米共和党の大統領候補がトランプ氏に決まり、本番はトランプ対クリントンという構図になるようです。
今のところクリントン氏が有利と言われていますが、トランプ氏はずっとすぐに失速すると言われながら、逆に次々とライバル候補をたたきのめしてのし上がってきました。クリントン氏との対決でも、たとえばテレビ討論などで相手をボコボコにして優勢になるということがあるかもしれません。
 
テレビとインターネットの発達で、政治のあり方は大きく変わりました。
おそらく日露戦争や二次大戦のころは、政治家は自分の発言が新聞に載ったときのことを考えて発言していたのではないでしょうか。
テレビの影響力が言われたのは、1960年にケネディとニクソンが初めて大統領選でテレビ討論を行ったときです。これでケネディの人気が高まったとされますが、このときは顔色や服装や若さなど、もっぱら視覚的な要素のたいせつさが言われました(討論をラジオで聞いた人はニクソンのほうを評価したそうです)
 
今はテレビ討論がひんぱんに行われるようになり、インターネットでの論争も行われています。
そうなると、その場で相手を言い負かすということがひじょうに重要になります。
 
これはディベートとは違うものだと思います。ディベートは事実に基づくことや論理を第三者が評価して勝敗を決めますが、政治家のテレビ討論というのは、その場で相手をやりこめて、「勝った」ということを視聴者に印象づければいいわけです。極端な話、間違った事実を持ち出して相手をやり込めてもいいわけですし、暴言で相手を混乱させてもいいわけです。
トランプ氏はそれが巧みです。クリントン氏にとってもむずかしい相手でしょう。
 
 
トランプ氏はまともな交渉力も持っています。

日本や韓国に米軍駐留経費の全額負担を要求していますが、それを実現するためのカードも用意しています。
費用を負担しないのなら米軍を撤退させるというのです。
 
ちなみに日本の核武装容認論もカードのひとつとして出されたものです。
トランプ氏は3月26日のニューヨークタイムズに掲載されたインタビューで、日本が駐留経費の大幅増額を拒否した場合は米軍を撤退させるのかと質問されると、「イエス」と答えました。そして、米軍撤退が日本の核武装につながってもいいのかと質問され、このとき日本の核武装容認発言をしました。
もしこのときトランプ氏が日本の核武装は許せないと言ったら、今度は日本が交渉の有力なカードを持つことになります。そうさせないために核武装容認発言をしたのでしょう。
 
トランプ氏はCNNの5月4日のインタビューでも、日本に米軍駐留経費の全額負担を求めると語り、同時に日本の核武装についても「覚悟はできている」と語っています。
 
これは実際に日本の核武装を認めるということではないと思います。日本が実際にやろうとすると、陰に陽に強烈な反対を受けるでしょう。要は日本に交渉のカードを持たせないために言っているのです。
 
こうした交渉術はビジネスマンとしての経験からもきているのでしょう。
 
一方、安倍首相はというと、まったく交渉力はなさそうです。
安倍首相はこんなことを語っています。
 
 
トランプ氏米軍撤退発言に安倍首相「米軍が不要となる状況は考えられない」 米紙インタビュー
 
【ニューヨーク=黒沢潤】安倍晋三首相は、米大統領選の共和党候補指名争いで先行する不動産王、ドナルド・トランプ氏が在日米軍撤退の可能性に言及したことに関し、「予見できる将来、米国の存在が不必要となる状況は考えられない」と強調した。5日掲載された米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)とのインタビュー記事で述べた。安倍首相はまた、日米同盟の強化で「抑止力を強化でき、日本のみならず地域の平和と安定にも寄与する」と語った。
 
 安倍首相は、中国に南シナ海への進出をやめるよう呼びかけ、5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)について、「あからさまな愛国主義」に対抗する指導力を国際社会に見せつける場になると指摘した。
 
 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)については「参加国は大きな利益を上げ、成長の機会も得られる」と改めて強調した。
 
 
トランプ氏を相手に「米国の存在が必要」とか「日米同盟の強化」とか言ったら、とことん足元を見られます。
 
また、トランプ氏は中国に対して、対中貿易赤字や為替操作で批判していますが、軍事的なことではほとんど発言していません。南沙諸島のことなどまったく興味がなさそうです。軍事的ライバルではなく経済的ライバルという位置づけなのでしょう。
したがって、トランプ氏にとって日米安保もほとんど価値がなく、米軍撤退も平気で口にできるわけです。
 
トランプ氏と安倍首相を比べると、トランプ氏のほうがまともに思えてきます。
少なくともトランプ氏の言いたいことは明白ですが、安倍首相がなにを目指しているのかよくわかりません。