いわゆる「共謀罪」法案が5月19日、衆院法務委員会で強行採決されました。
反対運動はそれほど盛り上がりません。反対運動のあり方にも問題があるのではないでしょうか。
 
金田勝年法相の答弁はきわめてお粗末で、「私の頭脳が対応できない」とか「花見であればビールや弁当を持っているのに対し、下見であれば地図や双眼鏡、メモ帳などを持っている」など言ったことが話題になりました。しかし、それほど“炎上”はしません。
 
もともと金田法相はお飾りみたいなもので、共謀罪法案を提出した主謀者でもありませんから、彼を責めるのは筋違いでもあります。
 
では、共謀罪法案を提出した主謀者は安倍首相かというと、そうとも言えません。最初に共謀罪が国会に提出されたのは2004年、小泉内閣のときです。
つまり法務省や警察はずっとこのような法律をつくりたくて、やっと今回実現しそうになったわけです。
 
なぜ法務省や警察がこのような法律をつくりたいかというと、みずからの権限を拡大したいからです。これは役人の本能みたいなものです。
それに最近は刑法犯もテロ事件も減少する一方なので、予算をへらされないためにも犯罪の範囲を拡大したいという動機もあると思われます。
 
私は前からこのことを主張してきましたが、刑法学の高山佳奈子京大教授も同じことを書いておられたので、その記事の一部を引用しておきます。
 
 
もし「共謀罪」が成立したら、私たちはどうなるか【全国民必読】
知らなかったと後悔する前に

高山佳奈子

 
なぜ、このように無用な処罰規定を広範に導入する法改正が急がれているのか。
「政府に批判的な勢力を弾圧するため」、「米国に情報を提供するため」という見方にも説得性があるが、筆者は特に、「犯罪のないところに犯罪を創り出し、取締権限を保持するため」という動機が1つの背景をなしていると見ている。
近年の犯罪統計によれば、犯罪認知件数は激減しており、戦後最低新記録を更新中である。暴力団関係者の数とそれによる犯罪も大きく落ち込んでいる。仕事のなくなった警察が摘発対象を求めているかのように見える。
筆者がそのように考えるのは単なる憶測によるものではない。近年、何の違法性も帯びていない行為の冤罪事件や、極めて軽微な違法行為を口実とした大幅な人権剥奪が現に起こっていることが根拠である。
 
筆者が直接関与した事件の例として、大阪のクラブが改正前風営法のダンス営業規制により訴追されたNOON裁判がある。
クラブNOONは単にフロアで音楽を流していただけで、深夜営業もしていなければ未成年者もおらず、騒音やごみ、いわんや暴行・傷害や違法薬物の問題も全く生じていなかった。
最高裁は、クラブには表現の自由と営業の自由が及んでおり、社会に対する実質的な危険がなければ無許可営業罪の処罰対象にはならないとして、無罪の判断を下した。
しかし、最高裁まで争って無罪を勝ち取った金光正年氏以外は、同様の事案で多くのクラブ関係者が略式手続によって冤罪の状態のままに置かれてる。
しかも、改正風営法ではダンス営業の罪が廃止されたものの、これよりもさらに広範で違憲の疑いの強い「遊興」処罰規定が新設され、多数の飲食店に対し、警察が嫌がらせともとれる立入りなどを実施している。
警察には仕事がないらしい。クラブ関係者の政治的立場は多様であり、反政府的であるから摘発されたとは考えがたい店も多い。
最近では、女性タレント2名が電車の線路に立ち入った行為が鉄道営業法違反で書類送検の対象になっている。この行為はクラブ営業と異なり違法は違法だが、極めて軽微な違法性しかない。この程度の行為であれば、刑事罰の対象とはされない国も多い。彼女たちは何の政治的立場もとっていない。
また、昨年5月には、右翼団体「草莽崛起(そうもうくっき)の会」メンバー20名が、道路交通法上の共同危険行為を理由に、運転免許の取消処分を受けることになったと報道された。
こうした摘発の現状を見ると、対象にされる者が政府に対してどのような立場をとっているかは、警察の実績づくりのためにはもはや関係がなくなっていると考えられる。
現行法の下でもこの状態であるから、いわんや、共謀罪処罰が導入されれば、取締権限がどのように用いられるかは、一般人の予測しうるところではないことが明らかである。
 
 
つまり共謀罪法案提出の主謀者は法務・警察官僚です。
ここを標的にして反対運動をするが正しいやり方です。
 
金田法相の答弁があまりにも不安定なので、与党は林真琴刑事局長を政府参考人として出席させて代わりに答弁させることにしました。
野党としては金田法相のバカな答弁を引き出したいところですから、このことに反対するのはわかります。しかし、林刑事局長が出席することに決まったら、法務官僚の考え方をただすチャンスです。
 
しかし、今のところそういう展開にはなっていません。
ひとつには、共謀罪法案があまりにも複雑で、野党議員の力不足ということもあるでしょう。
しかし、根本的には、金田法相のような政治家は批判しても、官僚は批判しないという習慣があるからではないかと思われます。
この習慣はマスコミも同じです。
森友学園問題で財務省の佐川宣寿理財局長が「すべての記録書類を廃棄した」などとふざけたことを答弁しても、ほとんど批判されません。
 
政治家もマスコミも「官僚依存」です。
民主党政権が失敗したのも「官僚依存」を崩せなかったからです。
森友学園問題や加計学園問題の真相追及がうまくいかないのも、官僚の妨害に打つ手がないからです。
 
マスコミが林真琴刑事局長や佐川宣寿理財局長のことをどんどん報道して、国民の怒りがそちらに向くようになると、この国のあり方も大きく変わるのではないかと思います。