世の中にはクチャクチャと音を立ててものを食べる人がいて、たいへんいやがられています。そういう人をクチャラーというのだそうです。「クチャクチャ食べ」で検索すると、恋人が立てるクチャクチャ音に悩む人、子どものクチャクチャ食べをどうして直せばいいのかと相談する人など、深刻な声がいっぱいです。
 
食事のときに、音を立ててスープを飲むとか、ナイフとフォークをカチャカチャさせるとか、音を立てるのはマナー違反です。とくに生理的な音はいやがられますから、クチャクチャと音を立てるのはよくないに決まっています。
 
しかし、ものを咀嚼するときに音が出るのは避けられません。誰もが音を出しているはずです。
クチャクチャ音を気にするほうに問題があるということも考えられます。
 
 
私は中学生のころ、父親が口にいっぱい食べ物を頬張って、クチャクチャと大きな音を立てているのがひじょうに気になったことがありました。そのとき、あまりに不快だったので、自分の不快感をしげしげと観察してしまったほどです。
そして、自分の感覚に問題があるのかもしれないとも思いました。父親が食べ物をいっぱいに頬張るのはいつものことですが、それまでそれを不快に思ったことはないからです。
 
結局、父親のクチャクチャ音が気になったのはその一度と、あと一度あったかどうかぐらいでした。
 
そして、やはり中学生のころ、1歳年上の兄が、いったいなにを食べていたのかよくわからないのですが、ポクポクと音を立てながら食べるのがひじょうに気になったことがありました。口を閉じて勢いよく咀嚼しているので、ポクポクという音がしたのです。
そのときもたいへんな不快感がして、もしいつもこんな不快感がするなら、これから先、兄といっしょに暮していけるか不安に思ったものです。たいていいっしょに食事していたからです。
 
もっとも、不快に思ったのはそのときぐらいで、そのあととくに不快に思うことはありませんでした。
 
ちなみに家には母親もいましたが、私は母親の食べる音を不快に思ったことはありません。
 
結局、私の場合、咀嚼音を不快に思ったのは、父親と兄だけで、それも一時的なものでした。
一時的なものですから、食べ方の問題ではなく(食べ方はいつも同じはずです)、私自身の感じ方の問題だと思いました。
 
友人や職場の人などと食事をともにする機会もいっぱいありましたが、とくにクチャクチャ食べが気になったということはありません。
ラーメン屋や牛丼屋のカウンターで、隣の人の食べる音が気になったこともありません。近いだけに大きな音がしているはずですが。
 
家族間の複雑な感情が咀嚼音に対する不快感という形で現れたのだと、私自身は結論づけていたのですが、クチャクチャ食べについて語る人はみんな食べ方の問題だと思っていて、中には「食べ方を直接注意したら直った」ということを言う人もいますから、今ひとつ自分の考えに自信が持てませんでした。
 
そうしたところ、明快に結論づけている記事を見つけました。
 
 
食事中の「くちゃくちゃ」、気にしすぎは病気か
 
 米カンザス州ミッションヒルズ在住のクリスティン・ロビンソンさん(49)は、夫のロバートさん(53)との夫婦水入らずでのディナーを楽しみにしていた。彼女は野菜のピザを焼き、カベルネのワインボトルの栓を開け、キャンドルをともした。
 
 夫はワインを一口すすり、口の中で回して味わった。その後、バリバリと音をさせながら、ピザをほおばった。「生地のパリパリという音、ピザのトッピングをかむ音、ワインをすする音、それが(その後の夫婦げんかの)原因だった」。妻クリスティンさんはそう述懐する。
 
 クリスティンさんはすっくと席を立ち、クラシック音楽をかけた。しかし、それでも夫のかむ音がなお聞こえ、音量を上げたが、それでもダメだった。そこで夫にこう頼んだ。「お願いだから、ゆったりして食事を楽しみましょう」。
 
