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中曾根康弘元首相の合同葬儀に約9600万円の国費が投入されるという報道が9月末にあったとき、「高すぎるのではないか」という批判の声が上がりました。

私自身は、こういう葬儀の相場を知りませんし、高いかどうか判断することができません。
私が気になったのは、金額よりも「内閣・自由民主党合同葬儀」という形式です。費用は国と自民党が折半するということで、それはいいのですが、国家と特定の政党が共同でなにかをやっていいのかと思いました。
しかもそれは葬儀という半ば宗教的な行為でもあります。

内閣府のホームページには、「令和2年10月17日(土)午後2時から」という告知とともに「開催趣旨」としてこう書かれています。
中曽根元総理は、約5年にわたり内閣総理大臣の重責を担われるなど、生涯を通じ、我が国の繁栄のために全力を傾けられたご功績及び合同葬儀の過去の先例等を総合的に勘案して、内閣と自由民主党の合同葬儀として執り行うものです。
https://www.cao.go.jp/others/soumu/goudousou/goudousou.html

法的な根拠は示されていません。
国家が特定の政党と特別な関係を結ぶというのは、まともな国家のあり方とは思えません。
一党独裁の共産主義国家なら別ですが。

調べてみると、「国庫から中曽根元首相の葬儀費9600万円を支出は妥当? 金額にはやむを得ない面も」という記事が合同葬の歴史を紹介していたので、そこから一部を引用します。

 では約半額を国庫から支出する「内閣・自由民主党合同葬」の妥当性を考察してみます。

 自民党が結成された1955年以来の歴代首相(同党出身)のうち鳩山一郎(初代)、石橋湛山(2代)池田勇人(4代)の各氏は自民党葬のみ。佐藤栄作氏(5代)は内閣と自民党に加えて氏の功績であった沖縄返還などの関係者ら「国民有志」が共催する「国民葬」が実現しました(75年)。

 それに先立つ67年には終戦直後から自民党結成直前まで日本を率いた吉田茂氏の「国葬」がなされています。前述のように国葬令は廃止されていたので名は同じでも閣議決定による「内閣葬」です。全額国費で実行されました。

 吉田氏はもちろん、佐藤氏も戦後政治に大きな足跡を残したのは反対者も含め認めるところで大きな反発は起きていません。

 80年、史上初の衆参同日選挙で陣頭指揮を採っていた大平正芳首相が急死。同情票もあいまって戦前の予想を覆す大勝を自民党にもたらしました。死去までの自民は事実上の分裂状態。それが急に「弔い合戦」の旗の下でまとまってまさかの勝利をもたらしてくれたので文字通り命をかけた結果です。戦後初の現職首相の死でもあったため国葬レベルも検討されたものの「内閣・自由民主党合同葬」に落ち着きます。これが今日までの先例となりました。

要するに現職首相が急死して、国民の同情が高まっているどさくさまぎれに内閣・自民党合同葬が行われ、それが前例となったのです。

国家と特定政党が結びつくのはおかしなことです。
これまで亡くなった元首相はたまたますべて自民党所属だから自民党に偏っているだけだという考えがあるかもしれませんが、ルールなしに合同葬が行われてきたのが問題です。
合同葬を行うなら、最初から各政党が公平になるようなルールをつくって、そのもとで行うべきです。
政党助成金も、最初にルールをつくって、公平に配分しています。


結局、内閣は恣意的に自民党との合同葬儀を行ってきました。
自民党は与党なので容易にそうすることができますが、本来国家機関と政党は厳密に区別されるべきで、内閣と政党の合同葬などはあってはならないことです。
これは国家と政党の癒着というしかありません。

ジャパンライフ事件では、山口隆祥会長が桜を見る会に招待され、その招待状の写真をパンフレットに載せて勧誘に利用していました。国家とつながりのあることは信頼感を生みます。
自民党も国との合同葬をしたことを投票呼びかけに利用することができます。
というか、利用するまでもなく、合同葬のことがマスコミで報道されるだけで自民党が有利になります。

中国では、共産党以外にも合法的な政党が八つあります。共産党は特別な地位にあるわけです。
日本も中国に近づいているのではないでしょうか。



そして、合同葬に向けてこんな動きのあることがわかりました。

故・中曽根氏の合同葬 文科省が国立大に弔意の表明を求める
17日に実施される内閣と自民党による故中曽根康弘元首相の合同葬に合わせ、文部科学省が全国の国立大などに、弔旗の掲揚や黙とうをして弔意を表明するよう求める通知を出したことが、分かった。13日付。識者からは政府の対応に疑問の声が上がっている。
 政府は2日、合同葬当日に各府省が弔旗を掲揚するとともに、午後2時10分に黙とうすることを閣議了解。同様の方法で哀悼の意を表するよう関係機関に協力を要望することも決めた。加藤勝信官房長官は2日付で、萩生田光一文科相にも周知を求める文書を出した。
 文科省はこれに基づき、国立大や所管する独立行政法人、日本私立学校振興・共済事業団、公立学校共済組合などのトップに対し、加藤長官名の文書を添付して「この趣旨に沿ってよろしくお取り計らいください」と記した通知を出した。
 都道府県教育委員会には「参考までにお知らせします」として加藤長官名の文書を送付。市区町村教委への周知を求めた。
 総務省も7日付で都道府県知事や市区町村長に「政府の措置と同様の方法により哀悼の意を表するよう協力をお願いいたします」との文書を発出している。
(後略)

これに対して、中曽根元首相の個人崇拝みたいなことはよくないという声が上がっています。

私自身は、それよりも、自民党の名前が入った葬儀に国民が黙とうするのでは“政党崇拝”になるのではないかと思います。
国が国民に特定の政党を崇拝させるというとんでもない行為です。

「内閣・自民党合同葬」という形式こそが問題です。