米大統領選候補者のトランプ氏は繰り返し「どこかの国が日本を攻撃したら我々は助けなければならない。だが、我々が攻撃されても日本は助ける必要がない。それがよい協定だと思えるか」と発言し、日本に対して駐留経費の増額を要求すると主張しています。それが有権者に受けているようです。
 
安倍首相は安保関連法が施行された329日、「日米同盟の絆は強化された」と言って胸を張りましたが、どうもトンチンカンです。
そういう対米依存の姿勢がトランプ氏に足元を見られることにつながっていると思えるのですが。
 
トランプ氏とアメリカ政府の主流とは考えが違いますが、アメリカ政府も日本に思いやり予算の増額を要求してきました。自立しない国はそういう扱いを受けてしまいます。
 
トランプ氏は日本が駐留経費の増額に応じない場合は米軍を日本から撤退させると言い、日本の核武装を容認するかのような発言もしました。
 
それに対して日本では、ネットの書き込みでこそ「だったら核武装しようじゃないか」という声がありましたが、自民党内部や保守論壇からそういう声はまったく出ていません。
日本の保守や右翼はすっかり対米依存派に制圧されてしまったようです。
 
トランプ氏も日本のそういうところを見越して核武装容認発言をしたのかと思っていましたが、最近そうではないような気がしてきました。
というのは、トランプ氏はNATOについても同じようなことを言っているからです。
 
 
トランプ氏はNATO見直しを主張

CNNとのインタビューでは、北大西洋条約機構(NATO)への関与を見直すべきだとの主張を展開。同盟国を守るために米国ばかりが多額の費用を負担していると主張し、「NATOの構想が生まれた当時の世界とは違う」と述べた。
 
ロシアとの対立が続くウクライナについても、米国が同国の「面倒を見ている」のに対し、欧州諸国は十分な援助を提供していないと力説した。
 
インタビューの後半では、米国が縮小するべきなのはNATOでの役割ではなく拠出する費用だと説明したものの、「見直し」発言は欧州で波紋を呼びそうだ。
 
 
トランプ氏にとってはNATOも日米安保もたいして価値のないもののようです。
 
東西冷戦が終わったとき、NATOや日米安保は存在意義があるのかと言われ、日本では「日米安保の再定義」ということが議論になりました。しかし、いつのまにかその議論はなくなり、ロシアと中国と北朝鮮を“敵”とすることでなんとなくNATOと日米安保は延命してきました。
冷戦思考も継続しています。
 
しかし、トランプ氏には冷戦思考がないようなのです。
 
トランプ氏はプーチン大統領を高く評価しています。お互い独裁者気質だからかと思いましたが、そういうことでもなさそうです。
 
 
今度はトランプ氏がプーチン大統領を称賛
 
1219 AFP】ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が、2016年米大統領選、共和党指名争いの候補の一人、ドナルド・トランプ(Donald Trump)氏を「才能ある」「傑出した」人物だと称賛した翌日の18日、今度はトランプ氏がプーチン大統領を「力強く、人気がある」と称賛した。
 
 トランプ氏は米ニュース専門局MSNBCの番組で「彼は力強い指導者であり、パワフルな指導者だと思う。彼は彼の国を象徴している」とプーチン大統領を評した。
 
 トランプ氏は「世間から優秀だと言われることはいつだっていいことだ。それがロシアを率いる人物であればなおさらだ」と述べた。
 
 番組司会者の一人が、プーチン氏は「ジャーナリストや政敵を殺害し、他国に侵攻している」とコメントすると、トランプ氏はこれをはねつけ、「彼は国を動かしており、この国で私たちが擁している人物とは違い、少なくとも彼は指導者だ。わが国でも人はたくさん殺していると思う。世界でも今、愚行は横行している。多くの殺害が行われている」と述べた。
 
 トランプ氏は、ジャーナリストや政敵の殺害について非難するかどうかは、3度質問されてようやく、「ああ、もちろん(非難はする)」と主張を改めた。(c)AFP
 
 
この記事でおもしろいのは、番組司会者がむりやりトランプ氏とプーチン大統領を敵対させようとしているところです。これこそが冷戦思考です(アメリカは政敵を殺害するような政権といくらでも友好関係を結んでいるのに、この司会者はそのことを無視してロシアだけを問題にしています)
しかし、トランプ氏はプーチン大統領やロシアと敵対する理由はないと考えています。
 
トランプ氏はまた、中国は貿易戦争の相手国と思っているかもしれませんが、実際の戦争の相手とは思っていません。ですから、日米安保の価値も認めないのでしょう。
 
こうした発想は、トランプ氏が実業家でかつ政治の素人だからできることです。プロの政治家は軍産複合体の影響下にあるので、いまだに冷戦思考で固まっています。
 
トランプ氏は移民差別発言などでずいぶんと非難されましたが、アメリカのエスタブリッシュメントがほんとうに非難したいのは、トランプ氏が冷戦思考から脱却しているところかもしれません。
 
日本のエスタブリッシュメントも冷戦思考で固まっているのはアメリカ以上かもしれません。
トランプ氏が日本のエスタブリッシュメントを揺るがす事態になるとおもしろそうです。