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長男を殺害して懲役6年の実刑判決を受けた元農水省事務次官の熊沢英昭被告が保釈されました。
殺人事件で実刑判決の下った被告が保釈されるとは聞いたことがありません。

熊沢被告は昨年12月16日に実刑判決を受け、弁護人の保釈請求を東京地裁は18日に却下しましたが、東京高裁は20日、保釈を認めました。
保釈された熊沢被告は自宅に戻らず、奥さんと都内の高級ホテルに宿泊したということです。

保釈を認めた裁判官は熊沢被告とは顔見知りだったと「NEWSポストセブン」が報じています。

異例の保釈決定の裏には「奇しきめぐりあわせ」が影響した可能性があったかもしれないという。大手紙の司法記者が話す。

「熊沢被告に異例の保釈を認めた東京高裁裁判長の青柳氏は、かつて被告の同僚として同じ職場で働いていたんです。青柳裁判長は、入所7年目だった1987年に裁判官に与えられている『外部経験制度』によって農林水産省食品流通局に2年間の研修に出ています。その時、同局にいたのが入省21年目だった熊沢被告です」

両者が1987年からの2年間、同じ食品流通局に在籍していたことは、当時の「農林水産省職員録」(協同組合通信社)および2010年刊の「全裁判官経歴総覧」(公人社)確認することができる。

 さらに、元農水省職員で、同局に出入りすることも多かったという男性からも証言を得ることができた。

「熊沢被告は砂糖類課長、青柳氏は企画課長補佐というポジションだったので、直属の上司部下ではありません。しかし、同じ食品流通局の同僚だったことには変わりない。当時、同じ部屋で机を並べ、毎日顔を合わせる関係だったと記憶しています」(元農水省職員の男性)

 一方で、熊沢被告の保釈審査を、かつての“同僚”が担当することは、公正が求められる司法のプロセスとして適切だったのか。東京高裁広報係に質すと「事件の配転(※裁判官の配置転換)は事務分配規定に基づいて行われるとしか申し上げられません」との回答。熊沢被告と青柳氏の縁故を把握していたかどうかについては「法解釈に関する事項なのでお答えできません」とのことだった。
https://www.news-postseven.com/archives/20191231_1519996.html/2

熊沢被告の弁護人は12月25日、一審判決を不服として控訴しました。
控訴審の判決も不服なら、さらに上告するでしょう。
熊沢被告は76歳ですから、刑務所に入らないで人生を全うするということもありそうです。

“上級国民”はなんとも恵まれたものです。
世の中も犯罪者にはつねに厳罰を求めるものですが、熊沢被告の保釈についてはそれほどきびしい声は上がりませんでした。

もっとも、厳罰にすればいいというものではありません。問題は被告が反省しているか否かです。


「弁護士ドットコム」に裁判の傍聴記が載っていました。
熊沢被告は長男英一郎さんに対して過保護過干渉でしたが、その実態が改めて明らかになりました。

主治医の尋問直後に行われた熊沢被告人の被告人質問では、英一郎さんの進路から就職、住居や老後のことまで、熊沢被告人が様々に気を配っていたことが明かされる。この年代の男性としては珍しいほど、子どもの世話をしていたようだ。過保護といっていいほどだが、家庭内暴力やうつに苦しむ妻には任せられない事情もあったのだろう。

高校卒業後、日本大学に進学した英一郎さんが「製図の授業に拒否感があった」ため、代々木アニメーション学院へ進学させた。卒業後、日本大学を退学、別の大学に編入させたのち、再度の代々木アニメーション学院への入学。

卒業のタイミングが就職氷河期のため「すぐに仕事が見つからない。何か後で役に立つかも、技術を身につけたら、とパン学校に通わせた」。

卒業後は先述の病院会長が経営する関連施設に就職させたが、熊沢被告人がチェコ大使を退任する頃、退職した。
https://www.bengo4.com/c_1009/n_10606/

「代々木アニメーション学院へ進学させた」
「別の大学に編入させた」
「パン学校に通わせた」
「関連施設に就職させた」
と、すべて「使役」の助動詞で語られています。
それに、ここでは「退職した」と書かれていますが、これも実は「退職させた」のです(このことは私の以前の記事で書きました)。

英一郎さんは自分の人生を生きていたのではなく、熊沢被告の決めた人生を生きていたのです。

熊沢被告は自分のやったことを反省したのかというと、この記事の最後にこう書かれています。

前日に証人出廷した妻は「アスペルガーに生んで申し訳ない」と語った。熊沢被告人は涙を流しながら言った。

「毎日毎日、反省と後悔と悔悟の毎日を送っております。精神的な病を持って生まれてきた息子に、私としては寄り添って生きてきたつもりでしたが、大変つらい人生を送らせてしまって、かわいそうに思っています。

もう少し息子に才能があれば、アニメの世界に進めたと思います……」

限界を迎えた中での犯行。英一郎さんの体には30箇所以上もの刺し傷があった。成人した息子を甲斐甲斐しく世話をし続けながらも、社会に適応できない長男について「才能のなさと、精神疾患が原因である」と判断し、誰にも相談しなかった。生前の英一郎さんは、どんな思いを抱えて、泣いていたのだろうか。

熊沢被告は「反省」と言っていますが、言葉だけです。
自分が英一郎さんをアニメ学校に行かせておいて、結果がうまくいかないと、英一郎さんの才能のせいにしています。
「相手が悪い、自分は悪くない」という論理です。

熊沢被告は「相手が悪い、自分は悪くない」という論理でライバルを打ち負かして出世したのかもしれません。
トランプ大統領も「相手が悪い、自分は悪くない」のパワーバージョン版です。


「アスペルガーに生んで申し訳ない」と語った奥さんも、産み分ける能力などないのですから、反省していません。アスペルガーのせいにしています。

夫婦そろって「子どもが悪い、自分は悪くない」という態度で子育てしていたら、子どもは追い詰められます。
その挙句の家庭内暴力であり、引きこもりであったのでしょう。

わが子を殺して反省のない夫婦と、それを批判しないマスコミ。
これが今の世の中です。



私は前からこの事件を追いかけていて、以下の記事を書いています。

「元事務次官の子殺しは幼児虐待と同じ」

「熊沢英昭被告はいかにして長男の自立の芽をつんだか」

「“毒親”を理解しない残念な判決」