安倍首相は9月29日、国連総会で演説しましたが、報道を見ていると、難民支援に約8・1億ドル(約960億円)の支援を表明したということばかりです。あと、積極的平和主義のもとPKO活動などに積極的に参加できるよう法整備をしたとか、常任理事国入りに強い意欲を示したとかいう報道も少しありましたが。
 
ほんとうはもっといろいろなことを言っているはずと思って、官邸のホームページで演説の全文を見てみました。
 
68回国連総会における安倍内閣総理大臣一般討論演説
 
冒頭で安倍首相は、シリアで化学兵器が使われたことに怒りを表明し、シリアの化学兵器の廃棄に協力すると言明します。
しかし、化学兵器の使用を批判するのは誰においても当たり前のことです。しかも、アサド政権の名指しは避けているので、まったく当たりさわりのない話になっています。マスコミが取り上げないのは当然です。
 
「開かれた、海の安定に、国益を託す我が国なれば、海洋秩序の力による変更は、到底これを許すことができません」というくだりも、中国と名指しすることを避けているので、演説を聞いている人はなんとも思わないでしょう。
 
全部読んでも、きれいごとと当たりさわりのない話ばかりです。
結局、金額を表明した難民支援のところだけマスコミに取り上げられたのはわかる気がしました。
 
そして、難民支援に金を出すということも、「金だけ出して難民受け入れはしないのか」という批判を受けることになります。
批判されるのは当然です。日本の“難民鎖国”ぶりは異常です。

ただ、私は単純に「日本も国際社会の責務を果たすために難民を受け入れるべきだ」というふうには思いません。
だいたい「国際社会」という言葉は、「アメリカ中心の国際社会」という意味で使われます。
 
現在の中東の混乱のもとをたどれば、イギリスなどの帝国主義と、イスラエルの建国と、イスラエルを真っ先に承認したアメリカに大きな責任があります。関係のない日本がなぜ同じ責務を負う必要があるのかというのが率直な思いです。
 
しかし、そういう昔のことと今の難民は関係ないと言われるかもしれません。
だったら、「今の中東に爆弾を落とした者や武器を売った者が、その爆弾や武器の数に応じて責任を取れ」と主張するのがいいと思います。
 
そして、そういうことを主張できるのが日本のいいところです――と言いたいのですが、これから日本は武器を売る“普通の国”になるので、もう主張できなくなってしまうのでした。