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4月7日に緊急事態宣言が出されたものの、休業要請の対象に百貨店、理髪店、ホームセンター、居酒屋などを含めるかどうかで国と都が対立し、発表は10日以降にずれ込みそうです。
これでは「緊急」の意味がありませんし、国民の緊張感もなくなってしまいます。

緊急事態宣言が出された翌日、都心のターミナルはさすがに人出は少なかったようですが、私の地元の商店街(東京都内)はいつもと同じくらいの人出でした。
安倍首相は「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減」という目標を掲げましたが、とうていむりです。

小池都知事や吉村大阪府知事、日本医師会などは政府に対して早く緊急事態宣言を出すように求めていましたが、彼らは緊急事態宣言を出せば魔法の呪文のように効果があると勘違いしていたのではないでしょうか。

日本人は長期戦とか持久戦が苦手で、短期決戦を好みます。
たぶん国土が狭くて山の多い地形が関係しているのでしょう。国土の広いロシア人とか中国人は持久戦が得意です。
また、日本海海戦と奉天会戦で決着した日露戦争の成功体験も影響しているかもしれません。
太平洋戦争でも日本軍はやたら決戦の機会を求め、すぐにバンザイ突撃をして玉砕しました。

安倍首相は記者会見で「ゴールデンウイークが終わる5月6日までの1か月に限定して」外出自粛をお願いすると言いました。そのため、5月6日に緊急事態宣言が終わると思っている人がいるかもしれません。
しかし、安倍首相はそのあとに「この緊急事態を1か月で脱出するためには、人と人との接触を7割から8割削減することが前提です。これは並大抵のことではありません」と言っています。
つまり目標を達成できなければ、あるいは感染者の増加が止まらなければ、緊急事態宣言は継続されるわけです(いったん解除されてもまたすぐ復活するはずです)。

そういう長期戦を想定すれば、休業要請で国と都が対立しているのは、国に分があります。理髪店やホームセンターの休業を主張する都は、短期決戦で勝利できると思っているのです。


武漢市は4月8日、都市封鎖が解除されました。1月23日から2か月半ぶりです。
徹底した外出禁止、企業活動の全面的停止という最強の都市封鎖をしてもこれだけの時間がかかりました。
しかも、封鎖解除といっても、もとに戻れたわけではありません。今でも外出規制は続いて、街にはあまり人影がありません。

イタリアも強力な外出禁止を1か月続けて、最近ようやく新規感染者数が横ばいになり、ピークに達したといわれています。
しかし、これで終わったわけではなく、これからまだまだ都市封鎖は続くことになります。

中国は感染の封じ込めに成功したようですが、そう単純なことではありません。
山中伸弥教授にインタビューした日経新聞の「コロナ禍はいつ収まるのか 京大・山中氏が出した答え」という記事によると、中国の最近の感染者の状況は次のようなものです。

(中国では)ピーク時は1日に1000人以上の新規感染者が発生していましたが、3月中旬から100人未満となり、下旬には1日の新規感染者数が10人から20人台の日が続いていました。ところが、3月末から再び100人を超える日が増えてきたのです。
中国政府は人民に対して厳しい外出規制を課してきましたが、3月に入ってから状況に応じて都市ごとに規制を緩めました。その結果、週末になると商業施設や観光施設が混雑するようになりました。感染の第2波がやってくるリスクが、ひたひたと高まっているのです。
世界保健機関(WHO)の基準ではウイルスの潜伏期間の2倍の期間、感染者が新たに発生しなければ終息宣言となります。新型コロナウイルスの潜伏期間は2週間とみられていることから、少なくとも4週間、感染者数がゼロにならない限り、ウイルスとの闘いは終わりません。
独裁的な中国共産党をもってしても、感染者数をゼロにするのは至難の業です。21世紀の世界では、人の往来を完全にシャットアウトすることは誰にもできません。
つまり緊急事態宣言を出して感染拡大の第1波を乗り越えられたとしても、新型コロナウイルスを完全に封じ込めるには相当長い期間がかかるのは(残念ながら)間違いありません。山中教授が「1年は続く」と指摘したのは、感染力の極めて高い新型コロナウイルスの本質を見抜いているからです。
もちろん、バイオテクノロジーを駆使すれば、効果的なワクチンや治療薬も開発できるでしょう。ただ、その未来がやってくるには年単位の時間がかかります。それまでの間、私たちは医療崩壊を防ぎながら、何とかしのいでいくしかありません。山中教授は、ウイルスとの闘いをマラソンに例えました。もはや、長期戦で臨むことを覚悟するしかありません。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57816670Y0A400C2000000/
北海道ではいち早く独自に緊急事態宣言を出して、一時は感染を抑え込みましたが、9日の発表では過去最高の18人の感染者が出たということで、またぶり返しています。


私は今の新型インフルエンザ等対策特別措置法による緊急事態宣言では外出自粛要請しかできないので、法律を改正して罰則つきの外出禁止命令を出せるようにするべきだと考えていましたが、そうしたところで長期戦になります。苦しい戦いが長く続くのはたいへんです。
長期戦が可能なようにゆるいやり方をするのが賢明です
ただ、そうすると感染者は増えていきます。


現時点で日本における新型コロナウイルス感染者の数は約5500人です。
日本の人口を計算しやすいように1億1000万人とすると、10万人に5人がかかる病気です。
死亡者は100人をちょっと越えたところで、死亡率は約2%ですから、今のところ10万人に0.1人が死ぬ病気です。
今後、この数字が10倍、さらには100倍になったところで、それほど恐れることはないのではないでしょうか。

ちなみに日本では2018年に9万4654人が肺炎で亡くなっています。


テレビの解説で、「緊急事態宣言をした以上、対策を小出しにするという戦力の逐次投入はやめるべきだ」と語っている人がいました。
短期決戦の勝利があると思っているのです。
小池都知事や安倍首相もそうかもしれません。
“休業補償なき休業”も短期決戦を前提としています。

しかし、この戦いに早い勝利はありません。
長期戦、持久戦に持ち込んで、医療崩壊を防ぎながら特効薬かワクチンの開発を待つというのが正しい戦略です。