箴言家のラ・ロシュフコーは「太陽と死は直視できない」と言いましたが、私はそれにならって「太陽と死と幼児虐待は直視できない」と言っています。
幼児虐待はあまりにも悲惨なので、なかなか直視できません。そのために思考がおかしなほうに行ってしまうことがあります
 
次の判決も、そうした例です。
 
父刺殺の19歳、懲役4~7年 横浜地裁判決
 横浜市で昨年1月、父親を殺害したとして殺人罪に問われた少年(19)の裁判員裁判の判決が19日、横浜地裁であった。深沢茂之裁判長は、懲役4年以上7年以下(求刑懲役5年以上10年以下)の不定期刑を言い渡した。
 判決などによると、少年は昨年1月20日、母親と父親(当時44)の口論を聞き、母親が父親から危害を加えられるかもしれないと考え、父親の胸などを包丁で刺して殺害した。深沢裁判長は、父親からの仕返しを恐れて複数回刺したとして「身勝手で極めて厳しい非難に値する」と述べた。
 公判で、検察側、少年側双方が少年は父親から蹴られるなどの暴行を受け、事件当時まで母親に対するDV(家庭内暴力)を見聞きしてきたと指摘。少年側は「虐待や家庭内暴力といった家族の病理が引き起こした事件」として少年院送致を求めたが、判決は「父親の暴力はしつけだと(少年が)受容していた部分もあり、かれつな虐待とまでは認められない」と判断した。
 
 
「父親の暴力はしつけだと(少年が)受容していた」とは、びっくりの判決です。受容していたなら父親を殺すことはなかったはずで、矛盾しています。
幼児虐待の悲惨さが直視できないので、虐待を正当化する心理が働いているのではないかと思われます。
 
こんなもろに暴力を肯定する判決が出て、世の中からスルーされているのは不思議です。
バイト店員のくだらない動画を炎上させるより、こっちを炎上させたほうがよほど世の中のためです。
 
 
松本人志氏は前から体罰事件が起こるたびに体罰を正当化する発言をして物議をかもしていますが、野田市の栗原心愛さんが死亡した事件でも、やはりおかしなことを言いました。
 
松本人志 小4虐待死事件で持論「とんでもない親でも…そこが救われるところでもあると」
お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志(55)が10日、フジテレビ「ワイドナショー」(日曜前10・00)に出演。千葉県野田市立小4年の栗原心愛(みあ)さん(10)が、父親の虐待により自宅浴室で死亡した事件について、私見を語った。
(中略)
また「分かりませんけど」と前置きし、心愛さんの年齢にも触れつつ「こんなとんでもない親でも、心底憎んではいなかったと思うんです最後まで」とも。さらに「それを思うと、すごくかわいいし、かわいそうだし…。どこかそこが救われるところでもあるかなって思ってしまったりもする」と話し、悲惨な事件の中にある“救い”を必死に求めていた。
 
これも同じ心理で、悲惨さを直視できないので、“救い”を求めるわけです。
しかし、それは虐待防止に逆行します。
 
こうした論理は、悲惨な戦死者を“英霊”として美化するのと同じです。
 
 
タレントのフィフィさんはフェイクニュースを発信して、騒動を起こしました。
 
フィフィSNSの誤情報をメディアも拡散、「PVは麻薬」早さ優先のネット記事の功罪
 タレントのフィフィが、自身のSNSで蓮舫議員について誤った情報を発信。さらに、その発言がネットニュースで事実のように報道されたことが問題になっている。
 
 きっかけとなったのは17日、フィフィが自身のTwitterで「私は問いたい、なぜ平成16年の警察の積極的介入を盛り込んだ児童虐待防止法改正に反対した蓮舫議員が、今回の虐待死の件で現政権を責めることを出来るのか、私はその真意を問いたい。あなたは本当に国民の側に向いているのですか?それ以前に同じ親の立場として問いたい、なぜあの時反対をしたのですか?」と立憲民主党・副代表の蓮舫議員を猛烈に批判したこと。
 
 しかし、この発言は誤りで、全くの事実無根だった。まず、投稿では蓮舫議員が反対したことを責めているが、児童虐待防止法の改正は全会一致で可決されており、反対した議員は1人もいない。さらに、この法案は平成164月に国会で成立したものだが、そもそも蓮舫議員が議員になったのはその年の7月。つまり、蓮舫議員は当時議員ですらなかった。
 
 しかし、このフィフィの発言は瞬く間に拡散され、日刊スポーツやスポーツ報知などが取り上げさらに拡散した。当然、蓮舫議員は「何か誤報が流布されているようです。(フェイクです)」と報道を真っ向否定。批判が殺到したフィフィは蓮舫議員に謝罪し、当該の投稿も削除した。一方、フィフィの投稿を掲載した日刊スポーツは「事実関係について十分に確認しないまま、掲載をしてしまいました。関係者に、お詫びいたします」と謝罪し、当該記事も削除した。
 
 蓮舫議員は一連の騒動後、「大手メディアもファクトチェックをせずに記事を配信しているようで…、残念です」とツイートしている。
(後略)
 
児童虐待防止法改正が可決されたとき、蓮舫議員は議員ではなかったとか、全会一致で可決されていたとか、間違いのレベルが半端ではありません。フェイク情報が生まれるメカニズム解明のヒントになるので、フィフィさんの個人的な勘違いか、どこかから引っ張ってきた情報か、知りたいところです。
 
ただ、この間違いの背景はわかります。
フィフィさんは前からリベラルたたきの発言をよくしていました。野田市の栗原心愛さんが虐待死した事件が注目を浴びているのを利用して、リベラルたたきをしようとしたのでしょう。
しかし、これは方向性が間違っています。幼児虐待や体罰を肯定するのは右翼や保守のほうだからです。
このことはこのブログでも書きました。
 
『幼児虐待を招く自民党の「親尊子卑」思想 』
 
この機会にリベラルたたきをしようとしても、よい材料がない。そのとき、格好の情報を目にした(あるいは頭の中で生成された)。そのため、ろくに検証もせずにフェイク情報に飛びついてしまったのでしょう。
 
もっとも、この情報が正しかったとしても、蓮舫議員の評価を落とすことには成功しますが、幼児虐待防止にはなんの役にも立ちません。
フィフィさんはなにを訴えたかったのでしょうか。
 
 
子どもが死ぬような事件が起こったときは、誰もが幼児虐待はけしからんと言いますが、うわべだけで言っている人が多いのも事実です。
どこか心の中では虐待や体罰を正当化していて、それがおかしな言葉になって出てきます。
そうしたおかしな言葉をモグラたたきのようにひとつずつつぶしていくのもたいせつな作業です。