親から虐待された子どもにどう対処するべきか――という問題に世の中は答えを持っていないようです。
 
東京都港区南青山に児童相談所を含む複合施設が建設されることに地元住民から反対の声が上がり、問題になっています。
反対の理由は、土地の価格が下がるというものから、児童相談所に併設される一時保護所にくる子どもへの警戒感もあるようです。
 
一時保護所には、親から虐待された子どもが多く収容されます。そういう子どもに白い目が向けられているのです。
 
親から虐待され、世間からは白い目で見られる――というのはひどい話ですが、それだけではありません。
一時保護所にも問題があります。
 
たまたま朝日新聞に一般社団法人女子高生サポートセンター(Colabo)代表の仁藤夢乃さんのインタビュー記事が載っていました。仁藤さんは虐待や貧困、いじめなどの生きづらさをかかえた少女たちのサポート活動をしている経験からこのように語っています。
 
 
彼女たちが自ら相談窓口に行くのは難しい。最近かかわった17歳の子は、幼少時から虐待を受け、親が捕まったため帰る家がなくなりました。児童相談所に保護されましたが一時保護所が嫌で脱走し、生きるために体を売っていたようです。ネットで私たちを見つけ連絡をくれました。
 一時保護所は厳しい制約があるほか、階段50往復といった罰を科すところもあり、二度と保護されたくないと思う子が少なくありません。公の施設としては「婦人保護施設」もありますが、18歳未満は使えません。それに18歳以上でも、ハードルが高くて使いにくいのです。
 父親から性的虐待を受け、地方から逃げてきた19歳の女子と一緒に窓口に行くと「施設は厳しいところ」「携帯電話は使えない」「入るには覚悟がいる」など、脅しともとれる言葉を容赦なくかけられました。これでは、行く気になれないのは当然です。彼女たちは、児童福祉や婦人保護といった公の支援の仕組みからこぼれ落ちているのです。
 
 
虐待された子を救うはずの施設でまた虐待されてしまうというわけです。
 
さらに、たまたまこんな記事もありました。
 
「少年院に行くかも」児相で少年自殺、職員発言が原因か
 
父親から虐待を受けていた16歳の少年が家出中に自転車を盗んだとして補導され、一時保護所に入り、職員と面接中に「少年院に行く場合もある」と言われた日に自室でシーツで首をつって死亡したという事件がありました。この自殺の検証委員会は職員の不適切な発言が自殺につながった可能性があるという報告をしたという記事です。
 
 
一時保護所は原則2か月以内とされていて、それ以上の長期になると児童養護施設に入ることになりますが、児童養護施設の実態もひどいものです。
私は「明日、ママがいない」というテレビドラマが話題になっているころ、このブログで児童養護施設についての記事を書いたことがあります。
 
「児童養護施設の実態とは」
 
「選択」という雑誌の記事に基づいて書いたもので、そこからほんの一部だけ引用しておきます。
 
「地獄から抜けたと思ったら、ついた場所は別の地獄だった」
 埼玉県内の児童養護施設で八歳から十八歳までを過ごした二十代前半の男性は、絞り出すように語った。
 
「一部の恵まれた施設を除いて、ほとんどの施設でなんらかの暴力が恒常的に行われている」
 
小学校低学年の頃から、とかく職員の「せんせい」は恐怖の対象でしかなく、約束事を破ったなどとして暴力を受けた。約束というのも就寝前に歯を磨くのを忘れたといった些細なことで、廊下に正座させられ、時には殴られた。
 
 
つまり幼児虐待というのはフラクタル図形のような相似形になっています。
家庭で幼児虐待が行われ、その外に出て施設に入るとまた虐待が行われ、その施設の外の世間も白い目で見るというわけです。
 
その根本原因は、「幼児虐待の原因は親に愛情がないことである」ということを誰も明言しないことにあります。
愛情があれば虐待しませんし、愛情がないから虐待するのです。当たり前です。
「幼児虐待の原因は親に愛情がないことである」ということが認識されていれば、児童養護施設の役割は、虐待されていた子どもに愛情を注ぐことであるとわかるでしょう。子どもに愛情を持って世話をするというのが施設職員の仕事です。
 
「ホスピタリズム」という言葉があります。
第二次世界大戦後、多くの孤児が施設に収容されましたが、衣食住が満たされた環境にもかかわらず子どもの死亡率が高く、母性的なものとの情緒的きずなの欠如が原因であるとされました。施設病とも言います。子どもが育つにはビタミンやたんぱく質と同様に愛情が不可欠だということです。
こういうことは児童福祉関係者には常識のはずです。
 
ところが、今の施設は「愛情」ということを無視ないし軽視しています。
そのため被虐待児に対して普通の学校と同じことをします。規則正しい生活で規律を身につけさせ、善悪をきびしく教えて規範意識を植えつけようとするのです。栄養失調の子どもに運動させて体を鍛えようとするみたいなものです。
 
酒鬼薔薇事件の犯人である少年を受け入れた医療少年院では、問題は親の育て方にあったとして、「育て直し」と称して母親役を決めて周りのスタッフが疑似家族を形成し、小さな子どもを育てるように世話をしました。世間から注目された事件だったため、施設側も特別に力を入れたわけです。元少年は今のところ再犯もせず、本を出版するなどしているので、「育て直し」はある程度成功したと言えそうです。
 
こうした対応をすることは施設の職員とってもたいへんです。「感情労働」という言葉がありますが、仕事で愛情を要求されるのは「感情労働」の最たるものです。
そのため規律重視のうわべだけの対応になりがちです。
政府は児童相談所の児童福祉司を2022年までに約2000人増やす計画ですが、人数だけでなく、「愛情」という根本のところの対応を強化していかなければなりません。
 
南青山の児童相談所建設問題ではからずも児童福祉施設に対する世間の冷たい目が明らかになりましたが、福祉施設内でも同様の冷たい目が子どもに向けられている現実があります。
「愛情」が根本的な問題であるということが認識されれば、たとえば親代わりのボランティアを施設が大量に受け入れるというように、対策はいくらでもあります。