ある投書がきっかけでネット上で議論が巻き起こっています。一見ささいなことのようですが、実はこれが社会のあり方の根本につながっています。
 
「マナーがなってない」のは中高年の方だ! 「若者擁護」の新聞投書めぐりネットでバトル
   「最近の若者はマナーや礼儀がなっていない」とよく批判されているが、むしろマナーや礼儀がなっていないのは中高年の方である――朝日新聞に寄せられた、そんな読者の「本音」がネットで話題になっている。
 
   投稿したのは「牛丼店でアルバイトをしている」という40代の女性で、これを読んだ人たちは、「接客業をしているとこういう結論になる」といった賛同や、マナーや礼儀を知らない人は一定数いて少子高齢化で数の多い中高年が目立っているだけ、などといった反論が出ている。
 
「店でキレて騒いでるのは、おっさんおばさんばかりだよ」
    話題になっているのは20141114日付けの生活面「職場のホ・ン・ネ」への投稿だ。題は「お金投げ置く中高年」となっていて、内容は、若い人は食事を終えた後に「ごちそうさまでした」と言って料金を払ってくれるけれども、レジで言葉もなく、投げるようにお金を置くのは中高年の男性ばかりだ、と書いている。「お金を払って食べてやっている」という感覚なのかもしれないが、そんな親に育てられた子供があいさつしない大人に育つのだと思う、とし、
 
「嘆くべきは常識のない若者ではなく、お手本にならない大人たちではないでしょうか」
 
と疑問を投げかけた。
 
   この投稿は、この欄に117日付けで掲載された投書への反論で、117日付けでは大手企業の社員寮で清掃をしている60代の女性が、「150人程いる20代の独身男性のうち約半数がろくにあいさつもしない」と嘆いていた。
 
   この投書を巡ってネット上では、マナーや礼儀がなっていないのは若者なのか、中高年なのか、といった議論が起きていて、ツイッターや掲示板には、
 
「私も接客業で働いたことあるけど、中高年のおじさんって本当にタチ悪い。何であの年代って横柄なんだろ」
 「若い人にもクズはいるのはあたりまえだが、実際に店でキレて騒いでるのはおっさんおばさんばかりだよ」
 「カスタマーサポートでもクレーマーは大抵40代以降のやつだったなw若い子はおどおどして慣れてない感じだけど敬語だったり謙虚な子がほとんど」
 
などといった意見が出ている。
 
   一方で、少子高齢化社会だから数の多い中高年が目立っているだけであり、若者はマナーや礼儀を知らないばかりか狂暴化しているとし、東京・渋谷での、サッカーやハロウィンの際のバカ騒ぎぶりを挙げる人もいる。
 
「近頃の若者」よりも「近頃の年寄り」を検討すべき
    ただし、「近頃の若い奴らは・・・」と語られ、若者の将来を憂う事はいつの時代にもあったわけだが、ここのところ、若者だけでなく中高年のマナーや礼儀、モラルの低下を指摘する声が大きくなって来ているのも確かだ。
 
   国際政治学者で慶應義塾大学法学部の田所昌幸教授が13113日付けの読売新聞に『「昔はよかった」と言うけれど』(大倉幸宏著)の書評を書いていて、
 
「近年の若者は一般に礼儀正しく、公共の場所でのマナーもよいのに対して、むしろ傍若無人なのは、親父世代に多いように思えてならない」
 
と論じている。いろんな窓口で若い担当者に苦情を言っているのは比較的年配の女性が多い印象だし、電車内で田所教授にいつも絡んでくるのは団塊の世代の男性なのだそうだ。この団塊の世代も「最近の若い者は」というセリフをさんざん聞かされた。若者のマナーやモラルの低下について識者は、都市化や近代化が原因だと結論付けてきたが、果たしてそうなのか、と疑問を投げかけ、
 
「元気のいい高齢者が増えた現代では、『近頃の若者』より、むしろ『近頃の年寄り』の方を検討してはどうかしら」
 
などと提案していた。今回の投書をめぐる議論を通し、田所氏の提案や指摘にあらためて注目が集まりそうだ。
 
これは若者と大人についての昔からよくある話です。
ちなみに私は学生時代にレストランでアルバイトをしたことがありますが、そのときにも若い客よりも中高年の客のほうがやっかいなのは実感していました。
 
ところで、この記事では「マナーや礼儀」という言葉が使われています。「マナーや礼儀」というのはある程度知識の問題ですから、たとえば婚礼や葬式のときの振る舞いについては、若者よりは大人のほうが「マナーや礼儀」をわきまえているに決まっています。
ですから、これは若者と大人とどちらがよい人間か、どちらが人間として正しいかというふうにとらえたほうがいいと思います。
 
人間には社会的地位の上下がありますが、飲食店とりわけファストフード店の店員にとって、そういうことは関係ありません。ですから、飲食店の店員の目にはより人間そのものの姿が映るといえます。
また、インターネットの議論も基本的に人間の社会的地位は関係ありません。
ですから、ここでの議論はかなり人間の本質をついているはずです。
 
というか、これまでそういう議論がほとんどありませんでした。
たとえば、この議論の発端になった投書は、『大手企業の社員寮で清掃をしている60代の女性が、「150人程いる20代の独身男性のうち約半数がろくにあいさつもしない」と嘆いていた』というもので、だから「近ごろの若者はマナーや礼儀がなっていない」という結論に導かれます。
しかし、この社員寮にいるのは20代の独身男性ばかりですから、誰とも比較していないわけです。もし清掃をしている女性が同じところに20年間ぐらい勤務していて、昔の若者と今の若者を比べて、「近ごろの若者はなっていない」という結論を出すのならわかりますが。
 
あるいは、ここが若い社員と同時に年配の部長や課長もいる社員寮だったらおもしろいでしょう。年配の社員はお掃除のおばさんにちゃんとあいさつするのに若い社員はあいさつしないということなら、「近ごろの若者はなっていない」ということになります(おそらくそうはならないでしょう。年配の人や社会的地位の高い人ほど態度は横柄になるものだからです)
 
それから、電車で年寄りに席を譲らない若者がいて、一方、その若者を怒鳴りつける年寄りがいて、どっちが正しいかみたいな議論もよくあります。
しかし、これは異質のものを比較しているので意味がありません。
比較するなら、席を譲らない若者を怒鳴る年寄りと、席を譲らない若者に礼儀正しく席を譲ってくれるよう頼む年寄りです。もちろん後者のほうが人間として正しいことになります。
 
人間、若いときは純粋で、思いやりの気持ちもありますが、年を取るとともにそうしたものは失われ、悪知恵を身につけ、上の者にはへつらい、下の者には横柄になります。
 
しかし、そうしたことを示すデータというのはめったにありません。せいぜい牛丼屋の店員の個人的な感想ぐらいです。
なぜそうしたデータがないかというと、今の社会は若者ではなく大人が支配している社会だからです。自分たちに不都合なデータを出すわけがありません。
 
また、上の記事では、慶應義塾大学法学部の田所昌幸教授が「元気のいい高齢者が増えた現代では、『近頃の若者』よりも『近頃の年寄り』の方を検討すべし」と提案しているということですが、「近頃」という限定は必要ないでしょう。若者対年寄りの問題は、時代によってそれほど変わるとは思えません。
 
人間は年を取るとともに人間としてだめになっていき、そうした大人が自分のことを棚に上げて道徳教育を推進したりするわけです。
 
中には、子どもと触れ合うことで自分自身を見直し、人間として向上する大人もいますが、残念ながら少数派です。