「バカの壁」(養老孟司著)400万部を超える記録的ベストセラーですが、これだけ売れたのはタイトルの効果も大きかったでしょう。
「バカの壁」というのは、自分の頭の中に「バカの壁」があって、正しい認識を妨げているという意味ですから、「認知バイアス」という言葉で表現できます。しかし、「認知バイアス」というタイトルの本では売れないでしょう。
 
また、「バカの壁」という言葉を、自分のことは棚に上げて、もっぱら人のバカを責めるために使っている人もいます。
「自分のバカは棚に上げて他人のバカを批判する」というのも、「バカの壁」のひとつの現れです。
というか、「自分と他人を公平に比較できない」「なんでも自分に都合よく考える」ということこそ「バカの壁」の最たるものでしょう。
 
そういう意味では、最近の出版界では“バカの壁本”あるいは“バカ本”とでもいうべき本があふれているように思えます。
そう思ったきっかけは、この本が週間ベストセラーの中に顔を出していたことです。
 
「住んでみたヨーロッパ 9勝1敗で日本の勝ち」(川口マーン恵美著)
 
著者はドイツ在住30年の日本人で、「住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち」という本も出しています。
 
この本のタイトルがおかしいのは、日本人が日本とヨーロッパを比較して勝ち負けを判定しているところです。それでは客観的・中立的な判定のできるわけがありません。
スポーツの世界では、国際試合の審判は中立的な国の人間が務めるというのが常識ですが、それでも審判は、ホームタウンデシジョンといって、地元に有利な判定をしがちです。
 
ちなみにアマゾンで「住んでみたヨーロッパ――」のレビューを見ると、かなり評価は低いです。
それでもベストセラーになるのですから、こうしたタイトルの本に引きつけられる人が多いのでしょう。
 
竹田恒泰氏が評論家としてメジャーな存在になったのは、「日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか」という本を出したことがきっかけです。この本のタイトルもいかにもへんですが、これがベストセラーになりました。
 
今、書店には嫌韓本があふれていますが、もちろんほとんどは日本人が書いたものです。その内容は、日本人に都合のよいものになっているに決まっています。
日本と優劣を比較せずに韓国を紹介する本なら読む価値がありますが、嫌韓本はそういうものではないはずです。
 
「日本人が日本と外国を比較して日本を持ち上げる本」がよく売れているというわけですが、こういう本を読んでも偏った知識しか得られません。
おそらくもともと偏見を持っている人が読んで、ますます自分の偏見を強化しているのでしょう。
 
テレビ番組でも、外国人に評価される日本文化や、外国で活躍する日本人を紹介するものがやたらにふえています。もちろんその番組をつくっているのは日本人ですから、これもまた偏見を強めるだけのものでしょう。
 
「バカの壁」を乗り越えるのではなく、「バカの壁」の前であぐらをかいている格好です。
 
こういう人がふえたのでは、日本が沈滞するのは当然です。
そうなった原因は、右翼思想が蔓延したからであり、自民党の治世が長く続いたからだと思っています。