 すると、夫は「申し訳ないけれど、そんなに気になるのなら、同じ部屋にはいられないね」と言い返し、部屋をすっと出て行った。
 
 食事中に他人が出す音に耐えられないとき、その人が口を閉じてかむべきなのだろうか。それとも、口を閉じて我慢すべきなのは、あなたのほうだろうか。
 
 専門家たちは、あなた方が我慢すべきだと指摘する。
 
 確かにマナーの悪い人は存在する。しかし、気になるからと言って、他人の食べ方を変えさせることはできない。
 
 特定の音を極端に嫌う人は、いわゆる「ミソフォニア(音嫌悪症)」に悩まされている。何かをかむ音や唇を鳴らす音など「口から出る音」を嫌う人が最も多いが、貧乏揺すりの音、ペンをカチカチ鳴らす音、鼻をすする音などを嫌がる人もいる。日常生活で一部の音を不快に思う人は少なくないが、音に過敏なことで生活に支障が出ている音嫌悪症の人は、人口の20%に上る可能性があると専門家は指摘する。
 
 これを精神疾患として扱うべきか否かについては、医師たちの間で現在議論が交わされている。音嫌悪症を扱ったドキュメンタリー映画「Quiet Please...(原題)」は来年夏に公開される。
 
 201410月に医学誌「Journalof Clinical Psychology」に掲載された483人を対象にした研究論文によると、音嫌悪症に悩まされる人々は、生活に最も大きな支障が出ている要因として、職場や学校での食事の際に出る音に自分たちが敏感なことを挙げている。家族との食事の際はそこまでは敏感にならないという。
 
 研究では、音嫌悪症に悩む人に不安症、強迫神経症ないしうつの症状がしばしばみられることが判明した。だが、それらと音嫌悪症の因果関係は分からないと研究チームは指摘している。専門家は音嫌悪症の原因の1つとして、脳の聴覚系、辺縁系、自律神経系間の神経結合の高まりにあるかもしれないと論じている。
 
 中には、ポップコーンを食べる音が気になるために劇場で映画を見られない人、ガムをかむ音が気になるために店で列に並べない人や、スープ類が出された時は家族のそばにいられない人もいる。どの食べ物、どの食事、どの人が最も嫌な音を出すかについての見方は、人によって異なる。
 
 冒頭に紹介したクリスティンさんは、夫の食事の音に耐えられないと最初に気付いたのは20年前だった。当時、2人はデートを重ねる間柄で、より静かな自宅で食事する機会が増え始めていた。
 
 クリスティンさんは長い時間をかけて、あらゆる対処法を試した。ジャズ音楽をかける、ヘッドホンをする、自宅でシリアルを禁止する、家族で朝食を抜く、耳をふさいで「ラララ」と口ずさむ、部屋を出る、などだ。彼女は何年もの間に何百回もの食事を逸してきたと推測する。それでも、いまだにかじる音やすする音で家族ともめる。娘の1人も今では、かむ音に極めて敏感だという。
 
 クリスティンさんは、夫だけでなく、他の人のかむ音にも悩まされている。医師から診断を受けたわけでないが、音嫌悪症であることは自覚しており、自分だけが悩んでいるわけではないと知って心が軽くなったと話している。
 
 冒頭のディナーで、怒った夫が出ていった時、彼女は後を追いかけ、またしてもこう言った。「悪いのはあなたではなく、わたしの方だ」と。
 
 一方、夫のロバートさんは「障害がある人と生活しているようなものだと思っている。家族と充実した時間を過ごしたいのであれば、わたしがそれに配慮しなければならない」と話した。
 
 専門家たちの意見ははっきりしている。音をうるさく思う人が変わる必要のある人で、対応法を学ぶ必要のある人だ。
 
 
明快というか、ちょっと一方的すぎるかもしれません。多少は食べ方の問題もあるはずです。食べ方2割、感じ方8割というところでしょうか。
 
ネットを見ると、子どものクチャクチャ食べを直そうとして何年も注意し続けているという母親がいたりします。これは注意するほうもされるほうも不幸です。このお母さんは子どもではなく自分を直すべきなのです。

音を立てずに咀嚼することはできません。自分だってクチャクチャという音を立てているに違いないのです。
 
「汝自身を知れ」ということのたいせつさを改めて思います。