日韓両政府は1228日、慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的解決」とすることで合意しました。
年の暮れにふさわしい、いかにもこの1年を象徴するような出来事です。
 
岸田外相は「慰安婦問題は、当時の軍の関与のもとに、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している」と述べました。
軍が関与していたことは、とっくに公文書によって確認されています。河野談話もそれを踏まえて出されました。ですから、これは当たり前のことを述べただけです。
 
ところが、日本では「強制連行」の有無が問題になり、「軍や官憲による強制連行の日本側の証拠がなければ日本はすべて免責される」というトンデモ説が広まりました。これは産経新聞や池田信夫氏のミスリードですが、吉田証言の誤報を朝日新聞がなかなか認めないことも問題を大きくしました。
 
このトンデモ説をもとに、日本の一部勢力が韓国に対抗して「日本の名誉回復」をはかろうと国際社会に発信しました。
つまり、韓国は「女性の人権」を訴えているのに、日本は「日本の名誉回復」を訴えたわけです。
「日本の名誉回復」に関心のある外国人などいるわけがありません。
それに、正確には「日本の名誉回復」ではなく「軍国日本の名誉回復」を訴えたわけですから、やればやるほど外国人は今の日本に軍国主義者がいるのかと疑念を抱きます。
結果、大いに日本の国益を損ねました。
 
ですから、今回の合意は日本にとってよいことです。ネット右翼は大いに不満のようですが、それは「強制連行の証拠がなければ日本は謝罪しなくていい」というトンデモ説にだまされた自分が悪いのです。
 
それにしても、今回の合意は安倍首相がこれまで言ってきたこととまったく違います。安倍首相は「狭義の強制性はなかった」とか「強制性を裏付ける証拠はなかった」とか言って、やはりトンデモ説に固執していたからです。
 
それでも合意したのは、アメリカの強力な働きかけがあったからです。これはマスコミも普通に報道しています。
日韓が兄弟喧嘩ばかりしているので、親のアメリカにむりやり仲直りさせられたという格好です。
 
安倍首相はまるで軍国主義復活を目指しているかのようなことを言い、そのような政策を打ち出しますが、最終的にはアメリカへの従属を深める形で決着します。このパターンの繰り返しです。
 
その典型が安保法制です。憲法改正は安倍首相の悲願であったはずですが、解釈改憲で安保法制を成立させ、アメリカへの協力体制を強化しました。解釈改憲をしてしまったので、もはや改憲をする必要もなくなりました。
 
戦後70年談話も、戦後レジームの脱却を目指すようなことを言いながら、結局アメリカを喜ばす内容になっています。
 
そして、今回もアメリカを喜ばす形で決着しました。だから、この1年を象徴するような出来事だと思ったのです。
 
 
今後、安倍政権が長期化すれば、日本の属国化はさらに進む理屈です。
 
安倍首相は中国に対抗する意識が強いようですが、日本が中国とことを構えることはアメリカが望むはずはなく、そういうことにはならないでしょう。
アメリカが望むことは、日本が対テロ戦争に参加することです。
欧米のキリスト教国なら反イスラム感情や十字軍意識があるので、そういう方向に行くのはまだわかりますが、日本が同じことをやるのはいかにも不思議ですし、国益にも反します。
日本でいちばんテロに脆弱な新幹線で大惨事が起こるようなこともあるかもしれません。
 
今年亡くなった愛川欽也さんや野坂昭如さんは、昔のような戦争が起こることを恐れていたようですが、それは的外れです。
2016年のテーマは、日本がアメリカの対テロ戦争に参加するか否かになるような気がします。