草津白根山が噴火し、自衛隊員1人が亡くなったとき、ネット上では「自衛隊員8人が円陣を組んで噴石から民間人を守り、その後1人が亡くなった」という情報が拡散しました。
噴火当日からSNSで広がり、中でも元衆議院議員の中津川博郷氏のツイートで大きく拡散したということです。
しかし、この情報にはソースがなく、どうやら5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)の匿名書き込みがもとになっていたらしく、災害時によくあるデマと思われます。
 
このデマ拡散の詳細は次の記事で読めます。
 
草津白根山噴火「自衛隊員8人が円陣になって民間人を守り、死亡した」は本当か
 
噴石が飛んでくるときに誰かを守るために円陣を組むというのはまったくありそうになく、それだけでデマとわかります。
デマを拡散した元衆議院議員の中津川氏は過去3回当選したことがある人で、「正しい歴史を伝える会」の顧問をしているというのは皮肉です。
 
災害のときにはヘイトスピーチのデマも拡散しがちですが、逆の「美談」のデマも拡散するようです。
 
 
今のはデマですが、読売新聞は別の「美談」を書いています。
 
部下に覆いかぶさり背中に噴石直撃…死亡陸曹長
今回の噴火で死亡した陸上自衛隊第12旅団第12ヘリコプター隊の伊沢隆行陸曹長(49)(死亡後、3等陸尉に特別昇任)が、部下の隊員をかばい、噴石の直撃を受けていたことが25日、関係者への取材でわかった。
 
 一方、陸自と群馬県は同日、「遺族の了承を得られた」として伊沢さんの氏名を公表した。
 陸自や関係者によると、伊沢さんは23日午前9時50分頃、他の隊員7人と共に山頂から滑降を始めた。約10分後、スキー場北側の本白根山から轟音が響き、噴石が降ってきた。すぐに隊員らはコース脇の雑木林に避難したが、林の中にも噴石が降り注ぎ、隊員らは次々と倒れていった。伊沢さんは、近くにいた部下を守るように覆いかぶさった。その背中を噴石が直撃したという。
 噴石がやんだ午前10時10分頃、隊員の一人が携帯電話で救助を要請。救助が到着するまでの間、伊沢さんのおかげで軽傷で済んだ部下らが、動けない隊員たちに声をかけ続け、伊沢さんは「肺が痛い」と話していたという。伊沢さんは麓に運ばれて救急車に乗せられたが、車内で心肺停止となり、午後0時半頃、搬送先の病院で死亡が確認された。
(後略)
 
朝日新聞と毎日新聞もほぼ同じ内容の記事を書いているので、デマではありません。
 
ただ、疑問は残ります。伊沢陸曹長の背中に噴石が直撃して、それから部下の上に倒れた可能性もあるのではないでしょうか。
 
それから、2人並んで伏せるより重なって伏せたほうが噴石直撃の可能性が半分になるというきわめて合理的な判断であったとも考えられます。この場合、「部下をかばった」という表現は違うことになります。
 
私がこうしたことを考えるのは、人間は基本的に自分の命をいちばんたいせつにするものだという認識があるからです。
たとえば、駅のホームから人が転落して、それを助けた人が死んでしまうという事故があると、マスコミは「自分の命を犠牲にして人を助けた」という美談にしますが、実際のところは、その人は死ぬ気はなくて、判断ミスをしただけです。
.11テロでワールドトレードセンタービルが崩落したとき、多数の消防士が犠牲になり、マスコミはやはり自己犠牲として称賛しましたが、実際のところは、消防士はビルの崩落を予想できなかっただけです。
 
マスコミは自己犠牲の美談が大好きです。
というか、一般の人が自己犠牲の美談を好むのです。
なぜなら自己犠牲を称賛しておくと、うまくいけば他人が自己犠牲の行為をしてくれて、自分が得をするという(無意識の)計算があるからです。
 
 
しかし、このケースは自衛隊の上官と部下です。
これがもし建設現場で鉄骨が落下してきて、建設会社の上司がかわいがっていた若い部下の上にかぶさって死んだというなら、すばらしい美談になります。
しかし、軍隊で上官や指揮官が部下を助けて自分が死んでいたら、“商売”になりません(そういう意味でも、伊沢陸曹長が部下をかばって死んだというのは疑問です)
 
これは実戦ではなく訓練中なので事情が違いますが、上官が部下を助けて死んだという美談が成立してしまうと、実戦がやりにくくなります。
 
なんでもかんでも自己犠牲の美談にするのはマスコミの悪いくせで、自衛隊の場合は美談になりません。逆に“営業妨害”です。
もしかすると、戦争をしにくくしようという深慮遠謀かもしれませんが。