トランプ政権が国連人権理事会からの脱退を表明したのに対して、菅官房長官は6月20日の記者会見で、「他国の国際機関への対応について政府としてはコメントするべきではない」と語りました。
しかし、これは国連のことであり、かつ人権のことですから、コメントしても内政干渉にはなりません。とりわけ国連人権理事会は日本政府が拉致問題を訴えてきた場です。
もっとも、日本政府がアメリカになにも言えないのはいつものことです。
 
そもそものきっかけは、トランプ政権がイスラエルのアメリカ大使館を聖地エルサレムに移転すると決めたことです。それに反発したパレスチナのデモ隊にイスラエル軍が発砲し、多数の死傷者が出ました(たとえば5月14日には約60人が死亡、2000人以上が負傷)
武器を持たないデモ隊に軍が発砲して多数の死傷者が出れば、その国の政府が非難されるのは当然です。もしこれがロシアや中国で起これば、国際社会は大騒ぎでしょう。
しかし、イスラエルはアメリカが断固として擁護し、アメリカの影響力は強大なので、国際社会ではそれほど大きな騒ぎにはなりません。しかし、人権理事会は調査団の派遣を決めるなどアメリカの思い通りにならなかったので、今回の脱退表明にいたったわけです。
 
日本政府はいつものこととして、日本のマスコミはどうでしょうか。
朝日新聞がアメリカの人権理事会脱退に関する解説記事を書いています。
 
(時時刻刻)「国益優先」改めて鮮明 「反イスラエル」と非難 米、国連人権理を脱退
 トランプ米政権が「反イスラエルへの偏向」を理由に、国連人権理事会からの脱退を19日に表明した。温暖化対策の国際ルール「パリ協定」、イラン核合意、国連教育科学文化機関(ユネスコ)などに続き、国際社会が米国の意向に沿わなければ、国益を優先する姿勢が改めて鮮明に。人権侵害が指摘される現場からは、米国の地位が低下し、理事会での中国などの影響力が強まるとの見方も出ている。
 
 「政治的偏向に満ちた汚水だめ」「恥知らずの偽善」
 米国務省で19日に会見したポンペオ国務長官とヘイリー米国連大使は、人権理事会をあらゆる言葉を使って批判した。トランプ政権の主張は、人権侵害国家が理事国になり、理事会を隠れみのにし、イスラエルを不当に糾弾しているというものだ。イスラエルは米政界に強い影響力があり、トランプ氏支持のキリスト教福音派は親イスラエルだ。
(後略)
 
 
アメリカの今回の決定を批判しているようですが、実際はアメリカの側に立って、トランプ政権を擁護する記事になっています。
 
見出しに『「国益優先」改めて鮮明』とあります。
「国益優先」というのは国際政治の世界では当たり前のことです。そういう意味で、この記事はアメリカを批判していない記事と思われてもしかたありません。
もしアメリカの今回の決定を批判するなら、『「人権軽視」改めて鮮明』という見出しになるはずです。
 
それに、人権理事会脱退がアメリカの国益になるかというと、まったくなりません。むしろ国際的に孤立して、国益に反するはずです。現にこの記事にも「米国の地位が低下し、理事会での中国などの影響力が強まるとの見方も出ている」と書かれています。
つまり事実に反することを見出しにしてアメリカ擁護をしているのです。
 
それからこの記事は、「イスラエルは米政界に強い影響力があり、トランプ氏支持のキリスト教福音派は親イスラエルだ」と解説しています。
つまり人権理事会脱退はイスラエルとトランプ支持者のためだというのです。
これは嘘ではありませんが、わざと的の真ん中を外した書き方です。
 
的の真ん中というのは、パレスチナ人がイスラエル軍に殺されている、つまりパレスチナ人の人権が軽視されているということです。
アメリカはイスラエルと緊密な関係にあるのですから、当然イスラエルを止めてパレスチナ人の命を救わなければなりません。
それをしない理由は、アメリカもまたパレスチナ人の人権を軽視していること以外にはありえません。
 
トランプ大統領は人種差別主義者ですから、パレスチナ人を差別しているのは当然です。しかも、キリスト教思想からイスラム教徒を差別していますし、聖地エルサレムを完全支配下に置くためにじゃまなパレスチナ人を排除したいとも思っているはずです。
 
その理由はともかく、アメリカとイスラエルがパレスチナ人の人権を軽視しているのは現実の出来事で、それが問題の核心です。
 
 
ところが、朝日新聞の解説記事は、「アメリカはパレスチナ人の命をなんと思っているのか」という批判をせず、「重要な役割を果たしている国連人権理事会からアメリカが脱退するのは国際政治にマイナスだ」という政治力学のことばかり書いています。
 
今の政治状況は、右翼と左翼の対立はほとんど無意味になり、もちろん進歩と反動というモノサシもありません。ですから、人権をどこまで深くとらえているかが唯一のモノサシになるといっても過言ではありません。
たとえば最近よく議論の対象になるのは、パワハラ、セクハラ、ヘイトスピーチ、学校でのイジメ、犯罪報道のあり方、芸能人不倫報道のあり方などですが、これらはすべて人権問題です。
 
 
朝日新聞というと進歩派で人権重視というイメージがありますが、人権についての認識はまったくいい加減です。そのため社会への影響力を失っていますし、逆に偽善的という批判を招いています。