9月3日、北京で抗日戦争勝利70年記念式典の軍事パレードが行われましたが、日本では中国は日本に勝利してないのだから「抗日戦争勝利」をうたうのはおかしいという声があります。
戦勝国に名を連ねたのは国民党政府で、今の共産党政府とは違うという問題もありますが、それよりも日本軍は米英軍やソ連軍には負けたが中国軍には負けていないというのです。
実際、日本軍は中国戦線においては最後まで勝ち続けていました。大戦末期の1944年の4月から12月にかけて行われた大陸打通作戦という大規模な作戦も、勝利のうちに終わりました。
 
しかし、個々の戦闘に勝つことと戦争に勝つことは違います。
 
1937年の盧溝橋事件から始まった日中戦争は泥沼化し、日本は国家財政も国民生活も困窮しました。
日本はアメリカと4年間も戦争したから困窮したというイメージがありますが、そうではありません。
 
たとえば米穀配給制度は41年4月から始まっています。
金属を供出させる金属類回収令は419月からの施行です。
国民を無償労働に動員する国民勤労報国協力令は41121日からの施行です。
どれも真珠湾攻撃の前です。
 
最大時100万人を越える兵力を送り込んでいて、その負担のためにもはやまともな国家運営ができなくなっていたのです。
しかも、戦争を続けても勝てるという見通しはまったくありませんでした。
となれば、国民党政府と講和するか否かという問題はありますが、とにかく戦争をやめて、兵を引くしかありません。
 
しかし、それを決断する人が誰もいませんでした。
兵を引くということは、負けを認めるということです。
人間はなかなか負けを認めるということができません。
 
当時の日本とよく似た状況にあったのが、ベトナム戦争の泥沼にはまり込んだアメリカです。
しかし、このときはニクソン大統領が兵を引く決断をしました。
実態としては、兵を引くしか選択肢はなかったのですが、彼はやるべきことをやったわけです。
ニクソン大統領はあまり評判のよくない大統領ですが、この点は評価してもいいはずです。
 
もっとも、ベトナム戦争に負けたことで、アメリカ人の自尊心、とりわけアメリカ軍人の自尊心は大きく傷つきました。
 
当時の日本にはニクソン大統領の役回りを演じる人間がいませんでした。
当時の日本軍は不敗神話を誇っていて、軍人の自尊心は極限にまでにふくれあがっていたからです。
 
日本は中国戦線での負けを認めなかったために、どうしようもない状況に陥り、真珠湾攻撃という最後の賭けに出たわけです。
 
日本人の負けを認めたくない心理はそのあとも続いて、敗戦を終戦と言い換えるなど、アメリカに負けたこともごまかしています。ですから、米軍の駐留という実質的占領状態の継続も、日本が望んでやってもらっている形にしているわけです。
白井聡氏は「永続敗戦論」という本で、これを「敗戦の否認」と言っています。
 
安倍首相が「侵略」や慰安婦問題を認めて謝罪しようとしない心理も、負けを認められない心理と共通しています。
 
中国の抗日戦争勝利70年記念式典を見て日本人が「中国は日本に勝っていない」などと言うのでは、当時からなんの進歩もないことになります。