心臓が止まってから短時間で低酸素による不可逆的な状態に陥る。 BLSはそれへの対処であり、脳への酸素供給維持を目的とする。
 
人間の脳は2分以内に心肺蘇生が開始された場合の救命率は90%程度であるが、4分では50%5分では25%程度と一般にいわれる(カーラーの救命曲線参照)。
 
ですから、救助隊員が発見したときは「心肺停止」であっても、蘇生術を行わずに数分が経過すれば「死亡」と認定できるわけです。医師の診断がなければ「死亡」と認定できないというのはあまりにも官僚主義的なやり方です。
 
ですから、警察が「心肺停止」と発表するのがおかしいのですが、それをそのまま報道するマスコミも同様におかしいといえます。
かりに救助隊員の第一報に「心肺停止」とあっても、数分後に「死亡」に変わることがわかりきっているわけですから、「死亡」と報道すればいいわけです。
「死亡」という言い方がいやなら、「死亡確実」という報道の仕方もあるでしょう。選挙の開票速報のときは「当選確実」とやっているのですから(しかも早すぎてしばしば失敗します)
「心肺停止」では、まだ死んでいないのかと勘違いする人も当然出てきます。
 
 
「心肺停止」報道は、外国からもおかしいと思われているようですが、当然です。
日本全体が「脳死状態」になっているようです。