天皇陛下になるのはたいへんです。言葉づかいから変えなければならないからです。
 
天皇陛下は普通の敬語を使うことができません。丁寧語は使えますが、尊敬語と謙譲語は原則的に使えないのです。
たとえば園遊会などでスポーツ選手と言葉を交わしたとき、最後は「これからもがんばってください」と言うのが普通ですが、天皇陛下の場合は「活躍を祈ります」とか「活躍を期待します」と言わねばなりません。「ください」というのは、自分が下の立場だからです。
同様に「お願いします」という言葉も使えませんし、「ご活躍」「お元気」「ご尽力」のように相手に関して「お」をつけることもできません。
新年の一般参賀のあいさつでも、「新年おめでとう」で、「新年おめでとうございます」とは言いません。
そのため、普通なら「お集まりいただきありがとうございます」と言うところを「きてくれてありがとう」というような、独特の“天皇陛下語”を駆使しなければなりません。
 
こうした“天皇陛下語”を始めたのは昭和天皇のはずです。初めて国民と触れ合ったのが昭和天皇だからです。
昭和天皇の口ぐせは「あ、そう」でした。「そうですか」すら使わなかったのです。
昭和天皇の語法に宮内庁の役人が書いた文章が加わって、独特の“天皇陛下語”が形成されたものと思われます。
なお、海外の国王などを迎えたときのあいさつでは天皇陛下も普通に敬語を使っています。国民に対してだけ“天皇陛下語”になるのです。
 
ただ、昭和天皇と今の上皇のしゃべり方は同じではありません。時代とともに変わり、天皇の人柄によっても変わります。
とすると、新しい天皇の言葉づかいも変わっていいはずです。
 
 
5月4日、即位を祝う一般参賀が行われましたが、その日は気温が高く、参列者で体調を崩す人が続出しました。そのため天皇陛下は6回あいさつしましたが、5回目から臨機応変にあいさつの言葉をつけ加えたというニュースがありました。
どんな言葉をつけ加えたかというと、「またこのように暑い中来ていただいたことに深く感謝いたします」という言葉です。

つけ加わったあとのあいさつがこれです。
 
 この度、剣璽(けんじ)等承継の儀、及び即位後朝見の儀を終えて、今日、みなさんからお祝いいただくことをうれしく思い、またこのように暑い中来ていただいたことに深く感謝いたします。ここに、みなさんの健康と幸せを祈るとともに、我が国が諸外国と手を携えて世界の平和を求めつつ、一層の発展を遂げることを心から願っております。
 
 
「お祝いいただく」と「来ていただいた」と、二度「いただく」という言葉を使っています。
「いただく」というのは謙譲語です。宮内庁のホームページで天皇陛下(今の上皇)の過去のあいさつを見てみましたが、「いただく」という言葉は見つかりませんでした。
 
なお、つけ加えられた言葉の中に「深く感謝いたします」というのもあります。
「いたす」というのも謙譲語です(ただ、「いたします」という言葉は過去にときどき使われています。“天皇陛下語”もそれほど厳密ではないようです)
 
5月1日の「即位後朝見の儀」のあいさつでも、天皇陛下は最後に「希望いたします」と言っています(これはYouTubeでも簡単に確かめられます)
しかし、なぜだか「希望します」と報じたメディアがいっぱいあり、宮内庁ホームページも「希望します」となっています。
ということは、宮内庁が用意した原稿は「希望します」となっていたのを、直前に天皇陛下が「希望いたします」に直したため、多くのメディアや宮内庁ホームページは対応できなかったのではないかと想像されます。
 
正しく「希望いたします」と書いた朝日新聞と、間違って「希望します」と書いた宮内庁ホームページを張っておきます。


イメージ 1

イメージ 2



おかしな“天皇陛下語”はやめて、普通の敬語を使うというのが新しい天皇陛下の信念ではないでしょうか。
園遊会などで普通に「がんばってください」という言葉が聞けるかもしれません。
 
なお、日本国憲法では天皇の地位は「主権の存する日本国民の総意に基く」とあるので、天皇が国民に敬語を使っても少しもおかしくありません。