朝日新聞が慰安婦報道について検証する第三者委員会報告書を発表しました。1223日朝刊で6ページ全面のスペースを使い、ほかに第1面のほとんどと第2面、第3面にも関連記事があります。読者にとっては、読みたくない記事ばかりが並んでいて、これこそが“報道被害”です。
 
私もほとんど読みませんでした。個々の事実を詳しく知っても意味がありません。その代わり、第三者委員会の7人のメンバーがそれぞれ総括的な感想を述べたところだけ読みました。それで全体的なことがわかると思ったからです。
 
その中でいちばん重要な指摘をしていると思ったのは、林香里委員の意見です。
 
■慰安婦問題と女性の人権 林香里委員
 
 第三者委員会の議論で、ほとんど取り上げられなかった、慰安婦問題と「女性の人権」の関係について、個別意見を述べたい。この論点が委員会で取り上げられなかった背景には、一つには朝日新聞の社内ヒアリングをしても「女性の人権」は争点となっていなかったため浮上してこなかったという報道・編成局内部の問題と、もう一つには、第三者委員会メンバーのうち、女性は私一人であり、さらに女性の人権の専門家も不在だったという委員会の構造的問題の二つがあると考えられる。
 
 今回、第三者委員会の指示で朝日新聞の取材網にインタビューさせた海外の有識者たちからも、また、海外15紙の新聞記事の検証からも、国際社会では、慰安婦問題を人道主義的な「女性の人権問題」の視点から位置づけようとしていることが見てとれた。海外の報道では、記事に登場する情報源の国籍・出自・職業の多様性も目についた。他方で、近年の日本国内の議論では、ほとんどの場合、日韓や日米などの「外交問題」、および「日本のイメージの損失」など、外交関係と「国益」の問題として扱われている。内外の議論のギャップが、改めて浮き彫りにされた。
 
 朝日新聞の杉浦信之・取締役編集担当(当時)による8月5日付の記事「慰安婦問題の本質 直視を」(1面見出し)においても、「女性としての尊厳を踏みにじられたことが問題の本質なのです」と結論付けていた。それにもかかわらず、朝日新聞の過去の記事を調査すると、この点に十分な光が当てられていたという印象は薄い。また、社内ヒアリングをした際も、慰安婦問題を扱う現場の記者たちの中に、「女性の人権」という観点から専門家に取材したり、問題意識を共有したりしていた形跡はほとんどなかった。その上、記者たちからは、近年の朝日新聞の「慰安婦問題」に取り組む姿勢は、中途半端、あるいは消極的であったという声も複数上がっていた。ちなみに、私が調査したところ、日本の全国紙4紙の中で、「慰安婦」で検索した記事の割合は、2009年以降産経新聞がトップである。
 
 こうした環境の中で、結局、朝日新聞も、「国家の責任」「国家のプライド」という枠組みから離れることができないまま、「女性の人権」という言葉を急ごしらえで持ち出して、かねてから主張してきた「広義の強制性」という社論を正当化していた印象がある。「本質」と言いながら、慰安婦問題の本質と「女性の人権」とがどのような関係にあるのか。日本の帝国主義が、女性や被植民者の権利を周縁化し、略奪することで成立していた体制だったという基本的事実を、読者に十分な情報として提供し、議論の場を与えてきたとは言い難い。
 
 第三者委員の任務にあたり、慰安婦問題解決の複雑さ、困難さ、そして重要さを改めて実感した。だからこそ、日本社会において、このテーマを、女性はもちろん、外国人、専門家、一般市民など、多様で幅広い社会のメンバーが自由に議論できる土壌を耕し、議論の幅を広げていかなければならない。朝日新聞には、今回の一連の事件をきっかけに、ぜひその牽引力となっていってほしいと願う。
 
 
実を言うと、7人のメンバーのうち「人権」について言及しているのは林委員だけです。
 
ちなみに7人のメンバーは以下の人たちです。
 
元名古屋高裁長官で弁護士の中込秀樹氏(73)(委員長)
外交評論家の岡本行夫氏(68)
国際大学学長の北岡伸一氏(66)
ジャーナリストの田原総一朗氏(80)
筑波大学名誉教授の波多野澄雄氏(67)
東京大学大学院情報学環教授の林香里氏(51)
ノンフィクション作家の保阪正康氏(74)
 
女性が1人だけというのも問題ですが、年齢構成も林氏だけが50代で、あとはすべて60代以上というのも問題です。
権威ある人を選んだために年齢層が高くなってしまったのでしょうが、そのため考え方が古く、“上から目線”になり、とりわけ「人権」という観点がおろそかになってしまいました。
また、産経新聞に書いたほうが似合っているのではないかという人もいます。こういう“バランス感覚”も問題です。
 
慰安婦問題は基本的に人権問題です。林委員が指摘しているように、海外でもそうとらえられています。強制連行の有無ばかり議論しているのは日本だけです。
 
そして、林委員によると、第三者委員会の議論でも人権はほとんど取り上げられなかったし、朝日新聞社内のヒアリングでも人権は浮上してこなかったということです。
朝日新聞社内の人権感覚にもそうとうな問題がありそうです。
 
7人の委員で人権にまともに言及したのは林委員だけですが、「人権派」という言葉は波多野澄雄委員が使っています。波多野委員の文章から一部だけ引用します。
 
 いわゆる「人権派」の一握りの記者が、報道の先頭に立っていた点も特徴的である。とくに、クマラスワミ報告書や女性国際戦犯法廷の意義を過剰に評価する記事は主に、彼らによるものであった。ある記者は、彼らの問題点を「運動体と一緒になってしまう」傾向と指摘する。朝日は、慰安婦問題の本質は女性の人権や尊厳の問題だ、としばしば説くが、現実的な選択肢を示せないまま、本質論に逃げ込むような印象を与えることは否めない。多様な読者に豊かな情報を伝える努力を奪う。
 
朝日新聞の人権感覚も「人権派」という言葉でかたづけられてしまう程度のもののようです。
 
私は前から何度も言っていますが、慰安婦問題は性差別、人種差別、職業(売春婦)差別という三重の差別の問題です。
朝日新聞再生の道は、人権感覚を磨くことしかありません。