このところ続けて「絶歌」を読んだ感想を書いています。
 
14歳の少年が異常な殺人事件を起こしたら、その少年の家庭はどのようなものだったのだろうと誰もが考えます。
今ならその少年は幼児虐待の被害者ではないかと疑われるでしょう。幼児虐待は“魂の殺人”とも言われます。自分が殺されるような体験をしていたら人を殺しても不思議ではありません。
 
しかし、酒鬼薔薇事件が起きた1997年には、幼児虐待はまだあまり社会的に認知されていませんでした。そのため少年Aは普通の家庭で普通に育ったのに異常な殺人を犯したということで「心の闇」ということが言われたのです。
 
それに対して、秋葉原通り魔事件が起きたのは2008年です。犯人の加藤智大は当時25歳でしたが、この時代には幼児虐待が社会的に認知されていたので、週刊誌は加藤が子ども時代に母親から虐待されていたことを派手に報道しました。
その報道は加藤の認識にも影響を与えたのでしょう。彼は獄中で4冊も本を出して、中の1冊は「殺人予防」というタイトルです。私は読んでいないのですが、おそらく幼児虐待が犯罪の原因になることを言っているものと思います。
 
そう判断するのは、加藤は「黒子のバスケ」脅迫事件の犯人である渡邉博史の被告人意見陳述書に共感して、手紙を「月刊創」の篠田博之編集長に送ってきたからです。渡邉の意見陳述書は自分の犯罪の原因を悲惨な幼児期に求めたものです。
つまり秋葉原通り魔事件の加藤も、「黒子のバスケ」脅迫事件の渡邉も、自分の幼児期の虐待が犯罪の原因であるという認識を持っているのです。
 
このへんの事情は次の記事に書きました。
 
「黒子のバスケ」脅迫事件被告からのメッセージ
 
元少年Aもそうした認識を持っていいはずです。
元少年Aの場合は、とりわけ母親にきびしくしつけられました。小学校3年のときにこんな作文を書いています。
 
・「ま界の大ま王」  914923(小3
 
 お母さんは、やさしいときはあまりないけど、しゅくだいをわすれたり、ゆうことをきかなかったりすると、あたまから二本のつのがはえてきて、ふとんたたきをもって、目をひからせて、空がくらくなって、かみなりがびびーっとおちる。そして、ひっさつわざの「百たたき」がでます。お母さんはえんま大王でも手が出せない、まかいの大ま王です。
 
ところが、「絶歌」にはそうしたことはまったくといっていいほど書かれていません。むしろ逆に母親は事件の原因ではないと書かれています。
 
母親を憎んだことなんてこれまで一度もなかった。事件後、新聞や週刊誌に「母親との関係に問題があった」、「母親の愛情に飢えていた」、「母親に責任がある」、「母親は本当は息子の犯罪に気付いていたのではないか」などと書かれた。自分のことは何と言われようと仕方ない。でも母親を非難されるのだけは我慢できなかった。母親は事件のことについてはまったく気付いていなかったし、母親は僕を本当に愛して、大事にしてくれた。僕の起こした事件と母親には何の因果関係もない。母親を振り向かせるために事件を起こしたとか、母親に気付いてほしくて事件を起こしたとか、そういう、いかにもドラマ仕立てのストーリーはわかりやすいし面白い。でも実際はそうではない。
(中略)
「僕の母親は、“母親という役割”を演じていただけ」
「母親は、ひとりの人間として僕を見ていなかった」
少年院に居た頃、僕はそう語ったことがある。でもそれは本心ではなかった。誰も彼もが母親を「悪者」に仕立て上げようとした。ともすれば事件の元凶は母親だというニュアンスで語られることも多かった。裁判所からは少年院側に「母子関係の改善をはかるように」という要望が出された。そんな状況の中で、いつしか僕自身、「母親を悪く思わなくてはならない」と考えるようになってしまった。そうすることで、周囲からどんなに非難されても、最後の最後まで自分を信じようとしてくれた母親を、僕は「二度」も裏切った。
(中略)
あんなに大事に育ててくれたのに、たっぷり愛情を注いでくれたのに、こんな生き方しかできなかったことを、母親に心から申し訳なく思う。
母親のことを考えない日は一日もない。僕は今でも、母親のことが大好きだ。
 
これはいかにもそらぞらしい文章です。「絶歌」には留置所に面会にきた母親に「はよ帰れやブタぁー!」と叫ぶ場面も書かれているので、それとも矛盾します。
しかし、「絶歌」に対する反応を見ていると、これをそのまま信じている人もいます。
 
好意的に解釈すれば、母親がこれ以上社会的に非難されないように配慮したのかもしれません。
しかし、私自身は、元少年Aは自分が社会に受け入れられるために社会の常識に合わせて書いたのではないかという気がします。
 
現に「絶歌」はベストセラーになっています。
 
しかし、真実を偽ったのでは、むなしいベストセラーというしかありません。