「いじめ防止対策推進法」が施行されて今年の9月で5年になり、改正の機運が盛り上がっているそうです。
 
いじめ防止法は、2011年に大津市で中学2年の男子生徒が飛び降り自殺し、「自殺の練習」を強要されるなどのいじめを受けていたという報道があって世論が沸騰し、急遽まとめられた法律です。たったひとつの事件で法律ができるのですから、法律の世界も大衆迎合になりました。
いじめ防止法にいじめ防止効果はあったのでしょうか。
 
尾木ママこと尾木直樹氏の記事によると、「法律施行前の四年間に自殺した児童生徒の人数は七百九十三人だったのが、施行後四年間では九百四十二人。法律が施行されたにも関わらず百四十九人も激増したことになる」とのことです。
 
やはり泥縄式の法律ではうまくいかないようです。
法律の付則に、施行後3年を目途に見直すと書かれているので、遅まきながら改正の機運が盛り上がってきたのでしょう。
 
では、どこを改正すればいいのでしょうか。
私は改めて法律を読んでみました。
 
別添3 いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)
 
読んでみれば、欠陥は明らかです。
一言でいえば「子ども不在」の法律です。
 
子どもの権利条約は子どもを「権利を持つ主体」と位置づけています。
ところが、いじめ防止法には「主体としての子ども」の姿がありません。
いや、一行だけありました。
 
(いじめの禁止)
第四条 児童等は、いじめを行ってはならない。
 
これは当然の規定です。
そして、この規定があれば、次にいじめられた子どもについての規定があるはずです。
たとえば、「いじめにあった児童は、身を守らなければならない。それが困難なときは担任に報告しなければならない」といった具合です。
さらに、「いじめを見聞きした児童は、いじめをやめさせるよう努めなければならない」という規定もあって当然です。
つまりいじめは、とりあえず子ども自身が解決するべきで、うまくいかない場合におとなが出てくるという順番になるはずですが、この法律には子どもがいじめにどう対処するべきかが書かれていません。
つまり子どもの主体性をまったく無視しているのです(いじめっ子の主体性を制限することだけはしています)
 
この法律には、もっぱら国や地方自治体や学校設置者がするべきことが書かれています。
たとえば、地方自治体や学校はその地域や学校の実情に応じた「いじめ防止基本方針」を作成しなければならないと書かれています。
現実には、法律に定められているからということで、お役所仕事的に、形式的に「方針」が作文されているのでしょう。
しかし、正しい「方針」が作成されればいじめ防止に力を持つはずですから、この規定は重要です。
では、どうすれば正しい「方針」が作成できるかというと、子どもの意見を聞くことです。
 
子どもの権利条約には「子どもの意見表明権」および「表現の自由」が規定されています。
 
12
1 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
2 このため、児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。
13
1 児童は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
2 1の権利の行使については、一定の制限を課することができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。
 
a)他の者の権利又は信用の尊重
b)国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護
 
ですから、いじめ問題について子どもは意見表明の権利を持っています。
子どもの意見を聞かずにおとなだけで「いじめ防止基本方針」を作成するのは、子どもの権利条約の精神を無視しています。
 
いじめについていちばん真剣に考えているのは子どもです。子どもがいい意見を言わないはずがありません。
子どもの意見を取り入れて各学校で「いじめ防止基本方針」を作成するのが、とりあえずの最善の策です。
 
子どもの意見を聞くのはいじめだけに限りません。
たとえば小学校での早期英語教育とかプログラミング教育についても、小学生の意見を聞くべきです。
子どもはそんなこと考えていないという反論があるかもしれませんが、意見を聞かれることで自分の意見が形成されていきます。
そういう意味でも、さまざまな場面で子どもの意見を聞くことはたいせつです。
 
それにしても、文科省が子どもの権利条約に反して子どもの主体性をまったく無視してきたのにはあきれます。
文科省のそういう「子ども不在」の教育や学校運営こそがいじめを生む大きな要因でしょう。

 いじめ防止法の見直しをするなら、学校での「いじめ防止基本方針」の作成に際して「必ず児童の意見を聴取する機会を設ける」などの規定を加えるべきです。