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10月22日、「即位礼正殿の儀」が行われ、新天皇が即位を宣言されました。

テレビのニュースで見ていたら、安倍首相が万歳三唱をしましたが、その万歳の手の動きがちょっと気になりました。
手の平を前に向けるのではなく、内側に向けたからです。
そうすると、ツイッターなどで「あれが正しい万歳三唱の作法だ」という説が拡散しました。安倍首相は正しい作法にのっとったというわけです。

しかし、これについては「BuzzFeed News」が『正しい万歳は「手のひらを内側に」即位礼正殿の儀で拡散、本当は…?』という詳しい記事を書きました。ある公務員のグループが遊びで「万歳三唱令」という公文書を模した偽文書をつくり、それが1990年代に保守派を中心に広まっていったというのです。
保守派はフェイクニュースを好むというデータがありますが、これも一例です。
安倍首相もフェイクニュースを真に受けたのでしょうか。

ただ、「BuzzFeed News」の記事に東條英機首相の万歳の写真が載っていて、東條首相も手の平を内側にしています。
もしかすると安倍首相は東條首相をまねたのかもしれません。
東条首相の万歳


保守派は頭の中が戦前のままなので困ります。
天皇についてはいまだに「天皇は神聖にして侵すべからず」という考え方です。
といっても、自分が「天皇は神聖だ」と思っているわけではありません。「天皇は神聖だ」という考え方を広めて天皇を利用しようと思っているのです。

自民党の中の保守派議員は即位の日に合わせて次の提言をしました。

「旧宮家の皇籍復帰」「婿・養子」案を想定 自民有志“特例法”提言
自民党保守系の有志議員らは23日、安定的な皇位継承に向けて、男系の伝統を維持するため、旧宮家の皇籍復帰を可能とする特例法の制定が望ましいという提言をまとめた。

自民党・青山繁晴参院議員「男系による皇位継承を、いかなる例外もなく、126代一貫して続けてきたのが日本の伝統である」

提言では、旧宮家の男子が、本人の同意を前提として、「皇籍に復帰する」案と、「皇族の養子や、女性皇族の婿養子に入る」案を想定し、いずれも特例法で可能としている。

「女系天皇」の容認や「女性宮家」の創設は、日本の伝統や皇室の終焉(しゅうえん)につながると指摘している。

提言は、安倍首相に手渡される予定。
https://www.fnn.jp/posts/00426049CX/201910231219_CX_CX

男女平等の世の中では、「男性天皇」も「女性天皇」もあって当然です。
9月末に行われたNHKの世論調査でも『女性が天皇になるのを認めることについて賛否を尋ねたところ、「賛成」と答えた人が74%と、「反対」の12%を大きく上回り、特に18歳から29歳の若い世代で「賛成」が90%に上りました』ということです。

この提言をまとめた保守系議員は、男系による皇位継承が日本の伝統だと言いますが、昔は「男尊女卑」だからそうだったというだけです。
男女平等の世の中になれば、天皇制も男女平等になるのが当然です。

今どき「男尊女卑」を叫んでも誰も相手にしてくれません。
しかし、「神聖」という旗があれば別です。男女平等は俗世界のことで、神聖な天皇の世界は「男尊女卑」であるべきだと主張されると、論理的な反論ができません。


似たことが行われているが大相撲の世界です。
相撲は神事と結びついていたこともあって、「土俵は神聖である」という考え方が今もあって、土俵に女性が上がることは許されません。土俵だけではなく、相撲協会の理事も全員男性で、今でも「男尊女卑」の世界です。
相撲界が暴力、八百長、内紛などの問題をなかなか解決できないのも、「神聖」を盾に改革を阻んでいるからでしょう。

大相撲の世界が「男尊女卑」でも、一般社会にはあまり関係ありません。
しかし、天皇は「日本国の象徴」ですから、皇室が「男尊女卑」であると、一般社会もそれにならうべきだということになりかねません。
それが保守派の狙いです。


明治憲法では天皇は「神聖にして侵すべからず」でしたが、戦後憲法では天皇は「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」となりました。
神聖天皇から象徴天皇へと変化したわけです。

しかし、神聖天皇は戦前までそうだったのでわかりますが、象徴天皇というのはよくわかりません。
象徴天皇の意味をいちばん深く考えてこられたのは上皇陛下です。
天皇の地位は「日本国民の総意に基く」とあります。「総意」とはなにかと考えて、流動的な世論に合わせるのではなく、恵まれない人に寄り添い、平和を願うことが象徴天皇の役割だと結論されたのでしょう。新天皇もそれを受け継いでおられると思います。


神聖天皇対象徴天皇というのが、今の政治の争点のひとつです。
神聖天皇派は、政教分離を無視し、大嘗祭にも国費を出して大々的に行い、天皇の神聖性を高めようとします(これには秋篠宮殿下も苦言を呈しました)。
また、「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」において、天皇陛下の写真が燃えるシーンのある作品に対して執拗に抗議する人たちがいましたが、これも「天皇陛下の写真を燃やす」ということをタブー化して、天皇の神聖性を高める狙いです。

そして、即位礼に関してもそうしたことがありました。
22日は朝から雨でしたが、即位礼が始まる13時ごろに雨は上がり、晴れ間も見えるようになりました。
するとツイッターに「儀式が始まったとたんに雨がやんで虹がかかった」「天皇のパワーがすごい」「日本は間違いなく神の国」などの声があふれました。
一般の人が言うだけではなく、NHK中継で解説役を務めた京都産業大学准教授・久禮旦雄氏までが、昭和天皇も「晴れ男」だったとして「エンペラーウェザー」と言われた、などと発言し、「エンペラーウエザー」という言葉が検索トレンドランキング入りしました。

「雨男」だの「晴れ女」だのという言葉は日常的に使われ、新海誠監督のアニメ「天気の子」の発想のもとにもなっていますが、まじめに信じる人はまずいません。
しかし、神聖天皇派はこんな機会も利用しようとします。「リテラ」の記事によると、作家の百田尚樹氏はツイッターに「これほど美しい虹が偶然に起こるはずもない。天が新天皇の即位を寿ぎ、日本を祝福しているのだ」と投稿し、TBS系「ゴゴスマ~GOGO!Smile!~」ではコメンテーターの竹田恒泰氏が「上皇陛下も天皇陛下も晴れ男」などと発言したそうです。
天皇に天気を変える力があるのなら、なぜ台風や大雨による災害が起こるのかということになり、ばかばかしいというしかありません。


憲法改正というと、九条のことが真っ先に思い浮かびますが、改憲派がほんとうに変えたいのは、一条の「天皇の地位と主権在民」のほうかもしれません。
もっとも、今では象徴天皇が国民の間にすっかり定着して、その改憲はまったく不可能です。