ユネスコが「南京大虐殺」の資料を世界記憶遺産に登録したことに自民党がかみつき、菅官房長官も「中国はユネスコを政治利用している」「日本がユネスコに拠出する分担金の停止を検討する」と表明しました。
 
自民党においては、かつて大西英男議員が「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番。経団連などに働き掛けてほしい」などと発言したことがあり、分担金停止というのはそれと同じ発想です。
大西議員の発言は国内だけにとどまっていましたが、菅官房長官の発言は世界に報道され、恥をさらしました。
 
それにしても、日本はもっぱら韓国や中国に文句を言うだけで、ユネスコのような国際機関に文句を言うのはきわめてまれです。不思議に思ったら、やはり理由がありました。パレスチナがユネスコに加盟したことに抗議してアメリカが2011年から分担金の支払いを停止していたのです。
要するにアメリカの真似をしたというか、アメリカの後ろに隠れてやっている格好です。
 
それに、アメリカは靖国参拝や慰安婦問題ではいろいろと日本に言ってきますが、南京事件について言ったことはほとんどありません。ですから、これについては言ってこないだろうという判断もあったかもしれません。
 
いわば隙間を狙った“犯行”です。
 
自民党の二階俊博総務会長も「そのままのうのうと引き下がってよいのか」と述べ、自民党外交部会は「中国が申請した『南京事件』資料のユネスコ記憶遺産登録に関する決議」をまとめるなど、自民党は大いに盛り上がったようです。
 
ところが、思いもかけずロシアから批判の矢が飛んできました。
 
戦後のシベリア抑留者の引き揚げ記録「舞鶴への生還」も同時に世界記憶遺産に選ばれたのですが、ロシアがこれについて「ロシアは日本に対し、登録の申請を行わないよう働きかけたにもかかわらず申請が行われた。日本は2国間で解決すべき政治問題をユネスコに持ち込んだ」として、ユネスコに登録取り消しの要請をするということです。
 
菅官房長官はこれに反論しましたが、「(申請した)京都府舞鶴市が姉妹都市であるロシア・ナホトカ市の理解と協力を得ている」「ロシアと連携している」と語ったのが笑えます。まるで沖縄県を日本政府より優先させるような理屈だからです。
 
しかし、このときは菅官房長官もロシアに反論して、なかなか骨のあるところを見せていたわけです。
しかし、とうとうアメリカが参戦しました。
 
 
南京大虐殺の世界記憶遺産で日中対立、米がくぎ刺す
 
 ユネスコの世界記憶遺産に「南京事件」が登録され、日本と中国との対立が強まっていることについて、アメリカの政府高官は関係の改善を進めるよう釘を刺しました。
 
  米NSC(国家安全保障会議)アジア上級部長・クリテンブリンク氏:「アジア太平洋地域のすべての国に未来と和解に重点を置いてほしい」
  NSCのクリテンブリンクアジア上級部長は、歴史認識を巡る問題は複雑だとしながらも、関係国が協力して取り組んでいくことの必要性を強調しました。また、国務省のラッセル次官補は、来月1日に予定されている日中韓の首脳会談について「地域の戦略的環境を議論する良い機会だ」と歓迎しました。南京事件の登録を巡っては、日本がユネスコへの拠出金の減額を検討するなど日中間の対立が強まっています。
 
 
これで流れがガラリと変わりました。
 
岸田外務大臣は訪問先のカタールで、「南京事件」を巡る資料の「記憶遺産」への登録を受けた政府の対応について、ユネスコに対して制度の改善を求める一方、分担金や拠出金の支払い停止などは慎重に検討する考えを示したということです。
 
安倍首相も自民党外交部会の幹部と会った際、「なぜこういう事態に至ったのか検証し、(次の登録審査がある)2年後に備えていくべきだ」と語っただけで、ユネスコの分担金などについては言及しませんでした。
 
どうやらこれで、この問題は終了したようです。
鶴の一声ではありませんが、アメリカがなにか言うと、日本では全員が黙ってしまいます。
 
菅官房長官もロシアに言ったような勢いで、「ユネスコの分担金停止はアメリカもやっていることなのに、なぜ日本がやろうとすると文句をつけるのか」ぐらい言ってもいいはずですが、沈黙したきりです。
 
日本はつねにこのパターンです。
日本が中国や韓国に強硬な態度に出て問題を起こす。そうするとアメリカがそれをたしなめる発言をする。日本はアメリカにはいっさい反論せず、結局アメリカの言いなりになる。慰安婦問題にしても安倍戦後70年談話にしてもそうです。
ですから、このブログでも同じようなことを何度も書いている気がします。
 
111日に韓国で日中韓首脳会談が行われる予定になっていますが、安倍首相はその際に日中、日韓の首脳会談も「必ずやる」と語ったということです。
これなども安倍首相らしくなく、アメリカに操られているとしか思えません。
日本独自の外交など夢のまた夢です。