舛添要一都知事に対する批判がまだ続いていて、よくネタが尽きないものだと感心します。
今は「ケチ」とか「下品」とか、知事として仕事をする能力や資質とは関係のない批判になっています。
要するに、なんでもいいから批判したい人がいっぱいいて、メディアもそれに対応しているのです。
よくも悪くもそういう時代です。
 
ただ、朝日新聞は相変わらず独自路線です。逆に批判するべきを批判しません。そのため妙にわかりにくい記事になったりします。
 
 
(政治断簡)こすれ合って、成り立っている 政治部次長・高橋純子
 
摩擦がなければ、机の上の物は滑り落ち、紐(ひも)は結べず、人は歩けず、車も進まない。しかし摩擦が大きければ、スケートは滑らず、車輪は回転しない。(「ブリタニカ国際大百科事典」)
 
 なんの気なしに「摩擦」を引いたら、深遠なる世界の一端に触れてしまった。美しい詩の一節のようではないか。やるな、ブリタニカ。
 
 大きな摩擦は困る。だが、なければいいというものでもない。そんなことを考えたのは、駅ビルの中の飲食店が看板の脇に貼っていた「WAR IS OVER!(戦争は終わった)」のポスターに、「政治的過ぎる」とのクレームがついたと聞いたからだ。
 
    *
 
 東京・JR新宿駅東口改札を出て48歩、ルミネエスト地下1階にカフェ「ベルク」はある。天然酵母パンのトースト、ポテトサラダ、コーン、ゆで卵(半熟卵も可)にコーヒーの「モーニング」は税込み410円。カウンターで立食しているサラリーマン、朝からワインでゴキゲンな女性客らで15坪の店は満杯だ。
 
 クレームが入ったのは5月初旬。ルミネに直接申し入れがあったという。店長の井野朋也さん(55)は、「店に言ってくれればいいのに」。
 
 火がつく。ブレーキがかかる。身体が温まる。何かと何かがこすれ合って生まれる、エネルギー。クレームは拒否するしかない。でも相対すれば、「何か」が生まれたかもしれない。ツイッターでクレームを公表した。みんなに考えてほしかった。
 
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 井野さんは2014年6月末、安倍首相のツイッターにメッセージを送った。「はじめまして。井野碩哉の孫の井野朋也と申します。祖父の臨終の際、岸さんはわざわざいらっしゃって祖父の手を握りしめて下さいました」
 
 井野碩哉(ひろや)。東条内閣の農林相で、A級戦犯容疑者として巣鴨プリズンに拘禁。第2次岸信介内閣で法相に就く。
 
 「祖父の自伝によれば、東條英機を総理に担いだのは、総理になれば様々な立場の意見に耳を傾けなければならないから、戦争に突っ走らないだろうという狙いがあったそうです。その狙いは裏目に出ました」「総理、明日、私は官邸前での集団的自衛権行使可能の閣議決定への抗議行動に参加します。日本の進むべき道、私たちの命運を勝手に決めないで頂きたいのです」
 
 安倍首相はつるんとしている。政治手法は強権的だが、相手と組み合うのではなく、ものすごいスピードで勝手にコロコロッと転がってゆく。こすれないからいつもピカピカ。それが首相の魅力であり、政治家としての欠点でもある。ならば対峙(たいじ)する側が、摩擦係数を高めていくしかない。さて、いかにして。
 
 「WAR IS OVER!」。その下には、小さくこう添えられている。「IF YOU WANT IT(きみがそう望むなら)」
 
 自分が真に何を望むか見定める。それと誰かの望みがこすれ合う。快も不快も痛みもある。でもそうやって成り立っているのだ、この世界は。
 
 
「ベルク」というカフェには私も何度か行ったことがあります。
私にとっては、ちょいと立ち寄ってビールを一杯飲むのに都合のいい店です。
 
新宿駅東口の駅ビルの中にある名物店です。昔ここは「マイシティ」といって、地下に安いスーパーマーケットや惣菜屋のある庶民的な駅ビルでしたが、「ルミネエスト」と名前を変え、おしゃれなファッション店中心の駅ビルに生まれ変わりました。そのときベルクも追い出されそうになり、ルミネ側とバトルを演じて、存続が決定したといういきさつがあります。
 
そのバトルのいきさつはウィキペディアでも読めます。
 
ビア&カフェBERG
 
朝日新聞の記事は、書き出しがなかなかたくみですし、ベルク店長の祖父が東条内閣と岸内閣で閣僚を務めた人物だったという事実にも興味がわきますし、店に貼っていた「WAR IS OVER!(戦争は終わった)」のポスターにクレームがついたということも放っておけない問題ですから、なかなかいい記事ではあります。
ただ、「摩擦」を中心にまとめたためにわかりにくくなっています。
そもそも「安倍首相はつるんとしている」とか「こすれないからいつもピカピカ」という認識はどうなのでしょう。こすれないのはマスコミが安倍首相との摩擦を避けているからではないでしょうか。
 
そして、この記事も摩擦を避けています。
 
この記事が焦点を当てるべきは、ベルク店長の側ではなく、ポスターが政治的だとクレームをつけてきた人間と、そのクレームに対応したルミネの側です。
 
「WAR IS OVER!」のポスターが政治的だとクレームをつけてきたのはどんな人間でしょうか。
 
政治的だとクレームをつける行為がすでに政治的です。つまりこの人間は矛盾したことを言っているのです。
また、この人間は安倍政権支持ではないでしょうか。だったら、そういう立場からクレームをつけるべきです。そうすれば議論が成立します。自分の政治的立場を隠してクレームをつけるのは卑劣なやり方です。
 
ちなみに「放送法遵守を求める視聴者の会」なる団体も、明らかに政治的に偏向した団体であるのに、中立を装って活動するという卑劣なことをしています。

公共の施設ではない自分の店に政治的なポスターを貼るのは本来自由ですから、それにクレームをつけるのは間違っています。ただ、テナント契約の中にそうした制限のある場合があるので、このクレーマーはそこにつけ込んだのでしょう。これもまた卑劣なやり方です。
 
また、ルミネはクレームを受けて、右から左へ伝達しただけなのでしょうか。
ベルク店長は「店に言ってくれればいいのに」と言っているのですから、次に同じようなクレームがあった場合は、ルミネはクレーマーに「店に直接言ってくれ」と言うべきです。
そもそもルミネはクレーマーに対処するとき、テナントを守る姿勢があったのか、それともクレーマーに同調していたのか、それも知りたいところです。
 
このクレーム事件は、ルミネがふたたびベルクを追い出そうとするきっかけになるかもしれません。個性的な店がなくなるのは寂しいことです。
 
朝日新聞はこの記事において、「摩擦」なんていうへんなものを持ち出すより、単純に卑劣なクレーマーや、テナントに冷たいビルオーナーを批判するべきです。
正しい批判ですから、遠慮することはありません。
誰もが人を批判するネタを探している時代ですから、なおさらです。


【追記】
この記事を書いた高橋純子政治部次長は「だまってトレイをつまらせろ」という記事を書いた人でした。
あれはインパクトのあるいい記事でした。今回の記事では、詰まったトイレがふたたび流れ出しそうです。