このところ世の中はパワハラとセクハラの話題ばかりのような気がします。
権力を背景に相手のいやがることをするのがパワハラ、セクハラですが、加害者が自分の非を認めようとしないために話が長引きます。
なぜパワハラ、セクハラの加害者が自分の非を認めないかというと、おとなと子ども、親と子の関係に根本的な問題があるからです。
 
たとえばほとんどの親は日常的に子どもに「勉強しなさい」と言って、むりやり勉強させています。親は権力を背景に子どものいやがることをしているので、これは明らかにパワハラです。
 
このことは次の記事でも書きました。
 
「なぜ勉強するのか」と子どもに聞かれたら
 
こういうことはいっぱいあります。「好き嫌いはいけません」と言って、ピーマン嫌いの子どもにむりやりピーマンを食べさせるなどもそうです。
 
親は子どものためだからといって、これをパワハラと認めません。
しかし、パワハラか否かは、された側がいやかどうかで決まるのです。
子どもがいやな思いをしているなら、それはパワハラです。
 
ところが、今は親だけでなく社会全体が、これをパワハラと認めていません。
そのため、パワハラをやっていながら自分の非を認めない人がいっぱい出てくるのです。
 
 
おとなと子ども、親と子の関係のゆがみは、文明論のスケールでとらえる必要があります。
 
たとえば「反抗期」という言葉があります。昔は第一次反抗期、第二次反抗期と言っていました。
最近は第一次反抗期のことを「イヤイヤ期」と呼ぶのが一般的になっています。
しかし、イヤイヤ期というのはおとなの側から見た表現で、否定的な意味があります。これを子どもの側にそった表現に変えたらどうかという投書があり、朝日新聞がイヤイヤ期の別名を募集して、その特集記事を2回にわたって掲載しました。
 
「イヤイヤ期」別名募集、思い様々 共感できる環境大事
 
イヤイヤ期って、ブラブラ期 反響編:下 北海道大・川田学准教授に聞く
 
イヤイヤ期の別名としては、「めばえ期」「自分で期」「やるやる期」に票が集まりました。ほかに「キラキラ期」「2歳の独立宣言期」などもあります。
 
かなり昔ですが、反抗期を「自立期」と言い換えようと提唱していた育児の専門家がいました。これはわかりやすい表現と思いましたが、自立期は消えてしまったようです。
 
川田学准教授は「ブラブラ期」を提唱しておられます。
 
■チベットから着想
 ブラブラ期という言葉は、チベットの留学生の話から着想を得ました。彼女に「第一次反抗期」について説明しても、「そういう子どもの姿は見たことがない」と言って腑(ふ)に落ちないようでした。彼女の実家がある村では、乳児は親と一緒に畑や街の仕事場に行く。4、5歳になると、農耕や牧畜を手伝うこともある。「では2、3歳は?」と聞くと、笑いながら「ブラブラしています」と答えました。私は、2歳児の躍動的な姿とこの自由な語感が、ぴたっと合うように感じました。
 その村では、2歳前後の子は排泄(はいせつ)したくなったら道端でして通りかかった大人にお尻を拭いてもらい、おなかがすいたら近くの家を「コンコン」して「ごはんください」と言うのが日常だそうです。
 心理学は欧米が先行しているため、2歳前後の呼び方は「ネガティビズム」「テリブル・トゥー(魔の2歳児)」など否定的な用語が支配的です。ただ、南米を主なフィールドにした心理学者バーバラ・ロゴフも「世界中のほとんどの国では、2歳児についてマイナスの形容をしていない」と2003年の著書に記しています。
 
 ■「楽しい」をつなぐ
 2歳児とは、考えてから行動するのではなく、行動しながら考え、小さな楽しみをつなぎ合わせて過ごす人たちなのです。例えば、散歩に行っても、すぐ「こんな所につくしんぼがある」と長い時間触って楽しんだ後、「アリがいる」と気づいて座り込んでじーっと見る。その最中に大人が早く目的地に行こうよと引っ張ると、泣いて嫌がるでしょう。ブラブラ期と呼べば、大人がイヤイヤをどう封じるかという消極的な対処ではなく、どう子どもをブラブラさせるかと積極的に考えられるのではないでしょうか。
 しかし、現実の日本社会はブラブラを阻むものだらけです。「ワンオペ育児」で孤立する母親は、自宅で子どもと長時間1対1で居続ける負担で、ブラブラに付き合えません。
 
 ■道路を遊べる場に
 では、何から始めればよいか。私が提案するのは、まず、道を安全にブラブラさせてあげること。手始めに、子どもが道路や歩道に落書きする自由を保障してはどうでしょう。全ての子にろう石を配り、近所の道路にいっぱい絵を描けばいい。子どものころ、道端で描いていませんでしたか?
 2歳児のブラブラを保障できる社会は、間違いなく他の年齢の人たちも生きやすい社会のはずです。
 
 
親が子どもに不当な抑圧を加えるから反抗期やイヤイヤ期が生じるということが、この文章を読めばよくわかります。
 
たとえばおとなは子どもに「おとなしくしなさい」とよく言います。
「おとなしく」というのは「大人しく」と書き、おとならしくするという意味です。
小さな子どもにおとならしくしろというのは、子どもの発達を無視した不当な要求ですが、ほとんどのおとなにその自覚がありません。
 
今の子育て自体がパワハラ化して、その結果、世の中にパワハラ、セクハラが蔓延しているのです。