TBS系の報道番組「NEWS23」の岸井成格氏が3月末でアンカーを辞めることになりました。その後はTBS専属のスペシャルコメンテーターになるということですが、政府に批判的なゆえに降板させられたのではないかと思われます。
古舘伊知郎氏の3月降板といい、日本のテレビが案じられます。
 
岸井氏については、「放送法遵守を求める視聴者の会」なる団体が昨年11月に読売新聞と産経新聞に意見広告を出し、岸井氏を名指しで批判しました。このことが降板の直接のきっかけになっているようです。
 
「視聴者の会」はさらに岸井氏に対して公開質問状を出していますが、岸井氏とTBSは回答しないという方針だそうです。「視聴者の会」は素性の怪しい団体ですから、相手にしないという方針は理解できますが、それが逃げているという印象を与えるのも事実です。たとえば産経新聞は「公開質問状に回答しないのはテレビ報道の資格なし」というような記事を書いています。
今後も似たようなことが起こるかもしれないので、できれば公開討論会でもやって論破しておきたいところです。
 
そこで、「視聴者の会」の意見広告を読んで、自分なりの反論を考えてみました。
 
 
「放送法遵守を求める視聴者の会」の意見広告
 
 
岸井氏の「メディアとしても(安保法案の)廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」という発言を取り上げて批判しています。
全体がデタラメな主張なので、かえって反論しにくい感じがします。こういう場合は、いくつかに焦点を絞るしかありません。
 
たとえば意見広告にはこのような記述があります。
 
周知のように、安全保障法案は国民各界で意見が対立し、国論を二分した法案です。岸井発言は、TBSが、新聞や雑誌などと違い番組編集準則を踏まえなければならない放送事業者であるにもかかわらず、そのような多様な国民の見解を無視し、「法案廃案」を全国の視聴者に拡宣しようとした、放送法違反の発言としか言いようがありません。
 
「国民各界で意見が対立し、国論を二分した法案」と言いますが、これは事実に反します。衆院憲法審査会において与党推薦の参考人を含む3人の参考人全員が「安保法案は違憲」と述べ、憲法学者へのいくつかのアンケートでも、合憲とするのは3人とか4人、9割以上が違憲という結果が出ました。つまり憲法学会においてはほぼ違憲ということで一致したのです。
このことが明らかになった時点で、当然テレビ局の報道姿勢も変わりました。放送法は「政治的に公平」ということを規定していますが、安保法案は政治的ではなく法学的、社会科学的な問題になったのです。
違憲の疑いが濃厚な法案を「政治的に公平」に扱うわけにいきません。立憲主義が崩れると、「政治的」という枠組みさえ崩れるからです。
たとえばナチスがワイマール憲法を実質的に停止する「全権委任法」を出してきたときを考えればわかります。
 
安保法案が法学上の問題になったとき、法案賛成派は正々堂々と議論ができなくなり、「憲法を守って国が滅びていいのか」みたいなことを言うだけになりました。そのため、この「視聴者の会」みたいなものを作って、議論そのものを封じ込めようとしたのだと思われます。
 
 
意見広告にはこのような記述もあります。
 
岸井氏は報道番組「NEWS23」のメインキャスター、司会者であり、番組と放送局を代表する立場の人物です。そのような立場から、一方的な意見を断定的に視聴者に押し付ける事は、放送法第四条に規定された番組放送準則に明らかに抵触します。
 
「番組と放送局を代表する立場の人物」とありますが、岸井氏は番組を代表する人物ではあるかもしれませが、放送局を代表する人物であるわけがありません。基本的な事実認識が違います。
 
また、「一方的な意見を断定的に視聴者に押し付ける」とありますが、岸井氏の問題とされた発言「メディアとしても(安保法案の)廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」は、視聴者に向けたものではなく、岸井氏の仲間であるメディアに向けたものです。それを「視聴者に押し付ける」と理解するとは、まったく読解力がありません。
 
岸井氏はほかにもいろいろ発言していますから、当然視聴者に向けたものもあるでしょう。しかし、それはあくまで意見を表明しているだけです。どんなキャスターであれ、「視聴者に押し付ける」ということはできません。
 
「視聴者の会」はどうしてここに「押し付ける」という言葉を持ってきたのでしょうか。つね日ごろ「憲法はアメリカの押し付けだ」と主張しているので、その習性が出たのかもしれません。
日本国憲法の制定時、日本はアメリカの占領下にありましたから、アメリカは確かに「押し付ける」ことができました。
しかし、現在の日本では、どんなキャスターであれ、視聴者に意見を「押し付ける」ことはできません。
 
おそらく「視聴者の会」は「権威」と「権力」の区別がついていないのでしょう。
占領軍には「権力」がありますが、現在のキャスターにあるのは「権力」ではなく「権威」です。
 
「権力」は「押し付ける」ことができます。問題はこちらのほうです。
たとえば安倍首相は、「NEWS23」に出演したとき、街頭インタビューが偏っているとしてブチ切れ、「これ、問題だ」と文句をつけましたが、放送局を所轄する総務大臣と総理大臣は放送局に対して「権力」を持っていますから、これこそが放送局の「政治的に公平」を冒す行為です。
「視聴者の会」はこちらのほうこそを問題にするべきでしょう。
 
しかし、「視聴者の会」がそんなことをするはずがありません。最初に述べたように素性の怪しい団体だからです。
「リテラ」にこんな記事があります。
 
NEWS23』岸井攻撃の意見広告を出した団体の正体! 謎の資金源、安倍首相、生長の家、日本会議との関係
 
デタラメな団体は、主張することもデタラメです。
こういうデタラメな主張は、公開討論会でもやって笑いものにするのが正しい対応です。