パリ同時テロ以来、マスコミには犠牲者を悼む声があふれています。
しかし、パリ同時テロの前日にベイルートで起きた連続自爆テロでは46人が死亡し、同じくIS(イスラム国)が犯行声明を出しましたが、こちらの死者を悼む声はほとんど報道されないということが指摘されています。
 

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もちろんこれは人種差別とイスラム教差別があるからです。
 
これは被害者側のことですが、加害者側のことでも同じ問題があります。ISが人を殺すと残虐だという報道があふれるのに、アメリカなど有志連合が空爆で人を殺すことはほとんど報道されません。
 
今年1月、ISの人質になっていた湯川遥菜さんが殺害されたときも、ISの残虐さが強調されましたが、その時点で有志連合の空爆で6000人を殺害しているという報道がありました。ISと有志連合のどちらがより残虐なのでしょうか。
 
その後、空爆で何人殺したという報道は見かけません。
ISが何人処刑したという報道はいっぱいあります。
 
こうした非対称の報道は、人種差別とイスラム教差別によるものという面ももちろんあるでしょうが、考えてみればこれは報道ではなく、“戦時プロパガンダ”なのです。
このことはNHKスペシャル「憎しみはこうして激化した~戦争とプロパガンダ~」を見ていて気がつきました。
 
第二次世界大戦当時、アメリカ政府は国民に対して、日本人は残忍で狂信的であるというプロパガンダを盛んにしました。
もちろん日本政府も同じことをしていましたが、日本の場合は「鬼畜米英」というスローガンを繰り返すような単純なものだった気がします。アメリカの場合は、映像を使うなどして具体的です。
たとえば、クリント・イーストウッド監督の「父親たちの星条旗」で描かれたことですが、まだ硫黄島で激戦が行われている最中にプロパガンダ用の映像を撮っていたのです。
 
湾岸戦争の前、アメリカ議会でナイラという少女が、イラク兵が病院に入ってきて保育器の中の赤ん坊を床に投げ捨てて殺したと証言し、これでアメリカの世論が沸騰して戦争に傾斜するということがありましたが、のちにこの証言は嘘であったことがわかりました。
 
ナイラ証言 - Wikipedia
 
アメリカを初めとする有志連合がISへの空爆を開始してから、アメリカは戦時プロパガンダを実施しているはずです。
「ISは残忍で狂信的」というイメージの報道があふれたのはそのためだと考えるとよくわかります。
 
ISが残虐な処刑をしているというのはある程度事実でしょう。しかし、IS以外の武装勢力が敵の捕虜や裏切り者を処刑していないかというと、そんなことはないはずです。しかし、そういう報道はまったくありません。
また、サウジアラビアは公開死刑やむち打ち刑など残虐な処刑を行っていますが、これらの報道もほとんどありません。
 
有志連合の空爆は、正確にテロリストだけを狙っているなどということがあるわけはなく、多数の民間人を殺害して、そこには修羅場と愁嘆場が繰り広げられているはずですが、そうした報道もまったくありません。
 
アメリカの戦時プロパガンダによって「ISは残忍で狂信的」というイメージを植え付けられていると、パリ同時テロを見る目も曇ってしまいます。
いや、そもそもパリ同時テロ報道自体が戦時プロパガンダかもしれないのです。