ブルーインパルス
河野太郎ツイッターより

5月29日、自衛隊のブルーインパルスが新型コロナウイルスに対応中の医療従事者などへ「敬意と感謝をお届けするため」に東京上空を飛行しました。

前日にこの予告を聞いたとき、私は「空から病院へマスクや防護服などを投下するのか」と、皮肉を込めて思いました。
それから、空に赤十字のマークのような、医療を象徴するものを描くのかと思いました。これは皮肉ではなく、ブルーインパルスというと空に五輪のマークを描くというイメージがあるので、あるかもしれないと思いました。

そもそも曲芸飛行は、過去にいくつも悲惨な事故を起こしていて、するべきではないという意見もあります。
ただ、今回は曲芸飛行はなくて、スモークを出しながらの編隊飛行でした。


私が皮肉っぽいことを考えたのは、医療従事者へ「敬意と感謝をお届けするため」というところに“安倍臭さ”を感じたからです。
同じことを感じたのかどうかはわかりませんが、今回の飛行に反対する声がけっこうありました。

たとえばラサール石井氏はツイッターで、医療従事者には「空を見上げる余裕もない」「政府の緊急かつ具体的な支援を医療関係者の皆様にお願いします」と述べました。
共産党の紫野あすか三鷹市議は「ブルーインパルスが飛んだらなぜ医療従事者を励ます事に繋がるのか全く理解出来ない」とツイートしました。
どちらの意見も賛否両論を巻き起こしましたが、こういうことを言いたくなるのはわかります。

しかし、今回のブルーインパルスの飛行がまったく無意味とはいえません。
ジェット機の編隊飛行は、それだけでアトラクションとしての価値があるからです。
見て楽しんだ人も多かったはずです。

今はコロナ禍のために旅客機がほとんど飛んでいなくて、東京上空でアトラクションのための飛行をするにはちょうどチャンスです。
実にいいアイデアです。
多少の経費はかかっても、それ以上に東京都民を楽しませたはずで、その意味では成功でした。


ブルーインパルスの飛行自体はいいのですが、問題は「医療従事者のため」という理由をつけたことです。
ブルーインパルスの飛行の前では、医療関係者も一般人も反社勢力も区別がないので、どうしてこれが「医療従事者のため」なのかという疑問が生じます。
また、「医療従事者のため」を言うなら、マスクの一枚でも現場に届けろよということにもなります。

最初から「都民のみなさま、不自由な生活の気晴らしにブルーインパルスの飛行をお楽しみください」と言っていれば、よけいなことを考えずに純粋に楽しめました。


よけいな意味づけをするのは、安倍首相がよくやることです(今回の飛行は河野太郎防衛相のアイデアだったようですが、安倍首相風に意味づけされています)。

3月、安倍首相がIOCのバッハ会長と電話会談をして、東京オリンピックの1年程度の延期を決めたとき、安倍首相は「人類が新型コロナウイルス感染症を克服した証として五輪を開催したい」と語りました。
オリンピックが「感染症を克服した証」などという重荷を背負わされたのでは、楽しくありません。オリンピックはあくまでスポーツとして純粋に楽しみたいものです。

安倍首相は東京オリンピックを誘致するときも、「東日本大震災から復興した証」ということで「復興五輪」を掲げました。
これは誘致のときにアピール材料として使っただけで、今では「復興」ということはあまり意識されなくなりました。

しかし、もし来年東京オリンピックが開催され、「感染症を克服した証」という意味づけがされたら、たいへんです。
おそらくそのときには感染症はまだ完全には克服されていないので、「克服した証」という建て前で現実を塗りつぶすようなことをしなければなりません。これは考えるだけでうんざりです。

来年東京オリンピックが開催されるのはかなりむずかしそうですが、もし開催されたときは、「感染症を克服した証」などという意味づけはやめて、スポーツの祭典として純粋に楽しみたいものです。