南北首脳会談によって半島情勢が急転換していますが、その中で安倍政権がもっぱら発信しているのは拉致問題の解決です。
といって、みずからなにかをするわけではなく、トランプ大統領と文大統領に頼むだけなのですが。
それに、半島の非核化が実現するか否かという大問題の前に拉致問題を提起することが果たして適切なのかどうか。
世界から見て、日本だけが平和への流れに棹をさす“痛い”国になっているのではないでしょうか。
 
 
そもそも「拉致問題の解決」とはどういうことなのでしょうか。
 
日本政府が拉致被害者として認定したのは17人で、うち5人が帰国ずみなので、残りは12人です。
この12人について北朝鮮は、「8人は死亡、4人は入国していない」と主張しています。
それに対して日本政府は、北朝鮮側の説明には不自然で曖昧な点が多く、捜査によって判明した事実との矛盾も多く、信ぴょう性が疑われるとし、政府が認定した以外の拉致被害者がいる可能性もあるとしています。
 
しかし、北朝鮮の説明がいい加減だとしても、拉致被害者が今も生きているということにはなりません。
かりに生きていたとしても、それは北朝鮮にとっては不都合な真実です。言いにくいことですが、現実を嘘の説明に合わせた可能性が高いでしょう。
北朝鮮が「あの説明は嘘でした。実は生きているので、返します」と言うことを日本政府は求めているわけですが、とうていありえないことに思えます。
 
横田めぐみさんは拉致被害者の象徴的存在です。
北朝鮮は横田めぐみさんの「遺骨」を日本に送ってきましたが、その一部からめぐみさんのものと違うDNAが発見されるなどのことがあって、死亡説は疑わしいとされました。しかし、死亡説が疑わしいからといって、生存しているということにはなりません。
 
拉致問題については日本政府の公式サイトが詳しく説明しています。
 
北朝鮮による日本人拉致問題
 
このサイトを見ると、日本政府は拉致問題を利用してきたのではないかと思わざるをえません。
たとえば、横田めぐみさんについてはこのように記述されています。
 
 
めぐみさんは、明るく朗らかな少女でした。家族にとって、まるで太陽のような存在でした。歌うのも、絵を描くのも大好きで、習字やクラシックバレエも習っていました。
 
めぐみさんがいなくなる前日の1114日はお父さんの誕生日。めぐみさんは、お父さんにくしをプレゼントしました。「これからはおしゃれに気をつけてね」という言葉とともに。
 
めぐみさんがいなくなった日から、家族の生活は一変しました。にぎやかだった食卓は火が消えたようになりました。
お父さんは毎朝少し早めに家を出て海岸を見て回りました。お母さんも、家事を終えると町のあちこちを歩き回り、めぐみさんの名前を呼びながら海岸を何キロも歩きました。
夜になると、お父さんはお風呂で泣きました。お母さんも、家族に分からないように一人で泣きました。どうしてこんな悲しい目にあうのだろう、もう死んでしまいたい、とも考えました。
そんな悲しみと苦しみの中、手がかりもないまま時は流れました。---
 
 
日本政府の公式サイトに、まるで北朝鮮のようなプロパガンダ臭の強い文章が載っています。
とりわけ安倍政権は、拉致問題を人気取りに利用してきました。
 
人気取りが一概に悪いとはいえません。
しかし、非核化という重大問題があるときに拉致問題を持ち出すことは、世界にとっても日本にとってもマイナスでしかありません。
 
拉致問題は「犯罪」であり「人権」問題でもあります。
しかし今、日本は拉致問題を棚上げにするという勇気ある決断をするべきではないでしょうか。