イスラム国は拘束していたヨルダン軍パイロットのカサスベ中尉を焼殺するという残虐な動画を公開しました。
後藤健二氏については、首を切り落とされた画像が公開されました。
イスラム国はほかにもさまざまな残虐な刑罰を行っています。
オバマ大統領は「宗教の名の下に言語に絶する蛮行を行う残忍で卑劣なカルト集団だ」とイスラム国を非難しました。
 
人間はこうした残虐さに強く反応しますから、これによって世論が動かされるのは当然です。
しかし、だからこそ、こういうときには冷静な反応をしなければなりません。
 
そもそもイスラム国は、こうした残虐さを戦略的に利用しています。AFPニュースの「イスラム国の堅固な基盤確立、教訓は米軍の戦略」という記事の中にこんな記述があります。
 
イスラム国は、特定の教本や組織内に所属する聖職者を利用して、自らの暴力行為を宗教的に正当化している。中でも「The Management of Savagery(野蛮の作法)」と題された指南書では、残虐行為は欧米をあおって過剰反応させる有効な方法だと説いている。
 
安倍首相は「テロリストに罪をつぐなわせる」とか「日本人にはこれから先、指一本触れさせない」とか、内容空疎な言葉を吐き散らしていますが、これなどまさに「テロリストの思うツボ」になっている姿です。
 
 
一方、アメリカもまたテロリストの残虐さを戦略的に利用しています。
オバマ大統領はイスラム国の残虐さを非難しますが、こうした残虐さはイスラム国ばかりではありません。
たとえば、サウジアラビアでは死刑制度があり、ウィキペディアによると人口当たりの死刑執行人数は世界最多だということです。しかも、死刑の多くは公開処刑で、首切りという方法がとられます。残虐さにおいてはイスラム国となんら変わりません。
 
また、サウジアラビアではむち打ち刑があって、最近もハフィントンポストに「サウジアラビアでリベラルなサイトを開設したブロガー、むち打ち1000回の刑に」という記事が載っていました。
 
サウジアラビアのブロガー、ライフ・バダウィ氏が、国内でのディベートをすすめるリベラルなオンラインフォーラムを開設した罪で、刑務所に入れられている。116日には2回目のむち打ち刑が予定されているが、彼の妻の話によれば、体力的に持ちこたえられないかもしれないという。
 
ライフ・バダウィ氏は「イスラムを侮辱した」罪で2012年から収監されていたが、20145月に、法廷で禁錮10年とむち打ち1000回の判決を受け、同年9月に判決が確定した。
 
1回目の公開むち打ち刑は、19日に西部の都市ジッダで執行された。バダウィ氏は、長く硬いむちで背中を50回打たれる刑を耐え抜き、116日には、2回目となる50回のむち打ち刑を受けるという。そして、オーストラリアのニュースサイト「News.com.au」によれば、バダウィ氏は今後20週間にわたって、毎週金曜に同じ形で公開むち打ち刑を受けることになっている。
 
バダウィ氏の妻、エンサフ・ハイダルさんは、アムネスティ・インターナショナルに対して次のように語った。「夫の話では、むち打ちのあとの痛みがひどく、健康状態も悪いそうです。きっと次のむち打ち刑には耐えきれないでしょう」
(中略)
AP通信によれば、バダウィ氏はジッダにあるモスクまえの公共広場で、数百人の見物人が見守るなか1回目のむち打ち刑を受けた。50回のむち打ちは、中断することなく続けざまに執行されたと報じられ、刑を目撃した人が、アムネスティ・インターナショナルに詳細を次のように話している。
 
「バダウィ氏はバスから下ろされて、群衆の真ん中に連れて行かれました。8人か9人の警官が警備していて、バダウィ氏には手錠と足枷をかけられていましたが、顔は隠されていなかったので、その場にいた全員から彼の顔が見えました」
 
この匿名の目撃者は、さらにこう続けている。「大きなむちを持った執行人が背後から近づいてバダウィ氏をむちで打ち始めました。バダウィ氏は頭を空に向けて上げ、目を閉じ、背を反らせていました。声は立てていませんでしたが、その顔と体を見れば、ひどい痛みを感じているのがわかりました」
 
イスラム国の残虐な刑罰は大々的に報道されますが、サウジアラビアの残虐な刑罰は小さなニュースにしかなりませんし、オバマ大統領もなにも言いません。
 
アメリカは「自由と民主主義」を普遍的な価値として掲げていますが、サウジアラビアは民主主義からもっとも遠い国ですし、9.11テロの実行犯19人中15人はサウジアラビア国籍でした。ほとんどイスラム原理主義国といってもいいぐらいですが、アメリカはそんな国を中東におけるもっとも重要な同盟国としています。
 
アメリカがイスラム国の残虐さを非難するのは、まったくご都合主義です。
 
日本がいっしょになってイスラム国の残虐さを非難するのは、まさに「アメリカの思うツボ」です。
 
日本は「テロリストの思うツボ」になり、同時に「アメリカの思うツボ」になっているというわけです。