韓国政府が1121日に慰安婦財団を解散すると発表すると、すかさず安倍首相は「国際約束が守られないのであれば、国と国との関係が成り立たなくなってしまう。韓国には国際社会の一員として責任ある対応を望みたい」と語りました。
安倍首相に限らずマスコミや有識者も同じように韓国を批判しています。
 
しかし、国際約束をいうなら、トランプ政権は合意も協定も条約も破りまくっています。トランプ政権にはなにも言わずに韓国にだけ言う日本の姿は、「強い者にはこびへつらい、弱い者には威丈高になる」という卑劣な人間と同じです。
 
慰安婦財団解散や慰安婦像問題について、日本では韓国は日韓合意を守れという声が圧倒的です。しかし、日韓合意はそれほど価値あるものでしょうか。
 
そもそも日韓合意は文書化されていません。20151228日に岸田文雄外務大臣と尹炳世(ユン・ビョンセ)韓国外交部長官が共同記者会見で語った言葉があるだけです。
岸田外相はそのとき「安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する」と語りましたが、安倍首相の口から語られなかったことがのちのち問題になります。
 
日韓合意について国連からは「元慰安婦らを中心としたアプローチを完全には取っていない」とか、人権侵害行為調査や加害者の刑事責任追及などに「努力がみられない」とかの指摘を受けていましたが、2017年5月には国連拷問禁止委員会から合意を見直すべきとの勧告を受けています。
ですから、日韓合意を金科玉条のようにして韓国を批判する日本は、国際社会からあまり共感を得られないでしょう。
 
日韓合意は、オバマ政権の強い圧力のもとで日韓両政府ともいやいや結ばされたものです。
発表当時は、日韓ともに反対と不満の声が噴き出しました。その声は日韓とも同じくらいの強さでしたから、そういう意味ではちょうど中間地点で折り合った、ひじょうによくできた合意ではありました。
 
ところが、釜山市の日本総領事館前に民間団体により慰安婦像が設置されたことに日本政府が猛抗議したことで合意が崩れ始めます。
日本政府は、慰安婦像について韓国政府が善処するという水面下の約束があるという立場のようですが、民間団体のすることを政府がコントロールできるはずがなく、日本政府の抗議は無理筋であるだけでなく、「日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」という合意をみずから破っています。
その後、世界各地に慰安婦像が設置されていったのは周知の通りです。
 
 
現在、日本は韓国に日韓合意を守れと主張し、韓国では日韓合意を破棄しろという声が高まっています。
これはどういうことかというと、日韓合意当時よりも日本が韓国に押し込まれているということです。
韓国は調子に乗って、徴用工問題にも戦線を拡大してきました。
 
それに対して日本は、日韓合意を守れ、日韓請求権協定を守れと主張しています。つまり法を盾にしているのです。
対して韓国は、元慰安婦、元徴用工の人権、人道を掲げて攻めています。
この戦いはまったく勝ち目がありません。
 
日本はよく「韓国はゴールポストを動かす」と言って韓国を批判しますが、こういう主張も信用されません。間違った位置にゴールポストがあれば、動かすのは当然だからです。
 
日本の保守派は東京裁判について「日本が事後法で裁かれたのは不当だ」と主張しますが、第二次世界大戦の枢軸側はホロコーストなどの事前に想定しえない大罪を犯したということで、事後法で裁くしかないというのが戦勝国側の主張です。そのために「人道に対する罪」という概念もつくられました。「事後法で裁かれたのは不当だ」という主張は国際社会ではまったく相手にされません。「ゴールポストを動かすのは不当だ」という主張も同じです。

現在、慰安婦は「性奴隷」ということが定着し、徴用工はforced labor」つまり「強制労働者」と訳されています。こういうことを議論すればするほど日本のイメージが悪くなります。
これは軍国日本のやったこととして、現在の日本と切り離すしかありません。
ところが、安倍首相はむしろ軍国日本がほんとうの日本だという考えの持ち主なので(日本の保守派はみなそうです)、それができません。
しかも安倍首相は自分の口で謝罪するのがいやなので岸田外相の口で言わせるという姑息な手を使ったので、韓国からは「安倍首相が謝れ」と攻め込まれています。
 
この問題の解決は、ポスト安倍を待たなければなりません。