天皇皇后両陛下は4月9日、パラオ共和国のペリリュー島を慰霊のために訪問されました。
その前日のレメンゲサウ大統領主催の晩餐会における天皇陛下のあいさつの中にこんなくだりがありました。
 
しかしながら、先の戦争においては、貴国を含むこの地域において日米の熾烈(しれつ)な戦闘が行われ、多くの人命が失われました。日本軍は貴国民に、安全な場所への疎開を勧める等、貴国民の安全に配慮したと言われておりますが、空襲や食糧難、疫病による犠牲者が生じたのは痛ましいことでした。ここパラオの地において、私どもは先の戦争で亡くなったすべての人々を追悼し、その遺族の歩んできた苦難の道をしのびたいと思います。
 
これを読んで思い出したのが、安倍首相が3月22日、防衛大学校の卒業式でした訓示です。そこでもペリリュー島の話が出てきました。
 
南太平洋に浮かぶパラオ・ペリリュー島。この美しい島は、70年前の大戦において、1万人を超える犠牲者が出る、激しい戦闘が行われた場所であります。
  守備隊長に任ぜられた中川州男中将は、本格的な戦闘が始まる前に、1000人に及ぶ島民を撤退させ、その命を守りました。いよいよ戦況が悪化すると、部下たちは、出撃を強く願いました。しかし、中川中将は、その部下たちに対して、このように語って、生きて、持久戦を続けるよう、厳命したそうであります。
  「最後の最後まで務めを果たさなければならない。」
 
日本軍は島民を退避させてその命を守ったという美談です。
しかし、天皇陛下のごあいさつでは「日本軍は……貴国民の安全に配慮したと言われておりますが」と伝聞にした上で逆接にし、そのあと「犠牲者が生じた」となっています。
つまり、安倍首相の美談を否定した格好になっているのです。
 
天皇陛下は安倍首相の訓示を知った上で自分のあいさつを考えられたのではないか――と思いましたが、これは邪推かもしれません。偶然かぶったということもあります。
いや、偶然ということもないでしょう。安倍首相は天皇陛下がペリリュー島を訪問されることを踏まえて、自分の訓示で言及したのではないかと思われます。
 
しかし、同じペリリュー島の戦いを語っても、そのとらえ方がまったく違います。
天皇陛下は現地島民の犠牲に言及した上で、「先の戦争で亡くなったすべての人々」を追悼しています。さらに「その遺族」にも思いをはせています。
 
一方、安倍首相の訓示では持久戦という「務め」を果たしたという物語になっています。
 
安倍首相の訓示は防衛大学校の卒業式のためのもので、追悼目的のものとは違いますが、「平和」という言葉を何度も使い、「戦争の惨禍」という言葉も使っています。
ほんとうに「平和」の価値や「戦争の惨禍」がわかって使っているとは思えません。
 
天皇陛下のごあいさつが安倍首相の訓示を踏まえたものであるという根拠はありませんが、そう思いたくなるぐらいに両者は対照的です。