相変わらずレーダー照射問題が論じられています。
この議論を見ていると、どうしても人間の愚かさについて考えてしまいます。
 
なぜこの議論が終わらないのかと思ったら、自衛隊制服組トップの河野克俊統合幕僚長が1月17日の記者会見でこんなことを言っていました。
 
「われわれは確固たる証拠を持っている。韓国側は真摯に受け止め、事実を認め、再発防止に努めてもらいたい」

 証拠は持っているが、開示はしないわけです。
開示しないなら、存在しないも同然です。
 
韓国側は、自衛隊機が韓国海警艦の出すレーダー波を駆逐艦の出す火器管制レーダー波と勘違いしたのではないかという説を唱えていますが、その証拠もありません。
 
証拠もなしにレーダー照射をした、しないという議論をしても、水掛け論になるだけです。
なぜ水掛け論を続けているのでしょうか。
日本側には、徴用工問題で韓国に不満が高まっていたという事情があります。それに、アメリカ、中国、ロシア、北朝鮮相手にまともな外交ができない不満もあります。
韓国側には、慰安婦問題など歴史認識で日本に不満があります。
お互い不満をぶつけ合っているわけです。
 
それに加えて「内集団バイアス」もあります。
内集団バイアスとは、認知バイアスのひとつで、「外集団の者より内集団の者に対して好意的な認知・感情・行動を示す傾向」と説明されます。
「身びいき」に近いですが、身びいきはたいてい自覚的に行われます。内集団バイアスは認知の偏りですから、本人は自分は公正な判断をしていると思っている点で違いがあります。
 
河野統合幕僚長が「われわれは確固たる証拠を持っている」と言ったとき、開示できない証拠なら意味がないと思うのが客観的な判断です。
しかし、内集団バイアスによると、同じ集団の権威ある人間の言葉ですから、そのまま信じて、証拠があると思ってしまうのです。そうすると、韓国側が嘘を言っているということになります。
 
一方、韓国人にとっては河野統合幕僚長は外集団の人間ですから、どうせ嘘を言っているんだろうと思い、内集団の韓国国防省などの発表を信じます。
 
河野統合幕僚長や岩屋防衛相が嘘をつくことがあるのかというと、当然あります。森友加計問題で佐川氏や柳瀬氏らも嘘をついていました。
レーダー照射問題で防衛省が哨戒機が撮影した動画を公開したのは、安倍首相の「鶴の一声」があったからだと報道されました。首相の意向を忖度して嘘をついている可能性があります。
 
今、レーダー照射問題で韓国を批判しているのは、ほとんどが安倍首相支持派です。安倍首相支持派にとっては安倍政権は内集団です。
一方、たとえば野党などは沈黙しています。外集団である政権の主張は信じられないからです。
 
ただ、国民民主党の玉木雄一郎代表は「日本の政治家なら当然、韓国政府に強く抗議すべきことだ。黙っているなんて、絶対に許されない」と主張しました。証拠を確認していないのに主張するのは、どういう認知バイアスでしょうか。
 
現時点では、日本側も韓国側も確たる証拠を提示していないので、議論するのは時間のむだです。
証拠が提示できないなら、早く問題を終わらせるしかありません。