EU離脱か否かを問う国民投票が迫るイギリスで、残留派の国会議員ジョー・コックス氏が離脱派と思われる男に銃撃され、殺害されました。
それまでの世論調査では離脱派が優勢でしたが、この事件のあとの調査では残留派が優勢となりました。
 
イギリスにとって残留か離脱かどちらがよいのかという問題と、この事件は関係ないはずです。しかし、人間はつねに合理的な判断をしているわけではなく、人の死は重いので、それに影響されてしまいます。
日本でも、候補者が急死して、その奥さんや関係者が急きょ身代わりで立候補して“弔い合戦”などと称すると、票が集まるという傾向があります。
 
人間の投票行動や政治行動が必ずしも合理的なものでないことは明らかです。
民主主義社会では、その不合理さがそのまま政治に反映されて、さまざまな問題が生じます。
 
たとえば、多数派が少数派を差別している社会では、民主主義によって差別は解消されない理屈です。アメリカの黒人差別などはそうです。
移民もその社会では少数派ですから、移民差別の政策も支持を集めやすい傾向にあります
 
また、人間は将来の大きな利益よりも目先の小さな利益を求める傾向がありますから、たとえば減税政策は人気で、増税政策や緊縮政策は不人気です。その結果、ほとんどの国で財政赤字は拡大していきます。
 
人間は防御よりも攻撃を好む傾向があるので、好戦的な政策は人気になります。
また、戦争の危機が迫ると人は団結しようとするので、選挙では政権党が有利になります。それを見越して戦争の危機を演出しようとする政府があるかもしれません。
 
選挙戦でネガティブキャンペーンがよく行われるのも、人間がそういう攻撃的なやり方を好むからでしょう。
ただ、ネガティブキャンペーンでは政策論議は深まりません。
 
民主主義は、人間のだめなところがもろに出る制度です。
むしろだめなところが拡大して出るかもしれません。
 
最近、18歳選挙権の実施に伴って「有権者教育」ということがよく言われます。
その中身が「よく考えて投票しましょう」みたいなことだったら無意味です。
よく考えて投票しても、今のような政治になるだけです。
 
人間は経済行動においても不合理なことをするので、それを研究する「行動経済学」は最近ブームになっています。
政治行動の不合理さを研究する「行動政治学」もあるはずだと思って検索してみましたが、どうやらありません。
経済行動の失敗は数字になって現れますが、政治行動の失敗はごまかしがきくからでしょうか。
 
有権者の行動をよく研究して、そのだめさを教えるほんとうの「有権者教育」が必要です。