フィリピンのドゥテルテ大統領は、「ヒトラーは300万人のユダヤ人を虐殺したが、(フィリピンには)同じ数の麻薬中毒者がいる。彼らを虐殺できれば幸せだ」と発言しました。
国際社会から非難を浴びると、ユダヤ人社会に対しては謝罪しましたが、麻薬中毒者を殺すと言ったことについては謝罪していません(ドゥテルテ大統領は10月下旬に来日することになっていますが、安倍首相は笑顔で握手するつもりでしょうか)
 
これと似ているなと思ったのが、人工透析患者を殺せとブログで発言したフリーアナウンサーの長谷川豊氏です。
 
長谷川氏は、人工透析患者の多くは医師からの注意を無視して自堕落な生活を送り続けた結果人工透析を受けざるを得なくなった患者であると主張し、「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」という過激なタイトルのブログ記事を書きました。
これに抗議が殺到して炎上しました。
長谷川氏は、タイトルに「殺せ」という言葉を使ったのは誤解を招いたと反省していますが、「保育園落ちた日本死ね!!!」と同じで、過激な言葉で自分の主張を拡散したかったからだとし、「今でも間違った内容を書いたつもりはない」、全国腎臓病協議会(全腎協)が公開抗議文で謝罪を要求していることについても、「謝罪については断固拒否する」と語っています。
 
ヒトラーはユダヤ人という人種を抹殺しようとしました。
「ヒトラーの思想が降りてきた」という相模原19人殺しの植松聖容疑者は、知的障害者を殺しました。
「人種」や生まれつきの「障害」というのは、本人の意志ではどうにもならないことです。こうしたことを理由に迫害や蔑視をすることは差別であるとコンセンサスができています。
 
その点、ドゥテルテ大統領が殺すと言っているのは犯罪者ですし、長谷川氏が殺せと言ったのは自堕落な生活をしてきた人工透析患者です。
「犯罪」や「自堕落」な生活というのは本人の意志によるものだから差別ではないというのが、ドゥテルテ大統領や長谷川氏の考えでしょう。
 
しかし、このような本人の意志、つまり「自由意志」を前提とした考え方は今や破綻しつつあります。
 
たとえば糖尿病が原因で人工透析になる患者が多いのですが、1型糖尿病はもちろん2型糖尿病も遺伝的要素が強いことがわかってきています。
また、糖尿病の原因に肥満も挙げられます。昔は「身長は遺伝だが体重は本人の意志」という考えが支配的でしたが、今は肥満遺伝子が発見されるなど、生まれつき太りやすい体質のあることがわかっています。
「自堕落」などという道徳概念を病気の原因と見なす長谷川氏の主張が炎上を招くのは当然です。
 
ドゥテルテ大統領も麻薬中毒者を殺すと言っています。麻薬使用は犯罪なのでしょうが、麻薬中毒は病気です。ドゥテルテ大統領の主張も破綻していると言わざるをえません。
 
 
病気については医学的研究が進んで「自由意志」の範囲はどんどん狭まっています。最終的には「自由意志」は消滅するはずです。
 
ただ、犯罪や貧困などの社会的問題については科学が及ばないので、いまだに「自由意志」のせいにされています。
そのため貧困や格差は「自己責任」だとする新自由主義的主張がまかり通っています。
 
しかし、社会科学がほんとうの科学になれば、こうした事態もなくなるでしょう。今は過渡期であり、ドゥテルテ大統領や長谷川氏の主張はあだ花みたいなものです。