いわゆる「東名あおり運転事故」の裁判をテレビのワイドショーは大々的に取り上げています。入管法改正や水道民営化法案などはそっちのけです。
確かに石橋和歩被告(26)の言動には人の神経を逆なでするものがあります。実況見分のときにあくびをしたり、マスコミへの手紙に「俺と面会したいなら30万からやないと受つけとらんけん」と書いて金を要求したりしています。
 
そもそもの事件は、昨年6月、石橋被告がパーキングエリアの入口付近で駐車していたところ、被害者の萩山嘉久さんに駐車方法について注意され、怒った石橋被告が萩山さん夫婦と娘さんの乗ったワゴン車を追いかけていわゆるあおり運転をし、高速道路上で停車させて萩山さん夫婦を車から降ろしたところに大型トラックが追突してきて萩山さん夫婦が死亡、娘さん2人もケガをしたというものです。
 
石橋被告は危険運転致死傷罪などで起訴されましたが、弁護側は停車後の事故に危険運転致死傷罪は適用できないとして無罪を主張しています。
確かに直接の死因は大型トラックの追突です(トラック運転手は不起訴)
そのため、もしこれが罪に問えないなら危険運転致死傷罪は法律として不十分ではないか、新しい法律がいるのではないかという議論になっています。
 
しかし、たった一件の事故を理由に新しい法律をつくるのはおかしなことです。
 
それに、考えてみれば危険運転致死傷罪そのものが1999年のいわゆる東名高速飲酒運転事故がきっかけでできた法律です。
この事故は、大型トラックが乗用車に追突して幼い姉妹が亡くなり、しかもトラック運転手が救助活動もせずに炎上する乗用車を見ていて、まっすぐ立つことができないほど酩酊していたというものです。さらに、この運転手は飲酒運転が常習であったことが判明して、世論が憤激しました。運転手は業務上過失致死罪などで起訴されましたが、この罪は最高懲役5年で、あまりにも刑が軽すぎるということで最高懲役20年の危険運転致死傷罪がつくられたのです。
 
腹立たしい事件が起こるたびに厳罰化の法律をつくっていればきりがありません。
 
そもそも交通事故は大幅にへっているのです。
 
交通事故がもっとも多かったのは2004年で、952720件でした。
それから着実にへり続けて、2017年は472069件と半分以下になりました。
交通事故の死者数については、第一次交通戦争といわれた1970年の16765人がピークでした。
その後、多少の増減はあってもヘリ続け、2017年は3694人でした。
 
交通事故はへっているのに、世論は交通事故にどんどんきびしくなり、厳罰化が進むという妙なことになっています。
 
なお、犯罪もへっています。
刑法犯の認知件数がピークだったのは2002年の約285万件で、2017年は3分の1以下の約91万件でした。
 
刑法犯も交通事故も大幅にへっているので、警察は人員も予算も大幅にへらしていいはずです。
そういう議論が出てくると困るので、司法当局とマスコミは一体となって、刑法犯や交通事故が深刻化しているようなイメージづくりをしています。
石橋被告のような憎たらしいキャラクターは目一杯利用するわけです。
 
しかし、石橋被告にも「泥棒にも三分の理」で、たとえば被害者の萩山さんとのトラブルについて、彼は裁判でこう語っています。
 
 同県内の中井パーキングエリアで、死亡した萩山嘉久さん=当時(45)=とトラブルとなった経緯を「車を降りて、タバコ吸いよって、吸いよう途中に(嘉久さんに)『邪魔やボケ』と言われて」と説明。「『ボケ』と言われたことにむかついた」と明かした。
 
「邪魔やボケ」と言われたのがほんとうかどうかわかりませんが、ほんとうだとすれば事件の印象がだいぶ違ってきます。
 
また、石橋被告の車に同乗していた恋人も事故のときにケガして入院したのですが、裁判に出てきて、このように証言しています。
 
<東名のあおり事故当時同乗していた女性の弁護側証人尋問>
――(萩山さんの事件後に)退院してから車で出かけた?
はい、何回かはわかりません。
 
―― 一緒に乗るのは怖いなと思わなかったか?
思いましたけど…信じてもらえないかもしれないけど、あの子(石橋被告)、ウチには優しいんです。退院してすぐは(運転を)やめときと(説得した)。
――被告人の良いところを話してもらえますか?
子供とかおばあちゃん、おじいちゃんに優しいところです。
 
――悪いところを話してもらえますか?
うーん…短気なところですかね。相手にちょっとケンカ口調を強く言われた時にキレてしまうから。
 
ともかく、交通事故が大幅にへっているのに交通事故の厳罰化を議論するのはおかしな話で、完全にマスコミにあおられています。