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5月25日、緊急事態宣言を解除するときの記者会見で安倍首相は、これまでの対策について「日本モデルの力を示した」「世界において卓越した模範である」と自画自賛しました。
こういうことを言うので、全体が信用できなくなります。事実だけを語ってほしいものです。

とはいえ、日本の感染者数と死者数が欧米各国などと比べて少ないのは事実です。ただ、それは対策がよかったからとは必ずしも言えません。アジアの国はみな少ないからです。

世界各国の感染状況は次のサイトで見ることができます。


新型コロナウイルス感染症まとめ(yahoo)

日本周辺の各国の感染状況は次のようになっています。

        感染者数 新規感染者数 死者数
【西太平洋地域】
中国        84 536     11     4 645
シンガポール  31 616        548     23
日本       16 581   31     830
フィリピン    14 035    258     868
大韓民国            11 206    16     267
マレーシア    7 245    60     115
オーストラリア  7 109    3     102
ニュージーランド1 154    0     21
ベトナム       325    0     0
ブルネイ           141    0     1
モンゴル           141    0     0
カンボジア   124    0     0
ラオス      19            0     0
フィジー           18            0     0
パプアニューギニア8    0     0
(領域)  
グアム     161            0     5
フランス領ポリネシア89      0     0
北マリアナ諸島22            0     2
ニューカレドニア18    0     0
(5月25日の数字)

これを見ると、日本が特別でないことがわかります。人口を考えると、少しうまくいっているかなという程度です。
逆にヨーロッパとアメリカがひどすぎるわけです。
最近、南米とアフリカでも感染が急拡大しているので、発生源のアジアが低いままなのが目立ちます。
なぜアジアで感染者や死者が少ないのかについてはいくつかの説がありますが、いずれにせよ「日本スゴイデスネ」と言うようなことではありません。


安倍首相の5月25日の記者会見での発言を読んでみると、全体がもやもやとしてつかみどころがありません。
安倍首相は「目指すは、新たな日常をつくり上げることです。ここから先は発想を変えていきましょう」と言いますが、「新たな日常」がなにかよくわかりませんし、どう発想を変えるのかもよくわかりません。

問題の核心は次のところにあると思われます。
 感染防止を徹底しながら、同時に社会経済活動を回復させていく。この両立は極めて難しいチャレンジであり、次なる流行のおそれは常にあります。それでも、この1か月余りで国民の皆様はこのウイルスを正しく恐れ、必要な行動変容に協力してくださいました。こまめな手洗い、今や外出するときはほとんどの方がマスクを着けておられます。店のレジは、人と人との距離を取って列をつくるなど、3つの密を避ける取組を実践してくださっています。こうした新しい生活様式をこれからも続けてくだされば、最悪の事態は回避できると私は信じます。

つまり「感染防止」と「社会経済活動」の両立こそが問題の核心です。
そして、安倍首相は「こうした新しい生活様式をこれからも続けてくだされば、最悪の事態は回避できると私は信じます」と言いますが、これは根拠のない楽観論です。
肝心のところをごまかしているので、全体に説得力がないのです。

みんなが知りたいのは、第二波はくるのかということです。
いや、なにをもって「第二波」とするのかです。

自粛を緩和すると、感染者が増えてくるでしょう。しかし、多くの人は、これまでのような外出自粛や休業はしたくないし、経済的にもできないので、ある程度感染者がふえても社会経済活動を続けたいと思っているはずです。
「ここまで感染者が増加すれば第二波と認定して、再び緊急事態宣言を出す」という基準があらかじめ決まっていれば、人々は日々の感染者数の推移を見ながら行動をコントロールできます。
そうした行動が「新たな日常」になります。


安倍首相が基準を示さないので、私なりに考えてみました。
手掛かりに、外国の感染対策のやり方を見てみます(「日本モデル」などと言って自慢している人は、日本と外国を客観的に比較することができないでしょう)。

ドイツはヨーロッパでの感染対策の優等生で、都市封鎖をしだいに緩和し、ブンデスリーガも無観客ながら5月16日に再開しました。

ドイツの過去1か月の新規感染者数のグラフです。
ドイツのグラフ
都市封鎖を緩和しても感染者は増加せず、ここ数日は500人前後で推移しています。
ドイツの人口は約8300万人ですから、日本に換算すれば750人ぐらいです。

下は日本の過去4か月間の新規感染者数のグラフです。
日本の新規感染者数
感染者がいちばん多いときでも700人余りです。
つまり日本の最悪のレベルでドイツは緩和して、ブンデスリーガを再開しているのです。
日本は医療崩壊を恐れて過剰に反応していたかもしれません。
最近、日本に緊急事態宣言の必要はなかったという説が言われるのももっともです。

ということは、1日の感染者数がドイツ並みの750人ぐらいまでは日本も許容できるはずです(ちなみに、ここ10日間の日本の感染者数は50人以下です)。
もちろん医療体制を強化して、それだけの感染者数に耐えられるようにしなければなりません。
それと、感染者数が急速にふえずに、ある程度横ばいにコントロールされていることも重要です。


スウェーデンは、法律で禁止するのは「老人施設への訪問」と「50人以上の集会」だけで、リモートワークやソシアルディスタンスは推奨されますが、外出自粛や休業要請のようなものはなく、ほぼ通常の社会経済活動をしています。それによって「集団免疫」の獲得を目指すという方針です。
外国からはいろいろ言われていますが、この方針は国民から高い支持を得ています。なによりも通常に近い経済活動ができているのが強みです。

スウェーデンの過去1か月の新規感染者数のグラフです。
スウェーデンのグラフ

ずいぶん波がありますが、横ばいであるのは事実です。
平均すると1日400人から500人ぐらいです。
スウェーデンの人口は約1000万人なので、日本に換算すると5000人から6000人ぐらいです。

日本で毎日5000人の感染者が出るというと多いようですが、スウェーデン人が受け入れているのですから、日本人が受け入れられないという理屈はありません(医療体制の問題はありますが)。
日本の感染者の致死率は約2%ですから、年間約3万5000人が亡くなる計算です。

日本における肺炎の死者は年間約9万5000人です(誤嚥性肺炎を除く)。そこに約3万5000人の新型コロナ肺炎の死者が加わるわけです。
これはずっと続くわけではなく、1年か2年で集団免疫が獲得され、死者は減少します。
こう考えると、けっこう現実的な道ではないでしょうか。

ブラジルは国としての感染対策をほとんどせず、感染者が増大し続けていますし、アメリカもトランプ大統領が経済活動を優先させたがっているので、この両国がいち早く集団免疫を獲得する可能性があります。

集団免疫は意外と早く獲得できるかもしれないということを、西浦博教授が『8割おじさん・西浦教授が語る「コロナ新事実」』という記事で語っています。


このように外国の状況を見ると、日本人はこれまで感染者数の増大を恐れすぎていたことがわかります。


では、どのレベルで「第二波」と認定して、緊急事態宣言を発出すればいいのかということですが、とりあえずかつて日本で最悪の状況であり、かつ現在のドイツと同じレベルである、1日の感染者が700人程度とするのがいいのではないでしょうか。
日本人は一度経験しているので、その程度ならオーバーシュートしないという安心感が持てます。

いずれにせよ「新たな日常」とは、新型コロナウイルスと共存する生活になるはずです。