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ヨーロッパに発した近代文明は、世界中に人種差別と植民地支配と奴隷制と戦争による悲惨をもたらしましたが、ヨーロッパ自身は植民地支配と奴隷制によって潤いました。
その後、ヨーロッパは植民地支配と奴隷制を放棄しましたが、いまだに反省も謝罪もしていません。植民地支配によって野蛮人を文明化してやったという認識でしょう(日本が韓国や中国と歴史認識でもめるのは、ここに根本原因があります)。


フランスの風刺新聞「シャルリー・エブド」がムハンマドの風刺画を載せたことで2015年にイスラム過激派に本社が襲撃され、12人が殺害されるという悲惨な事件がありました。

そして、今年の10月2日付の「シャルリー・エブド」がムハンマドの風刺画を再掲載し、議論を呼びました。これについてマクロン大統領は「フランスには冒涜する自由がある」と言って風刺画掲載を擁護しました。

10月16日には、表現の自由を教える題材としてムハンマドの風刺画を生徒に見せて授業をした中学教員サミュエル・パティ氏が、パリ近郊で首を切断されて殺害されるという事件が起きました。犯人はロシア国籍で18歳のチェチェン系難民の男性で、その場で警官に射殺されました。

教員殺害もシャルリー・エブド本社襲撃も絶対に許されないことです。
ムハンマドの風刺画を載せるのは「表現の自由」の範疇ではありますし、パティ氏は生徒にムハンマドの風刺画を見せることを予告して、見ない選択肢も与えたそうです。

18日にはフランス全土でパティ氏殺害に対する抗議デモが行われ、表現の自由とテロ反対を訴えました。
21日にはパティ氏の国葬が行われ、参列したマクロン大統領は「あなたが生徒たちに教えた自由をこれからも守り、政教分離を貫く。風刺画を見せる自由も諦めない」と述べました。


マクロン大統領の認識は根本的に間違っています。

これは「表現の自由」の問題ではありません。
たとえば日本にも一応「表現の自由」はありますが、誰もムハンマドを風刺しません。
シャルリー・エブドがムハンマド風刺画を掲載したのは、「表現の自由」があるからではなく、反イスラム主義の思想があるからです。
ムハンマドを風刺するのは、イスラム教徒を風刺するのとはレベルが違って、イスラムそのものへの冒涜です。

マクロン大統領としては、シャルリー・エブドの編集方針に口を出すことはできませんが、「イスラムを冒涜するのはフランス人の総意ではない」と言って、イスラム教徒の怒りをなだめることもできました。
しかし、マクロン大統領自身に反イスラム感情があるために「フランスには冒涜する自由がある」と言って、火に油を注いでしまったのです。
反イスラム感情は多くのフランス人に共通で、さらにはヨーロッパ人にも共通です。


この問題が「表現の自由」の問題でないことは、次の記事を読めばわかるでしょう。

動画拡散のモスク閉鎖へ 仏、過激派対策を強化 教員殺害テロ
フランス・パリ近郊で中学校教員サミュエル・パティさん(47)が殺害されたテロ事件を受けて、仏政府は21日、イスラム過激派対策の一環として、パリ郊外セーヌサンドニ県にあるモスクを閉鎖させる。モスクの責任者がパティさんを非難する動画をSNSで拡散させたことが理由だとしている。
仏メディアによると、モスク責任者が拡散させたのは、パティさんの中学校に通う生徒の保護者男性(48)が投稿した動画。動画では、パティさんが授業でイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を題材にしたことを問題視し、パティさんの辞職を求める運動に加わるよう呼びかけ、連絡先として保護者男性の携帯電話番号を公表していた。

 仏紙パリジャンによると、警官に射殺されたアブドゥラフ・アンゾロフ容疑者(18)は事件前、保護者男性と携帯電話でメッセージをやりとりしたという。検察は21日の会見で、動画と事件には「因果関係」があると指摘し、保護者男性を拘束して調べている。

 治安を担当するダルマナン内相は20日、テレビ番組で「問題は(フランスで)今後テロが起きるかではなくて、いつ起きるかだ」と訴え、治安維持のための規制強化に国民の理解を求めていた。

 ただし、動画では暴力の行使は呼びかけておらず、AFP通信によると、モスク責任者はモスク閉鎖について「政府が強い姿勢を示して国民の動揺をやわらげる必要があるのだろう」と皮肉った。

 また、マクロン大統領は20日、イスラム過激派対策を話し合う会議に出席し、「国民は行動を求めている。(過激派対策の)行動を強化する」と強調。仏政府が今回の事件をあおったと認定する団体を解散させることを明らかにした。

 解散させる団体は、仏政府がイスラム過激派と判断するアブデラキム・セフリウィ氏(61)が代表を務める。セフリウィ氏は、パティさんがムハンマドの風刺画を題材にした授業をした後、パティさんを「悪党」と非難する動画をSNSに投稿し、殺害事件後、仏当局に拘束された。(パリ=疋田多揚)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14666871.html?pn=2

パティ氏への抗議を呼びかける動画をある保護者男性が「表現」したら、その男性は警察に拘束され、動画を拡散した人が責任者を務めるモスクは閉鎖されました。
また、パティ氏を「悪党」と非難する動画を「表現」した人物も警察に拘束され、その人物が代表を務める団体は解散させられます。

「表現の自由」がまったくダブルスタンダードになっています。
「反イスラム主義」が優先されているからです。


フランスでは公立学校や公共行事で宗教上の帰属を明示的に示す標章や服装を禁じる宗教シンボル着用禁止法が2004年に成立しました。
この法律は、公立学校にスカーフをしてくるイスラム教徒の女子生徒がかねてから問題になっていたことから制定されたもので、スカーフ禁止法ともいわれます。
そして、2010年には公立学校に限らず人目につく場所で顔をおおうスカーフや服を禁止するブルカ禁止法が成立しました。
スカーフ禁止法は十字架なども禁止するものでしたが、ブルカ禁止法はイスラム教徒を対象にしたものとしか考えられません。

フランスはファッションの本場で、ファッションショーには奇抜な服装や肌を大きく露出した服装がいっぱい出てくるのに、顔をおおうファッションを禁止するのは理屈に合いません。
イスラム教徒への憎悪が生んだ法律です。

フランス人は自分の反イスラム主義を「表現の自由」や「政教分離」を掲げて正当化しているので悪質です。


日本では、この問題でフランスを批判する人をほとんど見かけません。
日本の知識人はもっぱらヨーロッパの文化を受け売りすることで商売してきたからでしょう。