「華氏119(マイケル・ムーア監督)を観ました。
トランプ大統領を描いた映画というよりも「トランプ時代のアメリカ」を描いた映画です。
日本のマスコミだけではわからないアメリカの姿が見えてきます。
 
たとえばミシガン州フリント市の水道水が鉛汚染され、子どもたちに重大な健康被害が及んでいるという問題。これは行政によって隠蔽され、まるで日本の水俣病みたいです。ここは黒人の多い貧困地域のため、放置されてきました。オバマ政権でも解決しなかったのです。
 
また、2016年の民主党予備選ではヒラリー・クリントン候補とバニー・サンダース候補が最後までデッド・ヒートを演じましたが、サンダース候補は民主党の不正により代議員票が獲得できず、敗北します。これによりサンダース候補支持者たちの多くは大統領選で棄権しました。
 
トランプ勝利には民主党側にも問題があったということです。
 
トランプ大統領への批判にはそれほど時間を割いていません。おらそくムーア監督が今さらする必要もないぐらいに批判されているからでしょう。
ただ、トランプ氏が娘のイバンカにキスしたり体に触ったり、性的な関心を示す目で見つめたりという近親相姦的シーンを集めたところは、いかにもムーア監督らしいところです。一般のメディアにはできないでしょう。
実の娘に性的関心を示すとは、もっとも忌み嫌われる行為ですが、トランプ氏の場合はほとんどマイナスになっていません。むしろ支持者は、美人の妻と娘に恵まれてうらやましいといった反応を示しているのではないでしょうか。
ただ、こうしたトランプ氏の人間像にはあまり切り込んでいきません。
 
ムーア監督が力を入れたのは、アメリカにとっての希望の方向を示すことです。
 
たとえば、ウエストバージニア州の教員はきわめて低い給与水準にあったということで、大規模な教員ストライキが起こりました。ストライキはSNSなどを通して拡大し、最後には勝利しました。
高校での銃乱射事件をきっかけに、高校生が先頭に立って銃規制を求める運動を展開するようになりました。
また、中間選挙では女性やマイノリティの候補が多く立って、支持を集めました。
 
これらを見ていると、アメリカの分断の構図が見えてきます。
アメリカ独立宣言では基本的人権がうたわれましたが、先住民にも黒人にも人権はなく、また選挙権は成人男性だけでしたから、女性と子どもにも人権はなかったことになります。
つまり建国のときから白人成年男性VS女性・子ども・黒人・先住民という分断があったのです。
トランプの支持者は白人男性が中心です。
今も白人成年男性VS女性・子ども・マイノリティという分断の構図が続いていることになります。
 
また、教員ストライキやサンダース旋風のもとにあるのは「社会主義」です。
最近アメリカでは若い世代を中心に社会主義の人気が高まっているということです。昔は「アメリカ=反共」と決まったものでしたが、そういう図式は成り立たなくなっています。
アメリカは冷戦に勝利し、世界に対立の構図はなくなりましたが、アメリカ国内に資本主義対社会主義という対立の構図が移し替えられたわけです。
 
日本のマスコミは、トランプ支持層であるラストベルトの白人ばかりを取り上げます。
しかし、彼らは現状への不満を移民やマイノリティにぶつけ、保護貿易に守ってもらおうとしています。今後、衰退していく一方でしょう。
トランプ政権はつねに支持率よりも不支持率のほうが上回っています。反トランプ派の動向のほうが重要です。

この映画には、いつものムーア監督の痛快な切れ味はないので、おもしろさを期待すると今一歩かもしれません。
しかし、アメリカの現在の姿がわかるという点で、やはり一見の価値があります。